21 決着(♦︎)(♣︎)
色の薄らいだ夕日が、明るさを増した一番星が視界に入る。
スザク先生が飛びかかってきたのに気がついた瞬間に、もう弾き飛ばされ、地面に倒されていた。
見えても、反応が間に合わない。
これが、5速。
脳が、全力で警報を鳴らす。
動け、立て、駄目だ!
光の矢が降ってくるのが見える。
それは、俺の脳が見せる、スザク先生の攻撃。 5速の突進で、かわす間もなく吹き飛ばされ、地面に倒れた俺に、凄まじい速度で飛びかかってくる、先生。
身体をよじり、回転しながらかわして、何とか足をもつれさせながら立ち上がる。
地面に膝をついたスザク先生が一瞬見えて、消えた。
左……から、右!
何とか両腕を回してガードするが、再び吹き飛ばされた。
地面に倒れ込む。
まずい、これで抑え込まれたら。
まずい、まずい、まずい。
右、左、あちこちに動きながら、先生が飛びかかってくるのが、その軌道が見える。
でも速すぎる。見えても、対処が間に合わない。
こんなの、どうすりゃ……!
立ち上がろうとした瞬間、背中の方から体当たりされ、吹き飛ばされてうつ伏せに地面に倒れ込んだ。
意識が、ぐらぐらする。
なんだよ、これ……。
これが、警邏官の実戦用「ノード」。
めちゃくちゃだ……。反則だろ……。見えてるのに間に合わないなんて……。
ちくしょう……。
「コテツ!!!!」
キリンの声が聞こえた気がした。
その瞬間、世界の輝度が上がった。
夕闇が迫る中、確かに、あたりが明るく見える。
スザク先生の動きが、さっきまでより遅く見える。
はっきりと、先生が持つ手錠の鍵穴まで見えた。
身体を起こして、手錠をかけようとした先生の手をかわすと、すれ違いざま、手刀で手錠を叩き落とす。
「!?」
先生が驚きの表情を浮かべながら、たたき落とされた力を利用して、身体を回転させながら放った裏拳をかわすと、先生のがら空きになった胴のあたりが光って見えた。
「おおおおおっ!」
俺は、身体をひねり戻しながら、全力で先生の胴のあたりに渾身の「砲撃」を叩き込んだ。
「ぐおっ!」
入った。
と、思ったが、手応えが、硬い。
瞬時に、スザク先生は身体をよじりながら右膝を上げてガードした。
バランスを崩しながら、先生は後ずさった。
「てめぇ……ふざけんなっ!」
スザク先生の怒りの形相。
そこからのことは、見えなかった。
気が付いたら、仰向けに倒れ、両手を上にした状態で、俺は手錠をかけられていた。
***
「……そんな……」
力が抜けて、私は校庭にへたりこんでしまった。
あそこまで追いつめたのに。
最期は、何も見えなかった。
叫んだスザク先生が、気が付いたら、コテツを仰向けに倒して、手錠をかけていた。
5速より、遙かに速い動きで。
……ん?
あれ?
5速より速い??
試験は、5速までじゃ??
「……ララ先生」
「ん?」
「あれ、反則じゃないですか?」
「うん、そうよ。だって、この試験、5速までだもん。馬鹿じゃないの、生徒相手に、本当に本気出すなんて。まぁ、でも、珍しいもの見れたわね。スザク先生の「時間止め」。ほんっとうに見えないんだなぁ」
「えーと、それじゃ……」
「あ、そうよ。とりあえずおめでとう」
スザク先生が、コテツを引っ張って立たせた。
***
「勝負は、俺の勝ち」
「……はい……」
スザク先生が、手錠の鍵を外し始めた。
終わった、か。
でも、できるだけのことはやった。
ここまでできたんだ、警邏官になれなくても、俺は……。
「試験は、お前の勝ち」
「……え?」
「10分逃げ切る奴なんて、ほんとにいるんだな。勉強になったわ」
「俺、逃げ切ったんですか」
「ああ。何回も担任を殴りやがって。頭に来たから、本気出して捕まえてやった」
え、あ、それじゃ……。
視界の端に、夕日を反射する、金色の髪の毛が見えた。
キリンの笑顔。
「コテツは、1の試験、合格。他の生徒は、明日の午前中に結果を張り出す。寮に戻っているやつらにも伝達しておくこと」
スザク先生の声を聞いて、キリンやソラ、スパナが飛び跳ねているのが見えた。ドレイクは、腕を組んだまま、そっぽを向いていた。
そして、エレナ達のグループは、地面に唾を吐いたり、舌打ちをしながら、寮の方に消えていった。
***
教官室に向かいながら、俺はララと今日のコテツのことを話し合っていた。
「よくかわしたわね、コテツくんのあの痛そうな突き」
「喰らったら、吐いてたな」
「で、何だったの?」
「全然分からん。分からんが……確かに、俺の動きが先読みされてた。まるで、未来が見えるかのように」
「未来予知? そんな馬鹿な。あり得ない。そんな「ノード」はどんな文献でも見たことがないわ」
「だが、それを仮定すれば、あいつの入学試験の結果も、普段の組み手の強さも全部説明がつく。1対1の相手の動きが全て先に分かる、それと、正確に急所が見える。そんなことができるなら、入試の試験官が倒されたのも、納得だ」
俺だって、試験のハンデ付き、体当たりしかできない状態じゃ、勝てなかった。
見えないレベルまで速度を引き上げれば、予知も何もないだろう、と仮定して、どうにか取りおさえたのだから。
「それからもう一つ。キリンの声が響いた後、明らかにコテツの動きが速くなった」
「あ、やっぱりそうよね。……あれは……」
「何か思いつくか?」
「⋯⋯やっぱり、恋の力かしら!」
「そうじゃねーだろ!」
「えー、そうじゃないと、つまらないわ」
駄目だ、ララはララで、そっちの話題になると頭がおかしい。
自分で考えよう。
あれは、どう考えても「速く動く力」の共同行使。」
触れてもいないのに? しかも、まだキリンは「ノード」を覚醒させてないのに?
……専属契約?
駄目だ、分からないことが多すぎる。試験の結果がどうであれ、王都技術局には報告だな。
読んでいただいてありがとうございます!
試験は次のフェイズに進みます。徐々に主人公達の力も明らかになっていきます⭐️
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