第13話『カードゲームという強さ』
一瞬、ゲイルに傾いたかと思われた戦いであったが、結局ケイスケが更に有利な状況を作り出すという形でゲームは進行していた。
現在ゲイルが手番を握っているが、相手の手番中だというのに山札を削ってきたケイスケの行動にゲイルは焦っていた。
何度もテストプレイをしていたというのに、赤のカードを一部だけ入れる戦術も、アクアハザードで自発的にダメージを与える戦術も、更にそれを使いまわす効果も、知っていた。
理解していたというのに、読み切れなかった。
それがゲイルには非常に悔しい事であった。
ゲイルの用意した最高のデッキは、協力な黄色と青を主軸にし、緑で強力なカードを妨害する形のデッキだ。
これなら、堅実に安定して戦い続ける事が出来る。
相手のエースを妨害か戦闘で待機所送りにすれば、ゆっくりとだが追い詰める事が出来る。
重量型のデッキであった。
しかし、対するケイスケは、そんなゲイルの考えを読んでいるとばかりに、青のカードを中心として、黄色とおそらくは僅かな赤と緑のカードを使ってゆく戦術だ。
待機所のカードを除外する事でコストを生み出すのが基本となる以上、それ以外のカードは消費が激しく、より緻密な戦場には不向きと思われた。
が、ケイスケは、何のためらいもなくそれを実行してきたのだ。
確率がどれだけ低くても、消費が激しくても関係ない。
通れば勝てる道をケイスケは、貫いてきた。
無論それは己の運を信じているという事もあるだろうが……ゲイルのデッキを読み切った上での決断でもあった。
ゲイルはどうやっても安定を求めてしまう。
しっかりと守り、綺麗に攻めれば勝てるデッキを選んでしまう性質があった。
故に、多少賭けの要素が強くても、動きが鈍いのなら攻める手はいくらでもあるという事だ。
「……厄介な」
現状、
手札はほぼ変わらず、盤面も大きな差はない。
だが……。
ゲイルの残り山札は21枚。
ケイスケの残り山札は30枚。
山札の差は大きい。
ここから、差を埋めていかなければいけない訳だが、その道は酷く険しい道なのであった。
特に。
先ほど待機所から手札に加えられた『獄炎竜 ファイアブラスター』が登場した場合、同じ流れで6点削られてしまい、残り15枚となってしまう。
最悪はレベル5を待たずしてゲームは終了だ。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。
今はとにかく緑の3コスト以上のカードを引き、『獄炎竜 ファイアブラスター』の登場を無効にしなくてはいけないとゲイルは手札を増やす作戦を取る事にした。
まだ手札のカードを使用する事は出来ないのだ。
効果を止める為には、新しいカードを引き入れる必要があった。
故にゲイルはカードを場に出し2枚のカードを引く。
そして、引き当てたのは緑4コストのカードであった。
「私はこれで手番を終了する」
とにかくゲイルは『獄炎竜 ファイアブラスター』の登場を止める事に意識を集中し、ケイスケの行動を見つめる。
いつ、『獄炎竜 ファイアブラスター』を登場させるのか、と。
「俺はまず、パートナーカードでお前のパートナーカードに攻撃」
装備カードの影響もあり、2点山札にダメージが通ってしまう。
ゲイルはひとまず、山札からカードを引くために後列に置いたカードで防御し、攻撃をしのいだ。
ケイスケはそれをジッと見つめると、頷いてから遂に『獄炎竜 ファイアブラスター』を登場させようとするのであった。
しかしそれは予見していた事。
ゲイルはやや先走り気味に『銀河連合の管理官 ガーラ』の効果を使うのだった。
「私は『銀河連合の管理官 ガーラ』の効果により、手札から緑4コストのカードを待機所に送り、『獄炎竜 ファイアブラスター』の登場を無効にする!」
「ほぅ。持っていたか。やるな」
「当然だ。流石に2回も素通しは出来ない」
「そうか」
『夢咲陽菜』の効果を使い登場させようとした『獄炎竜 ファイアブラスター』を無効にした事で、このターンのコスト発生は難しい。
もう一枚何かしらがある可能性はあるが、それも手札やコストの消費は激しいだろう。
ゲイルはそう考えていた。
そう、考えさせられていた。
「俺は、『幼き聖女 イザベラ』の効果、発動!」
「え?」
ゲイルはケイスケの言葉に場を見て、目を見開く。
手札を3枚待機所へ送り、使用されるその効果は……!
「山札から『闇に落ちた聖女 イザベラ』をコストを支払わずに登場する」
「う……!」
「そして、『サバクゴムラオオトカゲ』の効果発動。山札より『サバクゴムラキョダイトカゲ』を俺の場に登場させる。更に、『サバクゴムラキョダイトカゲ』の効果発動。山札を2枚削り、待機所のカード……今落ちた分も含め、『サバクゴムラ』が名称に含まれるカードをこのカードの下に置き、攻撃力と防御力を上昇させる」
ケイスケの場に並んだカードにゲイルは思考を巡らせながら考え続けるが、その答えも見えないままケイスケの声が響く。
「俺はこれで手番を終了する」
「……あぁ」
「では終了時、『闇に落ちた聖女 イザベラ』の効果、発動! このカードを行動済み状態にして相手の場に置く事が出来る。このカードの戦闘では代わりの防御カードを指定する事が出来ず、このカードが受ける超過ダメージは山札に与えられる。そして、このカードはイベント、キャラクターカードの効果を受けない」
「まさか……私が見落としてしまうとは……!」
「その為にファイアブラスターに意識を集中させたんだ。当然だろ?」
「ケイスケ……!」
悔し気にケイスケの名を呼びながら盤面を見据えていたゲイルは、更に最悪な状況に目を見開いた。
「俺は、待機所の『幼き聖女 イザベラ』の効果発動。このカードを除外し、『真実の聖女 イザベラ』を俺の場に登場させる……! が、このカードの登場時の効果により俺は手札を捨てる……これで俺の手札は残り2枚だ。手番終了!」
「そう……か」
ゲイルはあまりにも重いケイスケの盤面を見つめる。
トカゲの攻撃力は現状で既に12あり、他のカードの効果は受けないが、まだ自分で成長する事が出来る。
パートナーカードであるルークは、レベル5で攻撃力が15を超え、更に装備カードを待機所へ置く事で瞬間的に攻撃力を爆発的に上昇させる事が出来る。
そして、真実の聖女 イザベラは一度しか戦闘出来ないが、その攻撃力は味方のカード全ての攻撃力を合計した数値になる。
どれか一つでも通せば敗北してしまう。
しかも次のケイスケの手番には、パートナーカードがレベル5となり、全てのカードが解禁される。
総攻撃を受けて、盤面は崩壊するだろう。
ゲイルにはもう後がない。
しかし、それでも手札にはまだ希望が残されている。
山札にはまだ勝利に続くカードがある。
ゲイルは重い息を吐きながら山札の上からカードを2枚引いた。
そこに希望があると信じて……。
「私の手番だ……2枚カードを、引く!」
ゲイルは静かに目を手札に走らせた後、手札の装備カードを1枚選び、場のカードに装備させた。
「私は、手札の『銀の弾丸』を『闇に落ちた聖女 イザベラ』に装備。そして、手札の『水激竜 アクアハザード』の効果発動。場のコスト3以上のカード『闇に落ちた聖女 イザベラ』を待機所へ送り、このカードを登場させる」
「なるほど、『銀の弾丸』の効果で、イザベラの効果を消し、場から取り除いたか」
「あぁ。私はまだ、敗北していないぞ。ケイスケ……! 私の手番はこれで終了だ!」
「良いだろう。ならば最終局面に行こうじゃないか!」
遂にケイスケとゲイルの戦いに終わりの時が迫ってきていた。
ケイスケは山札からカードを2枚引き、パートナーカードのレベルを上げる。
パートナーカードのレベルは5へと到達した。
ゲイルの残り山札は17枚。
ケイスケの残り山札は23枚。




