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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
21/65

20 5速(クゥインク)(♦︎)

 会場は、校庭の真ん中だった。四方を、太い杭に巻き付けられた赤く太いロープで囲まれた空間。結構広く、端から端まで、100歩くらいはあるようだった。


 そのロープから少し離れたところから、取り囲むように20人くらいの生徒達が立っていた。本当に勉強しに来ている奴も混ざっているようだつたが、多分、興味本位で……俺が落第する瞬間を見ようとしてる奴らもいそうだった。

 

 少なくとも、1年生の頃からキリンと俺を目の敵のようにしている、エレナのグループは間違いなくそうだろう。にやにやしながら、スザク先生の前に向かう俺を見ているのが分かった。


 視界の端に、腕組みをしているドレイクが見えた。

 こいつは……。


 何でお前、心配そうな顔してんの?

 俺のこと、嫌いなんじゃなかったけ。

 ほんと、変な奴。


 ドレイクの影に隠れてるけど、ソラとスパナもいるな、あれ。


 何故か分からないけど、少し気が楽になった。

 キリンは……。あいつも順番、最期の方だったからな。いないか。

 

 また、あいつにひっぱたかれる訳にはいかない。

 いや、受かったら、かえってまた、ひっぱたかれる機会が増えるのか?


 「なんだ、余裕じゃないか。ここで笑顔だったやつは、経験上、初めてだぜ」


 腕組み、仁王立ちのスザク先生が、俺を見つめていた。


 「お前の兄貴のハルも、笑顔だったらしいけどな」

 「多分、理由は違います。ハルは、本当に余裕があったんでしょ」


 「お前は?」

 「単なる思い出し笑いです」


 「十分、余裕じゃねーか」


 スザク先生が、首を左右に振って、ゴキゴキと音を鳴らし、朝礼台の脇に設置された大きな置き時計を指さした。

 「この試験が満点じゃなかったら、お前は終わりだ。そして、俺が赴任して以降で、この試験で満点を取った生徒を知らない」


 「何で、始める前にプレッシャーかけるんですか?」


 「お前がやろうとしてることは、絶望的なことだから、失敗しても、落ち込む必要はないってことだ」


 「なんだ、気を遣ってくれたんですか。それじゃ、そんなの不要です。自分、一対一は、強いですから」


 半分は自分への言い聞かせだった。

 スザク先生が、笑みを浮かべた。

 

 「良いじゃないか。お前、やっぱり向いてるよ。例え、警邏官になれなくても……いや、それは終わってからにしようか。じゃあ、日が暮れる前に、始めよう」

 

 スザク先生が、手元の懐中時計に視線を落とした。


 「時計合わせ……試験開始」


 かちり、と懐中時計のボタンを押し込んだ。

 

 俺は迫り来るスザク先生の瞳をのぞき込んだ。


 ただでさえ、クソ兄貴のせいで色眼鏡で見られてるのに、こんなこと言ったら、馬鹿にされるだろうと思って、誰にも言ってこなかったけど。


 瞳をのぞき込むと、相手の動きが読める。

 それどころか、弱点も光って見える。

 

 一番最初は、森で巨大な狼に襲われた時だった。

 

 母親にも、地域のおじさん達にも、絶対に行くな、と言われていた。巨大な狼が一匹、近所の森を縄張りにしたと。

 いじめられてて、その森を遊び場にしていた8歳の馬鹿な俺が、忠告も聞かず、森に行って、襲われた。

 気が付いたら、自分の3倍はある巨大な狼が、俺を睨みつけていて、その燃えたぎるような赤黒い瞳が面前に迫り、純粋に、あ、死ぬんだと思った瞬間。

 身体をよじって、俺は狼の突進をやり過ごしていた。

 急に俺を見失った狼は、俺の後ろの大木に頭をぶつけて、ふらふらと地面に倒れ込んだ。

 狼の動きが、そしてどうすればかわせるか、くっきりと、頭に浮かんだのだ。


 俺の右腕をとらえたと思ったスザク先生の右手が空を切る。


 「え?」


 スザク先生が、不思議そうな顔で、距離を取った俺の方を見ていた。


 「……何だ? お前……」


 何かを確かめるように、スザク先生が再び俺との距離を詰める。

 最初の2分。まだ「速く動く力」は1段階目。ちょっと動きが速いと感じる位。


 全神経を集中させる。先生の動きは、まるで時間がゆっくり流れているように、遅い。

 先生の身体の、手の、動きの軌道を見つめながら、俺の身体に届く瞬間ぎりぎりまで引きつけて、かわす。

 

 スザク先生が、バランスを崩す。

 先生の背中の左わき腹あたりが、光って見える。


 「うおおおっ!」

 俺が放った、身体の回転を効かせた右手掌底の「砲撃(フラルゴ)」は、しかし、空を切った。

 

 先生が、後方宙返りをして、着地し、俺を睨みつける。

 明らかに、警戒した顔で。


 「確かに、攻撃しちゃだめだ、とは言ってない。よく気付いたな。気付いたの、今日の試験ではお前が初めてだぜ」


 「10分逃げ切らなくても、先生が気絶したら俺の勝ちですよね。前に言いましたよね、俺の「砲撃(フラルゴ)」が上手く当たれば、教師級警邏官だって、失神するって」

 「ああ……だが……」


 先生が、深呼吸をした。


 「お前、国家高度戦力の教師級教官を倒す、だと?」

 

 スザク先生の顔つきが、変わった。

 見たことのない、刃物のような鋭い表情。

 

 こっちが、本性。


 「ガキが……最初の2分はおしまいだ。2速(ドゥオ)、行くぜ」

 

 スザク先生の動きが、明確に速くなった。


 でも。

 

 俺は次々に繰り出される先生の徒手を、蹴りを、俺をつかもうとする全ての攻撃を、引きつけながら、全てかわす。

 次第にお互いのリズムが上がってくる。


 ほんの2分。

 ひどく長く感じる。

 

 「3速(トリア)!」


 4分を切り抜けた。

 更に、先生の動きが速くなる。


 動きは見えている、でも、少しずつ、先生の手が、足が、俺の身体をかすめ始めている。

 段々、俺の反応を、先生の速度が上回り始めている。

 もっと速く。

 予測できている動きに合わせて、動き出しをもっと速く。


 「4速(クゥアトル)!」

 6分を切り抜けた。


 未来の先生に合わせて。

 先に、先に動く。

 来ると分かっている場所から、先生が動き出す前に、先回りして、動く。

 感覚がつかめてくる。

 

 先生の手が、足が、空を切り続ける。

 先生の隙。

 先生の額を狙った俺の右手の突きを、先生が左手で払いのけて流す。その動きに合わせてガードが空いた先生の腹に蹴りをたたき込んだ。

 

 「ぐっ」

 

 生徒達のざわめきが聞こえた。

 

 入った。

 が、思ったより手応えがない。


 先生が再び、後方宙返りしながら距離を取る。 当たる瞬間に、後ろに飛んで力を吸収された。


 多分、全然ダメージはない。

 でも。

 

 「お前……」

 信じられない、というような表情だった。

 

 攻撃に転じれば、その分時間がとれる。

 

 先生がため息をついた。


 「8分、経っちまった。今日、ここまで来た奴はいないぜ。正直、結構感動してる」

 スザク先生が、深く息を吸い込む。


 「4速までは、警邏官の「基本ノード」だ。ここからが、「実戦用ノード」。質が変わる」

 

 はったりじゃない。

 空気が張りつめていく。

 

 「いくぜ、5速(クゥインク)

読んでいただいてありがとうございます!

次回、決着です。もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

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