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【ホラー 怪異】

声が聞こえる。

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/04/28

 

 ある時から僕の耳に声が聞こえるようになった。


「……で……いで」


 耳の奥にまで残る声。


「……いで……おいで……」


 僕を呼んでいる。

 間違いなく。

 しかし、心当たりはまるでない。

 だけど、その声は四六時中僕の耳に響き続ける。


「おいで……どっておいで……」


 あまりにも恐ろしくなり僕は両親にそのことを相談した。

 両親は血相を変えて、そのまま祖父の家へ僕を連れて行った。

 そして祖父は僕を見るなり叫んだ。


「お前! まさか、あの祠を壊したのか!?」

「祠?」

「……っ! ついてこい!!」


 そう言って僕は祖父に連れられて祠へとやって来た。

 祠は確かに壊れかけており、さらにはそこには昔、僕が大切な人から貰ったキーホルダーが落ちていた。

 記憶はないが僕がここに来たのは明らかだった。


「やはり……! お前は呼ばれているんだ!」

「呼ばれているって?」

「外の世界の者に!」


 そう言って祖父は僕に教えてくれた。


 曰く、この祠は外の世界に通じるものである。

 僕はその外の世界に居る存在に呼ばれていたのだ。

 そしてその呼び声に負けつつある僕は無意識のまま祠を壊し、外の世界へと行こうとしているのだと……。


「そっ、それじゃあ、どうすれば……」


 慌てる僕に祖父は告げた。


「方法は一つしかない。外の者にはっきりと意志を見せるのだ」

「意志……?」

「あぁ、二度とそこへ戻るつもりはない! そう念じ続けるんだ! 良いか。おじいちゃんの言う言葉を繰り返せ」


 僕は祖父に促され座り込み、それを確認した祖父は声を出した。


「もう二度とお前達のところには戻らない。絶対に戻らない。何があっても戻らない」

「もう二度とお前達のところには戻らない。絶対に戻らない。何があっても……」


 僕はその言葉を繰り返す中で僕はふと疑問に思う。

 しかし、その疑問をしっかり捉える前に僕はもう口にしていた。


「戻らない」


 ・

 ・

 ・


 巫女の造り上げた異界へと繋がる門が強い勢いで閉じられた。

 その様を見て巫女は大きくため息をついて項垂れる。


「巫女様……」


 女性の声に巫女は振り返る。

 青ざめた表情の夫婦が巫女の否定の言葉を期待して問う。


「息子は。息子は……帰って来るんですよね?」


 しかし、巫女は首を振る事しか出来なかった。


「強い意思で拒絶されてしまいました。もう私の手には負えません」


 母親は泣き崩れ、父親は立ち尽くすばかりだった。

 その様から逃れるように巫女は目を閉じる。


 神隠し。

 神による人攫い。

 仮に巫女であろうとも神と戦うのはあまりにも無謀なのだ。

 事実、彼女は今日も神の手から人を救うことは出来なかった。


「せめて、幸せに……偽りの世界、偽りの家族のもとであろうと」


 懺悔のように響く巫女の無念の声は現実の世界にぽとりと落ちて、二度と拾われることはなかった。

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― 新着の感想 ―
本作は読手の意表を突くというよりも、著者様が提示された視点が俊逸すぎる。 『人間側が神隠しにならないようにする』ではなく『すでに神隠しを達成した側が人間を返さない』という事ですね。 読者側の視点を欺く…
 祠で繋がる先の世界は裏見に気付かされる神の域、巧い話に最後で納得の声を上げてしまいました。
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