表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

13  シチューをどうぞ(♦)

 それから、毎年、夏休みと冬休みは、この5人だけが寄宿舎に残っていることが通例になった。

 正確には、最初の冬休みの手前から。

 

 東端の街ナルディア周辺は、北端のニベウス郡に負けず劣らず、寒い。海沿いで、空気が乾燥しているせいもあるのだが。

 最初の冬のこと。とびきり寒い日だった。

 5人一班、必ず男女混合の班を作って、学校の東にある「遠吠え山」の頂上付近で、雪の降る少し前の時期にだけ実を付ける珍味、「カシュウの木の実」を取ってきて、料理して食べろ、という謎の実習が企画された。


 ララ先生いわく「チームを作り、一緒に目的を達成するのは、警邏官にとって超重要なスキルよ。」とのことだったが、ララ先生がその木の実を入れたシチューが死ぬほど好きだというのを、後でスザク先生から聞いた。


 班づくりを生徒に任せるとか、友達を作らないタイプの俺には胃が痛くなる指示で、はて、どうするかと思ったところ、キリンに後ろから首根っこを掴まれ、「私と行くでしょ?」との申し出だった。ふと、キリンの後ろを見ると、ソラも俯きながらくっついていた。


 まぁ、これで男女っていう条件もクリアだし、良いか。と思った。


 キリンと俺が居るところ、ドレイクも自然に出没するのが通例で、この時も突如として突っかかってきたので、とりあえず班に組み込むことにした。


 そうすると、後一人はもう決まりだった。

 

 決まりだったのだが、どこを探してもスパナがいない。

 

 4人でさんざん探し回り、俺は寄宿舎の2階の隅の倉庫でスパナを見つけた。天窓から漏れてくる光を頼りに、時計をいじくっていた。もう、班は決まっちまったのかな、と思った。

 

 「スパナ」と声をかけると、俺に気付かなかったようで、びっくりして時計を落としてしまった。

 

 「悪ぃ。その…、お前、もう班決まった?」

 首を振るスパナ。やった、間に合った。

 

 「じゃあ、俺と同じ班になってくれ!」

 沈黙の後。

 

 「お誘いはありがたいですが、嫌です」と断られた。

 理由を聞くと、もう、こんな風に班を作らされたりするのが、嫌で嫌でしょうがないから、学校を辞めるんだという。


 お前、辞めるのもったいないぞ。お前、入試、筆記で1位だったんだろ?

 それだけの理由なら、この先、必ず俺がお前と班を組んでやるから、辞めるな、と言ったのを覚えている。


 「必ず?絶対に?」と聞かれたので、「当然。他に友達もいねーし。」と答えた。

 

 ああ、ただ、友達はいないが、キリンがいて、そこにソラとドレイクが付いてくることがあるから、そこはあまり気にしないでくれとも付け足した。

 

 それで、何かに納得したのか、スパナは俺たちの班に入った。というか、正確には、俺とスパナの班にキリンとその他二人がくっついたと俺は認識している。

 

 山頂からカシュウの実を取って戻ると、ララ先生が待ち構えていて、「子供が食べすぎると、発育に悪いのよ。ふふふ」などと、放電しながら怪しげなことを言いつつ、税金の取り立てのように、各班の収穫したカシュウの実を半分ずつくらい回収していた。

 みんな引いていた。

 

 その後、結局、くじ引きで負けた俺がシチューを作ることになったが、そこにスパナが手伝いに来た。

 その時に、「なぁスパナ。お前、冬休みも寄宿舎に残る?」と聞くと、「夏も冬も、この先帰る予定はないです」と言った。

 

 それから、俺たち5人は夏休みと冬休みに、家に帰らないグループとして、その時期を一緒に過ごし続けた。 

 

 最初の年の冬休みは、大量の芋をシチューにして食べ続けた記憶がある。というのも、スパナがどこかから採取してきた大量のタネをララ先生と一緒に寄宿舎の裏庭に植え、なにやら怪しげな栄養剤を大量に定期的に振りかけ、その結果、おびただしい量の、様々な種類の芋やら人参やらが秋に収穫されていた。

 

 しばらく、寄宿舎の調理室にも提供されていたものの、それでも余ったので、二週間の冬休みの間に適当に料理して食べるように、決して腐らせないように、とのスザク先生と調理室からのお達しだった。

 

 ララ先生は、知らんぷりをして逃げた。

 

 しょうがないので、ソラ、スパナ、キリン、ドレイク、俺の順番で、冬休みの間、毎日三食作ることになった。

 ソラとスパナは、本を読んで見つけてきた実験的なレシピを試そうとするので、当たり外れが大きかったが、案外キリンとドレイクは安定して旨いものを作っていた。

 

 「案外って、どういう意味?」

 

 キリンのシチューに対して、ぼそっとつぶやいた言葉を聞かれて、睨まれた。

 

 学校は、昼食だけ、バイキング形式なのだが、キリンは、いつも決まってまったく同じ、柔らかい白パン、ヨーダル鳥の卵、紅玉の実の漬物、夕日菜のサラダ、これだけを選んで食べていた。なので、食事に興味がないのだと思っていた。

 

 「昼休みに、的当ての練習したいから、迷わないようにしてるだけよ。失礼ね」

 「そうだったのか……いや、ソラとスパナが、知識があるから、二人の方が旨いもの作るのかと思ってたんで……」

 「えー、心外だなぁ、私達の料理が不味いって言うんですかぁ? 新しい味を探求してるんですよ?」

 「……実験と試行錯誤が、世の中を進めるんですよ、コテツ君」

 「お前はまずキリンさんに謝れ!」


 大抵は、敵だらけになりがちだったが、案外楽しく過ごしていたような気もする。


読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ