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第10話『決戦前。二人の時間』

 図鑑も見つかったことで、宇宙船に仲間たちと図鑑を送り、宇宙にいる生物のデータをまとめて貰いながら、ゲイルはケイスケに少し街を歩きたいと提案した。

 すっかり日も落ちて、夜闇の世界を二人は目的も無しに話をしながら歩く。


「今日は実に良い経験をさせて貰った」

「ふむ?」

「こんな世界もあったのだと、知る事が出来て嬉しかったよ。実に楽しかった」

「そんなにか?」

「あぁ。そんなにだ。私たちは母星を持たないからな」


 ゲイルが語り出した話にケイスケは目を細めた。

 今までの軽い調子など何処かに消え、ゲイルの話に全ての意識を集中させている様に見える。


「我々の星はな。遥かな昔に滅んだのだ。私と同じ名の英雄が銀河連合を作ったのも、それが原因さ」

「……なるほどな」


 ケイスケは歩きながら夜空を見上げ、無限に広がるどこまでも遠い星々へ想いを馳せた。


「宇宙には様々な星がある。砂ばかりの星もあるし、我々が到達した時点で既に命が滅びかけていた星もあった」

「地球はどんなモンだ」

「……素直に言っても良いか?」

「あぁ。むしろ聞きたいね」

「私からすれば、最悪だよ。この星は。最悪だった」

「そうか」

「こんなにも世界に光が溢れていて、命が溢れていて。君たちは殺し合い奪い合い、憎み合っている。それだけの余裕がある。それが酷く憎かった。我々は何も持たぬまま宇宙を彷徨っているのに。と」

「何処かに住む星はねぇのか? 無人の惑星とかさ」

「無くはない。が、その星にもな。可能性はあるのだ。何かが芽生える可能性がある。ならば我らがそれを奪い取るのは違うだろう?」

「……お優しい事だ。別にそこから生まれる予定だった命はお前らを恨む事は出来ないだろうに」

「それでもだ。英雄はその行いを侵略と呼んだ。決断はあくまでその星の命がするべきだと」

「なるほどな」


 ケイスケはゲイルの言葉に頷きながら道の途中に現れた小高い丘への道をゲイルに指し示した。

 その道の先はこの街を一望できる丘の上に繋がっており、昼間は子供などが来るが、夜は人がいない静かな場所である。


「何となく繋がったよ。ゲイルが何でわざわざ争いを起こさせる様な事を言ったのかってな」

「分かるか」

「まぁ、それなりに話もしてるからな」


 ケイスケは夜空に向かって息を吐きながら坂道を歩き続け、やや迷ってから言葉を落とした。


「お前はこの星が欲しかったんだな」

「あぁ。我々が現れた事で、お前たちが互いに憎み合い、殺し合えば良いと思った。それがこの星の決断であり、我々は無人の惑星を手に入れる事が出来る。英雄の意思に反しないままな」

「へっ、とんだ詭弁だぜ」

「分かっているさ」


 ゲイルはフッと笑いながら、ケイスケの隣でケイスケと同じ様に星空を見上げた。


「それでも、願ってしまったんだよ。帰る場所が欲しいとな」

「宇宙の迷子……か」


 ケイスケの言葉に、ゲイルは何も返さぬまま歩き続け、ケイスケもまた無言のまま歩く。

 そして、二人は丘の頂上までたどり着くと、公園の様になっているその場所の端まで行き、手すりに寄りかかって街の灯りを見つめるのだった。


「しかし、とんだ嘘つき野郎だな。お前は。前に話した事は全部嘘か?」

「全てではない。アレはアレで本当さ。地球人を全て残せば、いずれこの星は我が母星と同じ道を辿るだろう。この蒼く美しい星は宇宙から完全に消え去ってしまう」

「だが、それじゃ俺の賭けを受けた理由が分からないな。何故だ」

「決まっているだろう」


 ゲイルは街の灯りから、ケイスケに視線を移し、笑った。


「お前が私を友だと言ったからだ」


 ケイスケはやや驚いた様な顔でゲイルへと視線を返す。


「そんな事でか?」

「そんな事でだ。たったそれだけの事で、私は嬉しかったのだ。心の底からな」

「そうかい」

「あの時、あの場所で、君が私に手を差し出し、友になりたいと言った時の私の気持ちが想像できるか? 君は私たちの敵意を明確に理解していた。どれほどの恐怖を感じていたか。その上で、私に言ったのだ。友になろう、と」

「俺はそこまで考えてた訳じゃないけどな」

「関係ないさ。いや、逆に何も考えていなかったからこそ、それが君の本質であったと言えるかもしれない」

「口の上手い奴だな」

「だからこそ、私は交渉役に選ばれているのだぞ」

「そりゃ確かに」


 二人は周囲に声が響くほどに腹の底から笑い、落ち着いてから笑顔のまま視線を交わし合った。


「だが、それはそれ。だろ?」

「その通りだ。悔いのないように、戦おうじゃないか」


 そして、二人は宇宙船へ戻り、一日ゆっくりと休んでから改めてカード作りを始めた。

 宇宙船に作成して貰った図鑑を見ながら、宇宙に居る様々な生物の情報を理解し、それをカードにする。


「ケイスケ。次はコイツにしよう。ゴムラ星に伝わる悪魔の話だ」

「悪魔ぁ~?」

「そうだ。名をサバクゴムラオオトカゲ」

「サバクゴムラオオトカゲ」

「笑うな」

「いや、すまん。ちょっと、語感が面白くてな。それで? その、サバクゴムラオオトカゲがどうしたんだ」


 ゲラゲラと笑うケイスケにゲイルはピシャリと言葉をぶつけると、ケイスケが笑い終わってから話の続きを始めた。


「まったく。本当に面白いのはこれからだぞ」

「なるほどな?」

「まずだな。先ほどのサバクゴムラオオトカゲだが、サバクゴムラトカゲを捕食する」

「ほぅ」

「そして、サバクゴムラキョダイトカゲがサバクゴムラオオトカゲを捕食するんだ」

「わっはっは。何がなんだか。まるで早口言葉だな」

「ちなみにな。名前はその星の住人が名付けたらしいが、データを見る限り大きさは中々だぞ」

「そんなにか」

「あぁ、キョダイトカゲは山より大きいらしい」

「マジかよ」

「そこから一段階ずつは小さくなるが、一番小さなトカゲですら、人間など丸呑みだ」

「バケモンじゃねぇか」

「だからこそ、トカゲを倒した者は英雄と呼ばれたワケだな」


 ゲイルの言葉にケイスケは頷きながら、トカゲのカードを作ってゆく。


「そういう感じなら、とりあえず本体黄色のカードにしてだな。効果で青の効果を乗せる」

「するとどうなる?」

「場に出たサバクゴムラトカゲが青のコストを払うと、サバクゴムラオオトカゲを呼び出し、サバクゴムラオオトカゲが青のコストを払うとサバクゴムラキョダイトカゲを呼び出すという感じだ」

「早口言葉か?」

「しょうがねぇだろ。そういう名前なんだから」

「はっはっは。分かっているさ。それで? キョダイトカゲはどうする」

「まぁ、コイツは待機所のトカゲをこのカードの下に置いて、その分攻防上昇って所だな」

「これは手番が終わるまでか?」

「当然。ゲームが終わるまでだ」

「またか。大丈夫か? ケイスケ。前も同じ様なカードを作って、倍にする効果と合わさり大事件になっただろう」

「えぇい! 今回は大丈夫だ! 俺を信じろ!」

「……」

「……」

「まぁ、良いだろう。とりあえず試してみようじゃないか。知らないぞ。私は」

「任せろよ」


 微妙な笑みを浮かべながら放たれたケイスケの言葉に、ゲイルは苦笑で返しながら紙にカードを印刷し、使いやすい様に切ってゆき、テストプレイを続けてゆくのだった。


 そして、それから長い時間が経ち、いよいよ二人の戦いの時が来ていた。

 幾日も、幾月も同じ部屋で遊び、笑い、同じ時を過して来た二人が遂に迎えた時だ。


 ケイスケとゲイルが、静かな宇宙船の中、向かい合いそれぞれが最強と信じた山札を持って向かい合う。


「いよいよだな。ケイスケ」

「あぁ」

「これで全てが決まる。地球人の運命も、お前と私の運命も」

「そうだな」


 ケイスケとゲイルはそれぞれ椅子に座り、小さく息を吐きながら見つめ合うのだった。

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