声が聞こえる。
ある時から僕の耳に声が聞こえるようになった。
「……で……いで」
耳の奥にまで残る声。
「……いで……おいで……」
僕を呼んでいる。
間違いなく。
しかし、心当たりはまるでない。
だけど、その声は四六時中僕の耳に響き続ける。
「おいで……どっておいで……」
あまりにも恐ろしくなり僕は両親にそのことを相談した。
両親は血相を変えて、そのまま祖父の家へ僕を連れて行った。
そして祖父は僕を見るなり叫んだ。
「お前! まさか、あの祠を壊したのか!?」
「祠?」
「……っ! ついてこい!!」
そう言って僕は祖父に連れられて祠へとやって来た。
祠は確かに壊れかけており、さらにはそこには昔、僕が大切な人から貰ったキーホルダーが落ちていた。
記憶はないが僕がここに来たのは明らかだった。
「やはり……! お前は呼ばれているんだ!」
「呼ばれているって?」
「外の世界の者に!」
そう言って祖父は僕に教えてくれた。
曰く、この祠は外の世界に通じるものである。
僕はその外の世界に居る存在に呼ばれていたのだ。
そしてその呼び声に負けつつある僕は無意識のまま祠を壊し、外の世界へと行こうとしているのだと……。
「そっ、それじゃあ、どうすれば……」
慌てる僕に祖父は告げた。
「方法は一つしかない。外の者にはっきりと意志を見せるのだ」
「意志……?」
「あぁ、二度とそこへ戻るつもりはない! そう念じ続けるんだ! 良いか。おじいちゃんの言う言葉を繰り返せ」
僕は祖父に促され座り込み、それを確認した祖父は声を出した。
「もう二度とお前達のところには戻らない。絶対に戻らない。何があっても戻らない」
「もう二度とお前達のところには戻らない。絶対に戻らない。何があっても……」
僕はその言葉を繰り返す中で僕はふと疑問に思う。
しかし、その疑問をしっかり捉える前に僕はもう口にしていた。
「戻らない」
・
・
・
巫女の造り上げた異界へと繋がる門が強い勢いで閉じられた。
その様を見て巫女は大きくため息をついて項垂れる。
「巫女様……」
女性の声に巫女は振り返る。
青ざめた表情の夫婦が巫女の否定の言葉を期待して問う。
「息子は。息子は……帰って来るんですよね?」
しかし、巫女は首を振る事しか出来なかった。
「強い意思で拒絶されてしまいました。もう私の手には負えません」
母親は泣き崩れ、父親は立ち尽くすばかりだった。
その様から逃れるように巫女は目を閉じる。
神隠し。
神による人攫い。
仮に巫女であろうとも神と戦うのはあまりにも無謀なのだ。
事実、彼女は今日も神の手から人を救うことは出来なかった。
「せめて、幸せに……偽りの世界、偽りの家族のもとであろうと」
懺悔のように響く巫女の無念の声は現実の世界にぽとりと落ちて、二度と拾われることはなかった。