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第15話『一つの終わりと、始まり――』

 それは、誰も予想しなかった事であり、偶発的な事象が重なって起こってしまった事だった。

 ギリギリの戦いを繰り広げるゲイルとケイスケの戦いに熱中し、身を乗り出した一人が、テーブルにぶつかってしまった事。

 そして、そのタイミングに山札にケイスケが触れ手札に加えようとしていた事。

 その二つが重なった結果。テーブルの端に置いてあったケイスケの山札は崩れ、上の2枚がテーブルの下に零れ落ちた。


「っ!」

「あ、あぁ!! ごめんなさい!」


 謝罪する声と共に、ケイスケとゲイルはテーブルの下を見て、それぞれの反応を示した。

 なぜなら、テーブルの下に落ちたカードは表になっており、ここまでゲイルを苦しめたカード『獄炎竜 ファイアブラスター』がめくれていたからだ。


「これは……!」


 ゲイルの残り山札は5枚であり、いかにゲイルが強固な場を広げていたとしても、直接山札にダメージを与えるカードを使われてしまえば、3点のダメージと手番開始時の2枚引きで山札が無くなってしまう。

 このままケイスケが手札に加えていれば、ケイスケの勝利となる可能性は高かった。

 しかし……。


「ルール規定。カードの効果以外で山札のカードが公開されてしまった場合の対応。公開されたカードを含めて山札を混ぜ、山札の順番が不明な状態に戻し、再びゲームを再開する」

「っ! そのルールは」

「作ったルールは忘れていないだろう? ゲイル」


 ケイスケの淡々とした言葉に、ゲイルは焦りながらも頷く。

 その反応に、ケイスケは落ちたカードも含めて山札を混ぜ、再びカードを引くのだった。


 そしてケイスケは手札を見ながら止まる。

 ジッと、自分の手札を見て……ゲイルの見えない手札を見据えた。


 酷く静かな時間にケイスケ以外の人間は皆、息を呑みながら見守るが、終わりの時は思っていたよりも早く訪れた。


「俺の負けだ」

「……え?」


 ケイスケの言葉に反応したのは誰だったか分からないが、思っている事はおそらく同じであっただろう。

 手札を伏せて置いて、負けを認めるケイスケに誰もが何事かとケイスケを見つめた。

 そしてゲイルはテーブルの向こう側から手を伸ばし、ケイスケが伏せたカードを表にして、顔をしかめるのだった。


「どういうつもりだ。ケイスケ! これは、この手札はお前の勝ちじゃないか!」


 ケイスケの手札にあったのは、黄色5コストの『突然の訪問者 ケイスケ』のカードだった。

 このカードは場の5コストのカードを除外する事でコストを支払わずに登場する事が出来るカードであり、このカードが攻撃宣言した時、山札に直接3点ダメージを与える効果があり、このカードはあらゆるカードの効果を受けないという効果であった。


 つまり、ケイスケの場に居るコスト5の前列カードを取り除き、このカードを出して攻撃すれば、ケイスケは勝利出来たのだ。


「俺が勝てたのは偶然だった。自ら掴んだ物でもない勝利に意味などない。本来負けていたのは俺だ」

「バカな!!」

「バカな事は無いさ。本来俺が引いていたのは『獄炎竜 ファイアブラスター』だった。あのカードのコストは3コストだ。『銀河連合の管理官 ガーラ』の効果で容易く止められてしまう」

「……だが、ガーラの効果は手札の緑のカードを捨てなければ使えない」

「まぁ、な……だが、ゲイルの手札は5枚だ。そして、何枚かのカードは初めから持っていたカード。待機所にあるカードの枚数などを見れば、手札に3コスト以上のカードを持っている事は……」

「私は!! そんなカードを持ってなどいなかった!!」


 ケイスケの言葉を遮り、ゲイルは叫んだ。

 手札を表にし、人間の姿を模しただけの姿で目尻から涙を流す。


「これは……タマキに、お好み焼き屋の婆ちゃんに、星空の丘……? 何故こんなカードを山札に入れていたんだ。バランスが悪いだろう」

「それでも、私には抜くという選択肢が無かったんだ。ただの一枚も、この地球の思い出を抜く事など出来なかった」

「……そうか」


 ケイスケは椅子に深く座り、天を仰いだ。

 そして、手で目を覆い……消え入りそうな言葉で呟く。


「俺が思っていたよりも、君はゲームを楽しんでいたんだな……」

「ケイスケが私に教えてくれたんだろう? ゲームとは楽しむモノだと。ゲームの本質は相互理解と対話だと……! 私は君の提示した世界を、地球という場所を理解しようとしたんだ」

「俺はバカだな」

「まったくだ。だいたいお前は多くの地球人の命を背負っているんだろうが。忘れたのか」

「くっ、ハハハハハ!!」

「……ケイスケ?」

「いやいや。悪い悪い。既にその話は終わっているんだ」

「なに?」


 ケイスケは椅子から勢いよく立ち上がると、ニヤリと笑いながら一つの答えをゲイル達に示した。


「地球人のほぼ全てが銀河連合への参加を既に終わらせている!」

「……そう、だったのか」

「あぁ。全て俺の計画通りだった。お前たちを騙して、地球を離れない様に時間稼ぎをしてな。少しでも地球に愛着を持ってもらおうと、色々やった」

「……では、この勝負自体が全て茶番だったのか?」


 ゲイルの真剣な眼差しに、ケイスケはフッと笑って答えた。


「いや。ほぼ。って言っただろう? まだ一人参加していない奴がいる」

「……お前か、ケイスケ」

「そうだ。負けた時の代償が何も無いってのは、あまりにも不誠実だからな」

「今の状況が詐欺の様な物だと思うが」

「かもな。だが、宇宙船の管理システムは容認してたみたいだぜ? お前たちに真実を教えなかったんだからな」

「……機械が主人に逆らうとはな」

「最適な選択を選んで、実行する。それが宇宙船のシステムなんだろ? 宇宙クジラの時みたいにな」

「確かに」


 ゲイルはケイスケの言葉に納得し、頷いた。

 そして、そんなゲイルにケイスケは全て終わったと、懐から銃を取り出してこめかみに当てるのだった。


「という訳だ。後は、全てに決着をつけて……終わりにしよう」


 ケイスケの行動にゲイルはハッと顔を上げたが、止める手は間に合わず、銃弾は放たれてしまうのだった……。



☆☆


 地球が銀河連合へ参加してから二年ほどの月日が流れた。

 結局地球に住まう人々は、地球軌道上で行われていた戦いや、各国の政府が秘密裏に協力し合いながら国民を管理し登録を進めた事。

 その時間稼ぎの為に一人戦っていた男が居た事などは知らぬまま平穏な時を過ごしていた。

 むしろ、登録作業の中で、人類の足を引っ張るような者たちが、その姿を消した事で以前よりも平和になったともいえるだろう。


 そして、地球が穏やかな時間を刻んでいる頃、多くの混乱を地球に起こした者たちは今……遥かな銀河の彼方に居た。


『あくまで我々は平和的に話し合いをしに来ただけだ』

『信用など出来るものか! 星の外から来た者たちは、我らの世界を踏み荒らす悪魔だ! 受け入れる事など出来ない! 例え、我らの力がお前たちに遠く及ばない物だとしても!』

『……』

『我らは戦う! 徹底的にだ』

『そうか。ならば仕方ない』

『っ! 戦いか!?』

『いや。こういう衝突が得意な奴が居るんだ。ソイツに任せるさ』


 二足歩行のトカゲから槍を突き付けられながら、通信機を使ったゲイルは土で出来た家の中に入ってくる男を見て、目を細めた。

 2年前と何も変わらない。

 ふてぶてしい顔をしているが、笑う顔がどこか憎めない男を。


「あぁ、悪いな。外の連中と遊んでたら時間が掛かっちまってな。んで? アンタが族長って奴か」

『お前は……?』

「俺はケイスケってモンだ」



 あの時、地球軌道上の戦いで、自ら命を絶とうとしたケイスケの銃を弾き落として、自殺を止めた宇宙船は、クジラの歌を流し、ケイスケに告げた。


『敗者が死ぬというルールは存在しなかった。ケイスケはゲイルの願いに従い、辺境調査団に参加するべきである』と。


 そして……


 額に出来た大きな傷跡をそのままに、ケイスケはニヤリと笑ってトカゲ族の族長に告げた。


「一つ、俺とゲームをしようぜ。話はそれからだ」

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