第6話『四種類のカード』
ケイスケが好き放題言ってから眠ってしまった次の日。
当たり前の様にケイスケはゲイルと朝食を食べていた。
「しっかし宇宙食ってのも美味いモンだな」
『そうか? 私には特別美味い物と感じないが』
「まぁ地元のメシはそんなモンだろ」
ワハハと笑いながら朝食を食べ終え、ケイスケたちは今日のカード作りをするべくパソコンの前に座るのだった。
「さて。昨日はパートナーカードまで作った訳なんだが、今日から別のカードを作っていこうと思う」
『うむ』
「その為にもカードの種類を決める必要があるな」
『カードの種類? パートナーカードと、兵士カードみたいな物か?』
「そういう事だ。今決まってるのは、俺達の代役であり相棒であるパートナーカード」
ケイスケはパソコンの中に作ったパートナーカードを見せながら語る。
「そして、他に兵士カード……というのはちょっと争いを意識し過ぎだから、シンプルにキャラクターカードとかで良いだろう」
『そうだな』
「んで、だ。後必要なのは出来事のカードだな」
『出来事のカード? どういう事だ。銀河連合が結成された、とか。そう言う事か』
「あぁ、ちょうど良いのがあるな。そう。まさにそういう事だ。銀河連合結成! みたいな出来事、まぁイベントだな。そういうイベントのカードを作るんだよ」
『うむ……?』
ケイスケは首を傾げるゲイルに軽く笑いかけた後、パソコンに向き直り、カードを作り始めた。
カード名は勿論『銀河連合結成!』である。
「このイベントカードってのはな、キャラクターカードとは違って、攻撃も防御も出来ん。だから効果だけがある」
『ふむ』
「だが、キャラクターカードと違って、どんな時でも使う事が出来るんだよ」
『むー。今一つイメージが出来んな。銀河連合結成は突然出来ないだろう』
「あー。うん。そうだな。これは俺の例が悪かった」
ケイスケは苦笑しながら、ゲイルに向き直り、身振り手振りを加えながら丁寧に説明する。
「そう。例えばだな。ゲイルの仲間で、おう。そう。お前だ。名前は?」
『シェリ』
「そうか。例えばだ、ゲイル。シェリをお前の仲間にする為には色々と必要な手順があるだろ? 声掛けたりとか、中良くなるとか。なぁ?」
『え、えぇ』
「ワハハ、ちょっと引かれてるぜ。とまぁ、こんな具合にキャラクターカードを仲間として出すには必要な工程があるから、いつでも、はいどうぞ。って訳にはいかないんだ」
『そうだな』
「でも、例えばだな……地球人ケイスケ来訪! なんてイベントがあったらさ。いつでも使えるだろ? 昼飯の時でも、寝てる時でもよ」
『……確かにな』
何だか納得したのかしていないのか。
とりあえず理解を示したゲイルは話を勧めようとケイスケのパソコンに目を向ける。
先ほど話を振られたシェリも少し気になるのか、身を乗り出してパソコン画面を見ている様だった。
「だから、こうして、こう! どうよ」
『ふむ……イメージ通りだな』
「そうだろ? 後は、まぁ道具、アイテムカードって奴が必要かな」
『宇宙船や食事の様なものか』
「そう。コイツはまぁ、キャラクターカードのお友達みたいな奴でな。キャラクターが持つと強くなったり、便利な事が出来る様になったりする。まぁイメージとしてはゲイルが言った通り、宇宙船に乗れば遠くまで行ける。とかだな」
『分かりやすい話だな』
それからケイスケは言葉通り『宇宙船』のアイテムカードを作り、画面に四種類のカードを並べた。
パートナーカードである『英雄ゲイル』
キャラクターカードである『シェリ』
イベントカードである『銀河連合結成!』
そしてアイテムカードである『宇宙船』だ。
それぞれのカードは似ている所もあり、似ていない所もある。
使い方は既に一度話をしているが、ケイスケは改めて確認する様に口を開いた。
「まず、パートナーカードだ。コイツはゲームが始まった瞬間から盤面においてあって、自分の手番が来るたびに成長する。最大は5レベルだ」
「次に、キャラクターカード。コイツは基本的に自分の手番にしか使えない。しかも限られた瞬間、キャラクターカードとかを展開する為のタイミングにしか使えない。だが、盤面に出れば戦闘で敗北するまで盤面からは消えず残り続ける」
「そしてイベントカード。これは条件さえ満たしていればいつでも使えるカードだ。自分の手番でも相手の手番でも、どちらでも使える」
「最後にアイテムカード。コイツはキャラクターカードと似ていて、キャラクターカードと同じタイミングに使う。しかもキャラクターカードとが居ないと使えなくて、キャラクターカードに装備させる付属カードだな」
全てを説明し、ケイスケはゲイルへと視線を移し、そのまま椅子を回転させてゲイルの仲間たちを順番に見据えた。
理由など聞かなくても分かる。
理解したかを求めただけだ。
『私は問題ない。が、何故彼らにも理解を求めた?』
「理由は三つある」
『ほう』
「一つは、カードゲームって奴は作ってはい終わり。という訳にはいかなくてな。テストをしなきゃいけないんだ。宇宙船だって、どんな道具だって同じだろ? 作ったら試験して試さなきゃな」
『確かに……そうか。彼らはテスト要員か』
「ん。そして二つ目」
ケイスケは指を一つずつ折りながら言葉を続けた。
「正直な所、ハンデだ」
『ほぅ……?』
「そう怒るなよ。別にお前を侮ってる訳じゃ無いんだぜ? ただ、な。ハッキリ言おうか。本気でやればお前は俺に勝てん。何故ならこのゲームのカードは俺の手で生まれているからだ。俺はこのゲームの神なんだ。いくらお前が隣で見ていてもな」
『そうだな。だが、それでも……』
「だからこそだ。前も言っただろう? 俺は悔いを残したくない。欠片であってもだ」
『しかしな。俺だけが彼らと相談するというのは』
「あー。違う違う」
『ん? 違う?』
「俺とお前ら全員で、研究するんだよ。このカードゲームの端から端まで。どういうプレイが効率が良くて、どういうプレイが強いのかってな」
『……なるほど。そういう事か』
「そ。だからな。ここまで来い。俺が居る高みまで。必死に走って俺に追いつけ。そこで初めて俺たちは対等であれる」
『傲慢な男だ』
「今頃知ったのか? 俺は生まれた時から誰かに道を譲った事なんか無いんだぜ? 俺の前に広がる景色が見たいなら、ここまで来いよ」
『ふ、ははは。流石だな。それで? 最後の一つはなんだ』
「あぁ」
ケイスケは先ほどまでの凶悪な笑みを抑え、穏やかな顔で笑うと、やや怯えているゲイルの仲間へ視線を向けた。
「カードゲームってのはさ。みんなで遊ぶもんなんだよ。賭けの道具とか、命がけの勝負をする為のツールとかじゃなくてな。楽しく、語り合いながら遊ぶモンなんだ」
『ケイスケ……』
「だから。もしここで俺が終わるとしても。カードゲームの面白さ。楽しさはお前らに伝えたい。俺が生まれた意味はおそらくそこにある」
『……分かった。ならば良いだろう。皆、聞こえたな』
ゲイルはシェリ達へと視線を向け、小さく頷いた。
そして、その動きに彼らもまたケイスケに近づいて様々な言葉を向けてゆくのだった。
『ケイスケ。ウチの爺様もカードにしてくれ。凄い男だったんだ』
『私のママが先よ』
『待て待て。ここはまず我らが偉大なる祖先から始めるべきでは無いだろうか』
「はいはい。分かった分かった。一人ずつ。一人ずつだ。どうせ作らなきゃいけねぇカードは山ほどあるんだ。全部作ってやれば良い」
ケイスケの言葉にシェリ達は嬉しそうに左右に揺れ、ケイスケも喜ぶ彼らを見て、心の底から嬉しそうな……無邪気な少年の様な顔で笑うのだった。