16 試験1-2/天才
「では、試験1の2の説明をするわね」
俺たち生徒は、学校の東端にある講堂に集められた。
講堂は、その中心を囲むように生徒用のベンチが並べられ、普段、その中心には、初代校長の銅像があった。
今日はそこに銅像が置かれていなかった。
代わりに、銀の台座が設置され、その上には、成人の頭蓋骨の形をした……水晶が置かれていた。
水晶も銀の台座も綺麗だが、率直に言って気持ち悪い。
よく見ると、銀の台座には沢山の管が刺さっており、それは全て、台座の右に置かれた時計のような物につながっていた。
「「警邏官」になるには、「ノード」を使いこなせるようになる必要があるのは、よく分かっていますね」
ララ先生が、空中に電撃を放ち、それが一瞬講堂を明るく照らす。
「ただ、「ノード」は、人によって、一日の間に使える分量が決まっています。無限には使えないってこと。これは何度も授業で聞いた話ね。疑似的に体験もしてもらったと思うけど」
……「ノード」が使えなかった自分は体験できなかったが、キリンによると、何度も使ううちに、次第に体が重くなって、息切れをしたような感じになり、やがて「ノード」が使えなくなるんだそうな。
「さて、ここにあるのは、何だと思いますか? はい、ドレイク君」
「水晶のドクロであります」
「はい、そのまんま~」
あ、軽く馬鹿にされた。
「ソラさん」
「試験の為の道具……ですよね。水晶のドクロ……。水晶は、「映し出す」性質がある物質。先生のさっきの話も合わせると……「ノード」を使える量を量る装置ですか?」
「はい、御名答」
講堂が一気にざわつく。
そんな物が有るなんて。
「そんな物があるなら、入学の時に測れなかったんですか?」
能力の有無はずっと知りたかったことだったから、俺はつい、そう口走った。
「「ノード」は、13歳にならないと発現しません。というより、13歳の時に発現させなければ、その後も発現しないままになります。この装置は、13歳になった今のあなたたちでなければ反応しないの。しかも、この装置が作動するのが、この夏の数日間だけなのよ。星座の並びが、この「学校」を取り囲んで、「ノード」の発現を促してくれるの」
ララ先生はにこにこと説明してくれた。
「警邏官試験が夏にある理由の一つが、これ。昔の人は、良くこんなことに気付いたものね」
確かに、何で中途半端な夏なんだろうとは思ったけど。
「そんなわけで、これから一人ずつ、ここに来てこの水晶に手を当てて、そして、今までの授業で、先生たちから力を分けてもらったときと同じように、「ノード」を使うことをイメージしてみて」
イメージって言ったって……。
「先生の、「痺れさせる力」を共同行使させてもらったときみたいな感じですか?」
ソラがそう言った。
共同行使……苦い経験だ。「ノード」を使えるアレステリア人が体の一部を接した状態で、別のアレステリア人に触れると、その触れられた者も「ノード」が使える。適性のあるアレステリア人は、共同行使で6つの力を使えるし、特に才能のある奴は、離れた後も少しの間「ノード」を使える。
そして、この4年間、俺は一度も、一つとして、「ノード」を使えなかった。
「そうね、ヒントみたいになっちゃうけど、それも一つの方法よ。先生達の力を共同行使したときのことを思い出して。大切なのはイメージ。自分がその力を持っている、と仮定して、それを水晶にぶつける、あるいは水晶を持ちながら使うイメージかしら。そのイメージの強さに反応して、このメモリが動きます。三回やって、その一番高い数値を結果として記録します。授業でも何度も話したけど、「ノード」はイメージの力。自分がそれをできる、とイメージすること。イメージする力は何でもいいわ。自分が一番、強くイメージできる力を、この水晶にぶつけてみてください」
***
それから、60人の生徒が順番に試験を受けることになった。
順番はくじ引き。
そして、俺は見事に60番目を引いた。
逆に、ソラは1番目。
スパナは28番目。
ドレイクは32番目。
キリンは39番目。
そして、1番目のソラが水晶に触れ、瞳を閉じ、水晶からあふれ出すような青い光と、目盛りが指し示す最大出力を見たスザク先生は目を丸くしていた。
その理由は、その後しばらくしてから分かった。
ソラの結果を越えた、最初で最後の生徒は、39番目のキリンだった。
そこまでは、ソラがダントツだった。
そして、キリンが、水晶に手を添えたとき。
明らかに、それまでとは違う光を、水晶が放った。
それまでは、ソラも含めて、薄い水色や緑色、黄色など、違いは有っても、色の種類は一つだった。
キリンが触れたとき。
水晶が、青・赤・黄色・緑・黒。それらを次々に混ぜ合わせたような、複雑な色の光を放った。
それに呼応するように、目盛りは、これまでよりもずっと強く、右の端近くまで勢いよく振れた。
みんなはあっけに取られながら、その、複雑な、でも美しい、万華鏡のような光を呆然と見つめていた。
特に、3回目は美しかった。
虹色の光が溢れ、講堂に幻想的な光が散らばり、そして、消えていった。
スザク先生は腕組みをしながら。
ララ先生は顔に両手を当てながら。
じっとその光と、それが消えた後の講堂の静寂を見つめていた。
それから、59番目の生徒まで、そんな特殊な光を放つ生徒はいなかった。
そして、最後の順番。
俺の番が来た。
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