17 ゼロ(♦)(♠)
俺は、ちょっとした期待を持って、水晶の前に立った。
確かに、これまで、どの力も俺は上手く使えなかった。
だけど、本当は、何か隠された力が有るんじゃないか。
ちょっとぐらい、何か自分には優れた力が有るんじゃないか。
だから。
きっと、ここで、それが明らかになって。
俺の本当の力が分かるんだって。
天才の弟。そして犯罪者の弟。
お前等、ずっとそう言う目で見てきたろ?
得意なものは、一対一の組手だけ。
兄貴とは違うなって。そう思ってたんだろ?
悔しくはない。兄貴はすげぇ。
いや、本当は死ぬほど悔しい。
俺だってさ。
俺は、水晶に手を当てた。
生徒たちが、静まりかえり。
みんなが俺を見ていた。
静寂。
頭が真っ白になって、汗が噴き出してくる。
何をイメージすればいいのか、分からない。
そりゃ、そうだ。
何も、使えたことが無いんだから。
ララ先生の電撃。
スザク先生の、見えない速度の動き。
兄貴の、重くする力。
どれも、頭に浮かべてみたところで。
目盛りは、動かない。
一ミリも。
スザク先生が目を丸くしている。
スザク先生が水晶に指を一本触れると、黄色い光を放って、目盛りは勢いよく振れた。
「コテツ、二回目だ。やってみろ」
「……はい……」
分かってる。
俺は兄貴じゃない。
俺じゃ、駄目なんだ。
俺はもう一度水晶に手を置く。
でも結果は同じだ。
当然だ、やり方が、分からない。
何も変わらない。
目盛りは微動だにしない。
「0だ」
スザク先生の声が、凄く遠くから発せられたように聞こえた。
スザク先生が、俺の腕を掴んだ。
「三回目、やってみろ」
***
俺は再び屋上に来ていた。
さすがに、なぁ。
これは落第だろ。
元から、駄目なら最初からそう言ってくれよ。入学とかさせて。
4年もかけて色々教えて。
期待なんかさせるなっつーの。
とっくに気付いてたよ。1年生の時から。
みんなが使える力が、使えないんだもんさ。
でも、頑張れば、何とかなるんじゃねーか、と思っちゃったんだ。
試験に合格したら、「ノード」は使えるようになるって聞いてたから、試験にさえ合格すればつて。
だってさ、兄貴は、天才だぜ。
犯罪者だけど。
くそ。
あいつ。
あいつさえ、いなかったら。
ちょっとぐらい、もしかしたら、自分にも天才の力が眠ってるかもって、思うじゃん?
自分が、普通以下だなんて。
特別じゃないんだなんて。
本当は、船を作りたかったんだ。
馬鹿兄貴がいなかったら。
海を見てるのが好きだったから、遠くまで、どこまでも行ける船を作って。
そう、スクトゥムティアは、本当に行ってみたかったな。
金貯めて、遠くの国に行くか。兄貴の弟ってばれないような……。
バシン、と背中をひっぱたかれた。
何だよ。
キリンが、俺を睨みつけている。
「まさか、あきらめてるんじゃないでしょうね」
「何だよ……。ほっとけよ。良かったじゃんか、お前、凄い才能あるじゃん。先生達も驚いてたぜ。ソラだって……。スパナもドレイクも、高い方だった。」
「……たまたまよ」
「?」
「才能が0ってことないでしょ?」
俺の話かよ。
「「ノード」は今までもだめだった。そのまんまの結果だ。もう良いだろ、ほっとけよ」
劣等感を、上塗りすんなよ。
キリンは多分、警邏官になる。
それも、多分、凄く優秀な。
悔しくないと言ったら嘘になる。
頭も良いし、才能がある。
どっちもない、俺とは違う。
予備警邏官か。
予備警邏官補から、二等警邏官までは昇進できるって話だしな。
別の道もあるさ、ハルを捕まえる手伝いくらい……。
どがっと、何かに吹っ飛ばされた。
「……痛ってぇな! 何すん……」
荷物をぱんぱんに詰めたリュックサックで、フルスイングで殴りやがった。
怒ろうと思ったが、それ以上にキリンが吊り目を吊り上げて、めちゃくちゃ睨んでいる。
「……まだ終わってない!」
なんだよ。
別に、終わったなんて思ってねぇよ。
何でお前が怒るんだよ。
何でお前が泣いてんだよ。
馬鹿じゃねぇの。
恥ずかしいじゃねぇか。
お前は良いよな、なんて思っちまった。
筆記もできて、すげぇ才能もあって。
天才に努力されたら、手も足も出ねぇって。
でも、別に今日分かったことじゃない。
薄々気付いてたことに、向き合っただけだ。
お前になくて、俺にあるものだって、残ってるんだからな。
「そんなの、知ってる」
キリンが、俺の目を見た。
「1の3がある。そこで満点取ればいいんだろ」
そう言ったら、少し力が湧いてきた。
だから、お前が泣くなよ。
お前に泣かれるの、苦手なんだよ。
***
教官室で、1の1の試験、1の2の試験の採点を急ピッチで進める。
「ララ、これどう思う?」
「どの子のこと?キリンさん? ソラちゃん? スパナ君? ドレイク君もへんてこだったわねー。あ、それとも……」
ララは、気になった生徒の名前を次々に上げていた。
もちろん、俺もそいつらは気になるが。
俺はコテツの評定結果を見ていた。
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