表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何度やり直しても、あなたが私に恋をしてしまうんですが  作者: 山本依由加


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

第28章 奪還

 楓と岬は、カプセルに眠るLF-99から目を離せずにいた。冷たい空調の風が頬を撫でるたび、この空間の異質さが肌に突き刺さる。計測機器のランプが一定のリズムで点滅し、それがまるで少女の鼓動を外部に映し出しているようだった。


「……どうする? このまま搬出できるのか?」


 岬の声は低く、しかし焦りを隠せない。楓は唇を噛み、カプセルの端末に視線を移す。


『楓さん、手持ちの端末を接続してください。こちらから直接制御に入ります』


 アールの指示に従い、楓は素早く背負っていた小型端末を取り出し、施設の端末とケーブルで接続する。接続ポートに差し込んだ瞬間、端末の画面が起動音とともに光を放ち、複雑なコード群が流れ始めた。


 鍵のマークが赤く点滅し、アクセス権限の入力を要求していた。


『ロック解除を試みます。ただし、この解除行為は監視網に検出されるリスクが高いです』


 アールの警告に、楓は短く頷いた。


「構わない。やるしかないわ」


 解除シーケンスが走る中、岬は室内の出入り口に視線を送り、耳を澄ませる。遠くで、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。重く、ためらいのない足音——。


「公安の妨害部隊だ。鬼島が指揮している」


 アールとの通信越しに久賀が叫んだ。


 岬がパッと振り返り、扉を睨んだ。


「来るぞ」


「アール!」


 その言葉に、楓はさらに操作を急がせた。端末の画面に進捗バーが現れ、じわじわと右端に伸びていく。しかし、それと同時にアールの音声が緊迫感を帯びる。


『外部からセキュリティプロトコルが書き換えられています……鬼島の部隊がアクセスを妨害しています』


 岬が拳を握りしめ、出入口に歩み寄る。


「時間を稼ぐ。お前は続けろ」


 次の瞬間、廊下から低い声が響く。


「中にいるのは分かっている。LF-99から離れろ」


 鬼島の声だった。その背後で、金属の安全装置が外れる音が複数重なる。楓の心拍が一気に上がる。


「岬……」


「大丈夫だ。まだ間に合う」


 岬はドア横の影に身を潜め、侵入してくる足音の方向に視線を固定した。楓の手元では、進捗バーがあと数ミリで端に届こうとしている。


 警告音が短く鳴り、ロック解除の緑色が点灯した。


『解除成功』


 その瞬間、扉が破られ、複数の影が雪崩れ込んでくる。岬は迷わず一人を押し返し、もう一人の腕を掴んで投げ飛ばした。室内の緊張が爆発音のように弾けた。楓はカプセルの制御レバーを引き、LF-99の保存液がゆっくりと排出されていくのを見つめた。少女のまぶたが、わずかに震えた。


『岬さん戦闘中につき、楓さん、背負えますか?』


 アールの声に楓は即座に頷き、少女を背にのせた。


 耳をつんざくような警報音。赤色灯が回転しながら壁と天井を染める。アラートの閃光に照らされながら、楓はLF-99を背負い必死に走る。


『別の扉を開けます。奥へ!』


 少女の軽すぎる体重が逆に不安を募らせた。いつの間にか追い抜き前方に来ていた岬は、開きかけた扉を肩で押し開くと、工具でこじ開けた。


「行け!」


 楓は慌てて前方に倒れ込むようにして走る。


 扉の先は窓のない非常階段だった。


 だが数階降りたところで、金属シャッターが轟音を立てて降りてきた。


『経路閉鎖、作戦18に切り替えてください』


 岬は迷わず拳銃を抜き、側面の制御盤に照準を合わせて引き金を引く。火花が散り、電源部が焼け落ちる。途端にシャッターが途中で停止し、熱風が逆流して階段を駆け上がってきた。煙が視界を覆い、二人は咳き込みながら駆け抜ける。


「火災センサーを逆用して逃げろって、どんな作戦よ!」


 楓が息を荒げながら叫ぶ。


「有効なら、何だって使う!」


 岬は振り返らず答えた。


 階段を駆け降りた先は車両格納庫。だが、そこには待機していた公安部隊が待ち構えていた。銃口が一斉にこちらに向けられる。岬は楓の前に躍り出て、低く構えると一気に突進し、敵の注意を引きつけた。


「時間は稼ぐ。逃げろ!」


『楓さん、右です』


 その声に楓は迷わず脇の配管経路へ走り込み、背中のLF-99を守るように姿勢を低くして進む。狭い鉄製の通路を抜け、外気が頬を打つ瞬間、視界に白いトラックが飛び込んだ。アールが用意していた逃走用の車両だ。


 楓はLF-99を抱えたまま荷台に飛び乗り、ドアを蹴って閉める。


 直後、エンジンが唸り、トラックは無人のまま動き出した。アールの遠隔運転だ。


 楓は呼吸を整える間もなく、震える小さな体を抱きしめた。少女の髪が湿った額に触れ、その体温がかすかに伝わってくる。


 外は雷雨。フロントガラスに叩きつける雨音の中、楓は少女を抱きしめて固まっていた。


「どうにか……なった。この子を助けられた」


 岬はどうだっただろうか、思いを馳せていると突然「ガタン!」と荷台に衝撃が走った。


 振り返ると、びしょ濡れの岬がそこにいた。荷台から軽々と身を起こし、外を伝って助手席に滑り込む。


 楓の顔を見ると、余裕そうに口元に笑みを浮かべた。


「楽しい任務だったな」


(……この男に恋をしないなんて、できるの……?)


 雨粒がフロントガラスを流れ落ち、視界を歪ませる。そういえば——一度目のループで告白したのも、こんな雨の日の車の中だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ