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第六話 噂話と野菜不足

 明里は毎日のようにコンビニに通っていたが、少しずつ季節は変わって来ているらしい。


 大邑は相変わらず動画配信者として活躍しているようだが、コンビニだけでなく、次はスーパーに行けるように挑戦していると動画で語っていた。あれから大邑は何とかコンビニには入れるようになり、明里も何度か彼を見かけた。といっても何か会話する訳でもなく、会釈したら終わりだが。


「う、今日はちょっと寒いな。上着着て行こう」


 家の外に出ると、風がいつもより冷たい。秋の気配を感じ、明里は上着を着込むと、夜道を歩き、コンビニへ向かった。


 今日は月も星も何も見えない。闇のような空を眺めつつ、コンビニへ。


 晴人は揚げ物を作っているようで、ジュワジュワとした音や油っこい匂いが漂う。レジ横には唐揚げやフライドポテトなどが置いてあったが、惹かれる。一方レジの近くのチルドコーナーは、野菜たっぷりのサンドイッチもあった。野菜フェア中らしく、ビタミンCや食物繊維にまつわる豆知識がポップとして貼られていた。


 見事なダブルバインドだ。揚げ物の匂いとポップの文言に板挟みになりつつも、結局はレタスとトマトのサンドイッチを購入。明里は我ながら自制心があったと褒めたくなったが。


「お客さん、ちょうどアメリカンドックが揚げたてだけど、どうですか?」


 レジで晴人に営業されてしまった。


「ふわふわですよ。お値段も百円」

「い、いえ。それより、コーヒーMサイズください!」


 最後の最後にこんなトリップがあるとは思わなかった。晴人はどう見ても営業スマイルだったが、財布の紐が緩みそうになる。口の中を噛み、どうにか自制心を保つ。


「ありがとうございます」


 どうにかこの戦いを制し、晴人のそんな声を聞きながら、コーヒーを注ぎ、イートインコーナーへ。


 この時間のイートインコーナーは明里の貸切り状態だったが、今日は珍しく客がいた。


 四十歳ぐらいの男だった。世代的には大邑と同じぐらだが、オシャレなベレー帽を被り、口髭もオシャレだ。サラリーマンというよりフリーランスっぽい。明里の元同僚でも決していないようなタイプ。ラフな服装でもベレー帽のお陰で様になっていた。


「こんばんはー」


 しかも男は妙に人懐っこかった。明里と目が合うと、自己紹介までしてきた。


 名前は小林コトリという。変な名前だと思ったが、仕事で使っている名前らしい。


 明里は小林の近くに座って聞いてみた。


「何のお仕事ですか?」

「自営業だね」

「へえ」


 男は何か話したがっていたが、今の休職中の身分でこも話題はしんどい。特に話は広げず、コーヒーを啜り、サンドイッチを食べる。


 想像以上に野菜はシャキシャキとし新鮮だった。パンも柔らかくて美味しい。


「サンドイッチかい? サンドイッチはいいよね。やる気がない時も片手で食べられるから」

「ああ、確かに! いつでも簡単に食べられますね」

「そうそう。それにここのサンドイッチは美味しいよね」


 小林との再び会話する。向こうは妙にコミュ力

 も高いようで、不思議と盛り上がる。明里は初対面の男とこんな風に会話するのは始めてだった。


「ねえ、明里さん。こんな噂聞いたけど、本当だと思う?」

「え、噂って?」

「実は日本の稲荷神社は古代のキリスト教関係が建てたんだってよ」


 その話題はよく知ってる。


「え、ええ」


 レジの方から稲荷に見られているような気がしたが、明里は無視して小林の話に耳を傾ける。


「まあ、俺はそんなの関係ないと思うけど、そんな世界線があったら受けるよね。今でも稲荷神社に隠れてキリスト教徒やってる人がいたら……」


 ちょうどその時だった。地震がおきた。あまり大きな地震ではなかったが、麻子婆さんはギャーギャー大騒ぎ。結果、小林との会話も中断されてしまった。明里としては、その続きを聞いてみたかったのだが、晴人がイートインコーナーへやってきた。


「お客さん、やっぱりもう少し野菜食べた方がいいかもしれませんね。野菜フェアはあと数日間続きますから、是非」


 そんな営業トークもされた。


 もう少し野菜を食べろという意味は……。思い当たる事は山ほどあり、明里は反論出来ない。


「そうだね。野菜食べた方がいいね」


 小林にも指摘されてしまった。結局、小林の話の続きは聞けなかった。それよりも野菜不足が気になってきてしまう。

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