表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

12 王女(♦)

 スザク先生が授業を休みにしたその日。


 キリンの近くの席で、エレナという茶色い髪のリーダー格の女子を中心に、何人かの生徒が夏休みの話をしていた。

 1年生の中でも背が高く、入学当初からボス猿みたいなやつだなと思っていた。


 黙々と本を読んでいたキリンに、エレナが話しかけた。「あなた、帰らなかったんでしょ? どうして帰らなかったの?」と。やけに突っかかるような聞き方だったのを覚えている。


 なんか嫌な感じだな、と思ったところに、畳みかけるように、エレナとその取り巻きが話を重ねた。「いつも本ばっかり読んでて、疲れない?」、「そりゃ、そんなに勉強してたら、入試の順位も良いわよね。」など、気分の悪いトーンで話が続いた。


 それを無視するキリンに、エレナたちは期限を損ねた。


 「何?帰るお金なかったの?」、「いつも、休日は同じ服だもんね。」、「帰る家、無かったりして」と、一層気分の悪い悪口とかんに触る笑い声が響き、むかついた俺がエレナに近づいたその時。


 「私は、スクトゥムティアの王位継承第5位の王女、キリン・アリスティア・ノノよ!」


 教室中に響くような、凛とした声で、キリンが叫んで立ちあがった。


 エレナを睨みつける。赤交じりのオレンジの瞳で。


 一瞬の静寂の後、誰かが、ぷっと噴出した。


 そこから笑いの輪が広がる。


 「スクトゥムティアは、昔から王位第四位までしか存在しないよ。この間、授業でやったばっかじゃん」


 「てか、そんな他国の貴族が何でこんなとこにいるのさ」


 「嘘つくなら、もっとましな嘘をつきなよ。頭おかしいんじゃないの?」


 「試験1位だからって、お高く留まってると思ったら、何? 自分の事、お姫様だと勘違いしてるの? え、ちょっと怖いんだけど」


 若干興ざめしたような顔で、エレナがキリンの頭に手を置いた。


 俺はエレナの手を掴んで、睨みつけた。


 「止めろよ」


 「何よ。この嘘つきを庇うの? さすが、犯罪者の弟ね。」


 人の神経を逆なでするのが板に付いた奴だな。


 そう思ったとき、キリンが教室の外へ駆け出した。


 後ろで笑い声がする中、俺はキリンを追いかけた。


 何度呼んでも、振り向かないキリンを追いかけ、屋上に向かう階段でキリンの腕を掴むと、ようやく止まったが、いきなり腕を振り払われた。


 「……エレナの、気にすんなよ。言わせとけ。あいつ、自分より成績の良い女子に嫌がらせばっかしてんだ。ま、王女様ってのは、はったりにしちゃ……」

 

 「…嘘よ」

 「?」

 

 「こないだの、全部嘘! 馬鹿じゃないの。あんたも騙されて。私、スクトゥムティアなんて行ったことないし! 全部本で読んだ話よ! 信じちゃって、馬鹿みたい! もっと人を疑った方がいいわよ!」

 

 そう怒鳴り続けるキリンを、なぜだか、絶対に放っておいちゃいけないと思ったのを覚えている。


 その怒鳴り声は、悲鳴にしか聞こえなかった。


 それに……あの夏休みの、生き生きとした話が、全部嘘だとは、どうしても思えなかった。

 

 何か、良くないものを。

 許しがたい何かを感じて、何故か、俺は心底、怒っていた。



 「俺は……俺には、全部嘘だとは思えねぇよ!」


 絞り出すように、でも、体の中から出てくるように、思いのほか大きな声が出た。



 何故か、一瞬、辺りが明るくなったように見えた。

 その光が、キリンを振り向かせたように見えた。



 「本当……に?」

 「ああ、嘘じゃない」


 その後、突然、力が抜けたように床にへたりこんだキリンがわんわん泣き出し、俺はどうしようもなく立ち尽くしていたところに、ソラとスパナがやってきたのを覚えている。

 

 夏休みに帰らなかった、変わり者たち。


 「これ、スパナ君が、見つけてくれたものだけど」

何やら分厚い本のページを開く。


「スクトゥムティアには、皇位第5位まであった時期があるようです。ただ、あの国は、文献が少なくて……この本も、表紙が別の本のカバーがかけられていて、たまたま見つけたんですが……授業と違うので、引っかかってたんです」


 後で知ったのは、この変わり者二人が、入学の筆記試験1位、2位だったらしい。

 

 「おい! コテツ! 貴様……またキリンさんを泣かせたのか!?」 


 それから、本を読まずに、教室の外で素振りをしていて、キリンの泣き声を聞きつけたドレイクが、何故か俺に襲い掛かってきた。不意を突かれたせいで、瞳を合わせるのが遅れ、動きを読んで撃退するのに失敗し、二人で階段から転がり落ちた。


 ドタバタと転がり落ちる間に、ドレイクの指先が俺のズボンとパンツに、俺の指先がドレイクのズボンとパンツに引っ掛かり、階段の下で俺たちは尻丸出しで突っ伏した。

 

 唖然としていたキリンが、最後は何やら笑っていた。

読んでいただいてありがとうございます!

徐々に熱い展開になっていきますので、もしよければ評価・ブクマ等いただけたらとっても嬉しいです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ