第2話『山札が|命《ライフ》!』
パソコンの画面を見ながらゲイルは、ひとまず気になっていた事をケイスケに聞いてみる事にした。
『しかし、ケイスケ。ゲームを作るというが、私はゲームを作ったことが無い。どうすれば良いんだ?』
「あぁ、それに関してだが、基本的に最初は俺が主導して作っていこうと思っていた」
『なるほど。では分からない所は逐次質問するが、問題ないか?』
「無論だ。情報は平等に分かち合うべきだからな」
ケイスケの言葉にゲイルはふむ、と頷き、ケイスケの説明に集中する為か画面をジッと見つめる。
「という訳でカードゲームを作る訳だが……まず最初に決めるべきはゲームの勝敗だ」
『ふむ』
「そこでまず俺が提案するのは、デッキというカードの束をそのまま命に見立てる事だな」
『……つまり、デッキという物が無くなった場合、ゲームに敗北する。という事か?』
「あぁ。合っている。そして……ゲームの敗北であると同時に、俺は実際の命を。ゲイルは地球の人間が全て登録するまで、死ぬほどの退屈を味わう事になる」
『なるほどな』
ゲイルはケイスケの言葉に腕を二本絡めながら腕を組んでいる様なポーズを取った。
そして、目を閉じながら少しの間考えていたのだが、考えがまとまったのか緩やかに瞳を開く。
『ケイスケ。賭けの内容を少し変えても良いか?』
「内容によるな。俺は地球の奴を誰一人だって見捨てるつもりは無いんだ」
『あぁ、違う違う。減らすんじゃない。増やしたいんだ』
「……増やす?」
ゲイルの言葉にケイスケはゲイルの本心を見透かそうとする様にジッと、ゲイルを見つめた。
しかし、ゲイルはそんなケイスケに軽く笑いかけると、本心と共に答えを吐き出した。
『ケイスケ。もし君が勝ったなら、私は君の願いを何でも一つ叶えようじゃないか。命が欲しいなら命を。銀河連合議会を裏切れというのなら、裏切ろう』
「ふむ。目的が見えないな」
『そうか?』
「あぁ。ゲイルが自分を追い込む理由は無いだろう」
『あるさ』
ゲイルの短い返答にケイスケが言葉を探していると、ゲイルは軽く笑ってから理由を語り始めた。
『私は君との勝負に悔いを残したくないのさ』
「……」
『短い間ではあるが君と話をしていて感じた事がいくつかある』
ゲイルはいくつもある手足の中から一つを上に向け言葉を続けた。
『まず一つ目。君は酷く冷静な人間だという事だ。正気を失った様な行動をしていても、それは君の本質ではない。そうあるべきだと感じているから、そう行動しているに過ぎない』
「……それで?」
『二つ目。君は、私とそれほど変わらない知能の持ち主であるという点だな』
「随分と高く評価してくれて嬉しいよ」
ケイスケはおどけた様に片手を上げながら笑ったが、ゲイルはそんなケイスケに少しも笑わない。
そして、先ほどよりも真剣な表情で、ケイスケを見つめながら強い言葉を放った。
『だからこそ、少しの油断も出来んのだ。微かなチャンスも与えたくはない』
「……」
『君とゲームを作りながら、私は強く感じるのだ。君との勝負は、まさに一瞬の気の緩みが終わらせてしまうだろうと!』
「なるほどな。それで、自分を追い詰める為の賭け……か」
『そうだ。たった一つの判断ミスが全てを終わらせる様なギリギリの状況に身を置かねば、決定的な場面で私は君に敗北するだろう。その様な事になれば、悔やんでも悔やみきれん』
「しかし、よく考えてみろよ。ゲイル。もし仮に俺が勝っても、俺は銀河連合に参加するんだぜ? 終わってからならいくらでも機会はあるだろ?」
『ふっ、ふははは! よく言う! お前が勝った場合、私に再戦の機会などあるものか! いや、あるにはあるだろうな。だが、最高の勝負にはならん。お前は命を賭していないのだから! どこかぬるい、負けても良いと思える様な遊びになるだろう! それはもはや勝負ではない!』
「くっ、はははは!!」
ゲイルの魂を込めた訴えに、ケイスケは腹を抱えながらゲラゲラと笑った。
心底おかしいものでも見た様に。
しかし、ゲイルはそんなケイスケを見ても怒りは示さず愉快そうに笑うばかりだった。
「まったく。狂ってるぜ。ゲイル。そんな事の為に命を賭けるなんてな」
『お前に言われたくはないな。ケイスケ。お前だって似た様な物だろう? 何故お前は、あえて自分を危険な場所に置いている。必要が無いだろう!』
「まぁな。そこまで気づくとはやるじゃないか。ゲイル。お前との戦い……! 楽しみになって来たぜ」
『お互い様だ』
「だが……このままだと、良くないな」
笑い続けていたケイスケは、不意に笑うのを止めると真剣な顔でゲイルを見つめ、緩やかに口を開いた。
「スマンが、俺も同じ賭けをさせてくれ」
『お前の命は既に賭けられているだろう?』
「あー、まぁ。それもそうなんだがな。大勢の一人だと思うと、イマイチ気合が足りなくてな。俺自身を追い詰めたい」
『そうか。ふふ。良いだろう。結果はどの道変わらないからな』
ゲイルは腕を組みながら笑い、ケイスケもまた同様に笑う。
そして、二人はひとしきり笑った後、ゲイルの仲間が持ってきたお茶を飲んで落ち着き、再びゲーム作りに戻るのだった。
ケイスケのパソコンに向き直った二人は、まず先ほど決めたルールをメモ帳に追加してゆく。
【ゲームはどちらかのプレイヤーのデッキ(カードの束:山札)が無くなった時点で終わりとなる。ゲーム終了時、デッキが0枚のプレイヤーが敗北となる】
「と、こんな感じかな」
『随分と遠回しな言い方だな』
「まぁ、カードゲームはそういうモンなんだよ。後でゲイルにも嫌という程教えるが、山札が同時に0枚になるパターンも実は存在していてな」
『そうなるとどうなるんだ?』
「それはホラ。書いてるだろ? どっちも敗北だよ」
『勝ちでは無いんだな』
「まぁ、別に勝ちでも良いんだがな。どっちが勝ったかを決める戦いで二人とも勝者じゃ意味がないだろ。次の勝負を始めましょうね。になっちまう」
『確かにな。では敗北した者は何も得られない。それで良いか?』
「勿論。それを俺は望んでるぜ」
ケイスケはニヤリと笑って、【両者共にデッキが0枚になった場合、両者敗北となる】と追記した。
そして、次なるルールを決めるべくケイスケはトランプの束を取り出して、机の上に置いた。
「さて。終わる条件は決まった事だし、ここからはどうやって終わらせるか。その手段を決めてゆこう」
『あぁ』
「既にゲイルも察してはいると思うが、カードの束が置いてあっても何もしなければ0枚にはならない」
『当然だな』
「だから何かしらの手段を使って、コイツを0枚にする訳だが、戦うと言っている以上、戦闘で決めてゆこう」
ケイスケは笑みを作りながらトランプの束から一番上のカードをめくり、めくれたキングをゲイルに渡し、次にめくった6のカードをゲイルに見せる。
「酷く単純な話だ。ゲイルの数字は13、俺の数字は6。この差分だけ俺の山札を削ってゆく」
ゲイルがジッと見ている中、ケイスケは6のカードをテーブルの上に置き、トランプの山から7枚のカードを表向きにしてトランプの山の横に置いた。
「考え方はこんな感じさ。これを繰り返して0枚になったら負けだ」
『ふむ。シンプルだな。しかし、これでは最大の数字を持った者の勝ちになるんじゃないか?』
「そうはならないのがカードゲームのカードゲームたる所以だ」
ケイスケはトランプの山から次のカードをめくり、それをゲイルに見せる。
「カードには数字以上の価値を持たせる。そのカードだけが出来る事を作るんだ。例えばAのカードは1であると同時に、Kのカードに無条件で勝てる。とかな」
『なるほどな?』
ゲイルは持っていたKのカードをテーブルに置き、次のカードをトランプの山からめくって手に取る。
そして、すぐにハッとした顔をした。
『そ、そうか。こうしてカードを補充しても、山札は減ってゆくのか』
「お。察しが良いな。そういう事さ。直接削るだけじゃない。自分のカードを補充してゆくだけでも山札は無くなってゆく」
『つまり、停滞も……死を意味する。常に考え、前に進み続けなければ……敗北する』
「そういう事さ。やっぱりゲイル。お前と話してると最高に楽しいぜ」
『……私もだよ。ケイスケ』
二人は笑みを向け合うと実に楽しそうに手を叩きあうのだった。
「と、ここまでが基本的なルールの根幹だ。次から一歩踏み込んでいこうか?」
そして、彼らは次なる世界に進んでゆく。