19 試験1の3(♦︎)(♣︎)
夕暮れが近づく少し前。
黒い鳥と、灰色の鳥が学校の上の空を、海の方を背にして森の方へ飛んでいく。
学校の東側の校庭に集められた60人の生徒達の影が、昼間よりも長く伸び始めていた。
陽が落ちて、夕食を食べる頃、この中で少なくとも、自分だけは1の試験の結果を知っていることになる。
なぜなら、試験1の2が落第点の自分は、試験1の3が満点である場合以外、ここで終わりだから。
ある意味、一番すっきりとして、夜を迎えられるじゃないか、と思ったら不思議と気持ちが軽くなってきた。
「さて、試験1の3。今日の最期の試験をはじめる。夕日が落ちるまでには終わるので、そこは安心してほしい」
スザク先生が、校庭に設置された朝礼台に立って、60人の生徒たちを見渡した。
「最期の試験は、まぁ、簡単に言ったら、鬼ごっこだな」
生徒たちがざわめく。
実技の、大事な試験で鬼ごっこって。
「今、そこに立ってるのが王都から派遣された試験官だ」
え、どこ?
と思った瞬間、紺色の警邏官服を着た人影が5つ、朝礼台の両脇に現れた。
男性が3人、女性が2人。スザク先生よりも若手に見える。
「試験は1対1。ここにいる6人の試験官の誰かが相手。「速く動く力」で、おまえ等を捕まえて、手錠をかける。逃げた時間が長いほど、高得点だ、つまり」
スザク先生が、俺の方を見た。
「10分逃げ切ったら、満点ということだ。2分ごとに、試験官は「速く動く力」の速度を上げる。つまり、どんどん、難易度が高くなるってここと。最後の2分間は、5速。実戦用の速度だが、まぁそこまで行く奴は少ないかな。最初の2分間の1速で捕まったら落第だから、気をつけるように。試験官は体当たりと捕縛動作に限定して仕掛けてくるから、頑張って切り抜けるように」
生徒たちは静まりかえり、森の方で風が木々を揺らす音が聞こえた。
「試験会場は、これから6カ所設置する。1の2の試験と同様、くじ引きで試験会場と順番は決まるから、この三つの壷から順番にくじを引くこと」
あれ、6カ所、6人。
王都の警邏官は、5人?
「もう一人の試験官は?」
誰かが声を上げた。
「俺に決まってるだろ? あ、言っておくけど、俺が一番ハズレだから。6人の中で一番強いし、担任として、一切容赦しない」
スザク先生の切れ長の目が、鋭さを増した。
「ここを抜けられないようじゃ、実戦を生き残れない。だから、ルールの範囲で、俺は全力で捕まえにいく」
そう、普段、軽い口調で、おちゃらけてることが多いけど。
本当は、ララ先生と同じくらい、怖い人だってことは、みんなが知っていた。
そして、当然のように、俺はスザク先生の会場で試験を受ける10人の、最期の番号を引いた。
***
試験を待つ生徒は、東側校舎の教室で、会場ごとに呼ばれるのを待たされていた。
キリンも、スパナ、ソラ、ドレイクも、きれいに全員ばらばらだった。だけど、今はかえって、それで良かったかも知れない。
結果次第じゃ、ここでさよならってこともあるから。
というより、その可能性の方が高い。多分、聞いた限りだとあの4人は、1の3でヘマをしなければ、試験2に進める。筆記も出力もそれぞれ良かったようだ。スパナは、ちょっと1の3が心配だけど、2分間くらいなら逃げ切るんじゃないだろうか。
一次試験で落ちた生徒は、明日の発表以降、退寮手続きになる。厳しいようだけど、寮に国の金でいられるのは試験終了までというのが、入寮の時から言われていたルールなので、そこに文句を言う生徒はいない。
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
駄目だった時のことを考えるのはやめにした。
試験の前に、試験の様子を見るのは予習になるから駄目とのこと。ただ、終わった生徒は、試験前の生徒との接触は禁止されていたが、試験の様子を見るのは自由とのことだった。
試験が終わって、落ち込んだ様子で寮の自分の部屋に帰って行く生徒もいれば、上手くいったのか、興奮した様子でどこかの試験会場に向かう生徒もいた。
試験の全体監督をしているスザク先生の準備の関係で、自分の会場が一番遅く進行しているらしかった。教室に残る生徒もどんどん減っていく。
教室に夕日が射し込み、一番星が、森の上の紺が混じり始めた空に輝きを増し始めた頃。
「コテツ君、順番よ」
ララ先生が、教室の入り口から俺に呼びかけた。
「本当に一番最後の最期になっちゃったわ。待たせてごめんね」
「いえ、頭の中でたくさん準備できたんで、良かったです」
緊張で胃が痛いくらいだったが、イメージの中でトレーニングをしていたのは本当だったので、精一杯強がった。
そうでもしないと、押しつぶされそうだった。
「他の会場で終わった生徒達が結構、スザク先生の会場に集まってきちゃってて、それもやりづらいかも知れないけど、逮捕術を見る機会っていう意味合いもあって、毎年のことなの。ごめんね」
「……分かりました……」
***
時計が、6分を経過した。そこからの試験管の動きは、もう目で追えなかった。何とか音と気配を頼りに、身体をよじり、体勢を低くして、飛びかかられた瞬間にかわすことを数回。
次の瞬間、足をすくわれ、両手で受け身を取りながら倒れ込んだところ、背中を押さえつけられて、後は、左手首、右手首と、手錠をかけられた。
「優秀ね。「ノード」なしで、ここまで逃げられれば十分よ。私、5分持たなかったもの」
女性の試験官がそう言いながら、私を立たせると、手錠の鍵を外してくれた。
なんにせよ、これで1の3の落第はない。
「ありがとうございました」
自分のことは終わった。
コテツ。
コテツは、スザク先生の会場だったはず。
最初に集められた校庭の中央の会場。
生徒達の、ざわめくような声が聞こえた。
「時間的に、最期の生徒かな。スザク教官の会場ね」
終わったのかな、と試験官がぼそっと言った。
喉が、からからに乾く。
私は、ざわめきの方へ急いでかけだした。
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