3 それはいつもの喧嘩のはずだった
ヘルバスティア諸国連合の警邏官宿舎は、独特のハーブの匂いが漂っていた。海沿いの宿舎は、深夜の風を浴びて、窓がかたかたと揺れている。
あの夢でひどくうなされたせいか、喉がからからだった。個室から出て、氷水を飲もうと、共用スペースのポットが置かれた机に向かう。
ふと、そこに居る人影に気づいて。
なぜか、ひどくほっとした。
あんな夢をみたせいで。
一人でがんばらないと、なんて気負っていたせいで。
情けない私は、コテツに少し優しくして欲しい気分だった。
優しい言葉が欲しいだなんて。
それがいけなかったのだと、後になって思ったのだけど。
***
「こんな夜中にどうしたの?」
「いや……その……」
「ん?」
「なんか、キリンの部屋の方で、光が見えた気がして」
「危険を知らせる?」
「いや、すごくうっすらだったし、すぐ消えたんだけど」
「そう……」
ん?
なんだ? その顔?
「へー」
にやにやしながら、キリンの赤みがかった瞳が俺の目をのぞき込む。
「私のこと、心配だったの?」
……。
ああ、そうだよ。そのとおり。
だが、そんな風に直接言われると、何というか、俺が寝てるときまでキリンのことを考えていて、すごくキリンを心配している奴みたいじゃないか。
……実際そうだが。
そんなこと、正直に認められるもんか。
それじゃ、まるで俺が……。
お前さ、お姫様なんだぜ?
自分の身分と俺の違いを、考えてくれよ。
「別に……お前みたいな噛みつき女、心配なんかするもんか。俺がいなくたって、一人で撃退するだろ。噛むなり蹴るなりして」
そんな俺の口から出てくるのは、こんな言葉ばかりだった。
後は、もういつもどおり。
キリンの膨れた顔。
「いつまで根に持ってんのよ!」
その後、いつものように、しばらく言い争いをしていた。
うるさくて寝れなくなったソラが、電撃をちらつかせたところで、休戦になった。
そう、それはいつもの喧嘩、だと思っていた
ただ、いつもよりキリンが少し、強めに怒ってるな、とは思っていたのだけど。
読んでいただいてありがとうございます!
もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!




