第九話 模範解答
狐に化かされているのか。神隠しにでもあっているのかわからない。
明里はまた例の都市伝説ブログを見ていた。
「あった!」
予想通り、神隠しのブログ記事もある。神隠しにあった少年の証言が綴られていた。
少年は家庭の事情で田舎に越したそう。しかし、田舎では濃いコミュニティが形成され、虐められて困っていたらしい。
しかしある日。お天気雨の日、どしてもいじめが辛い。この場所から救い出して下さいと祈っていたという。
その後、意識が飛び、天国のように美しい場所に飛ばされたという。
そこにはいじめもなく、人の欲も悪意もなく、植物や動物も共存し、夢のように美しい場所だったとか。
その場所からどう帰って来たかも不明だったが、おかげで少年の心も癒され、いつの間にかいじめも解決していたという話だった。少年はあれは神隠しだったと語っていたが。
この話と明里が疑問に思ったいる事に共通点がある。
辛い現実を持っている時、別世界に行くという事だ。
もちろん、あのコンビニは天国のような場所とは言えない。現実に近い場所だが、思えば明里を傷つけるようなものは何もない。別世界といっても良いのかもしれない?
「わからない!」
ブログを読んでいると、ますます分からなくなってきた。
他にも異世界に行った人のインタビュー記事も呼んだが、これもどうやら現実に悩んだり苦しんでいる人が別世界に行くという共通点があったが、穴を開くほどブログ記事を読んでも答えは出そうになかった。
結局、時間だけが進み、夜。
案の定、また昼夜逆転になりってしまい、明里は再びコンビニへ向かっていた。
今の気分は良くない。むしろ悪い。せっかく昼夜逆転をやめようかと思ったのに逆戻りだ。意思の弱い自分を責めそうになるし、あの不思議なコンビニについても分からない事ばかり。
思えばずっと答えがある事ばかりに囲まれていた。そんな仕事をして来た明里は、この状況が気持悪い。
何でも答えがあると思ってた。学校のテストだけでなく、不幸や幸せとかにも。幸せの答えもある気がして、一生懸命働いていたが、これも間違いだったのだろうか。だとすれば、今の自分は間違いを選んでいる?
働けず休職している今の明里は、不正解?
夜の県道沿いの道を歩きながら、明里の思考は迷路に入り込んでいた。
すっかり表情も暗く沈んでいたが、コンビニの明かりが見える。
急にホッとした。
思えば二十四時間、いつでもどんな時も存在している店があるのは、贅沢な事なのかもしれない。
そんな事も考えつつコンビニの明かりに吸いここまれるように、店内へ。
「揚げもの揚げたてでーす!」
店に入ると晴人の明るい声が響き、明里はほっと胸を撫で下ろす。
不可解なコンビニだったが、ここは完璧に安全で平和な日常が広がっていた。
気が緩む。肩の力も抜けそうだ。
野菜を食べた方が良い事も重々承知だったが、ついついレジ横の揚げものを凝視してしまう。
特に黄金色にあがったチキンや丸いフォルムのアメリカンドッグも魅力的。
「チキンください!」
反射的に注文していた。
晴人は笑顔でそれを紙袋に包み、セロハンテープで封をしてくれた。両手の甲にある奇妙な傷跡はやっぱり気になるが。
「ねえ、店員さん。このコンビニって何? ネットで検索しても情報が出て来ないのよ。どういう事? 異界にでもある?」
お金を支払いつつ、明里は疑問に思っている事を全部聞いてみた。
晴人の琥珀色の目は全く動揺を見せない。代わりに営業スマイルでこう言う。
「お買い上げありがとうございました」
明里の質問には絶対に答えないという意思が伝わってくる。
「あの、私の質問は?」
「出来立てですので、火傷しないようにお気をつけて。おしぼりは必要です?」
だめだ。これは絶対答えたくないようだ。しかし返ってこのコンビニが訳アリの場所だという事がはっきりした。明里の幻、妄想の類いではなさそう。
「まあ、一つ言える事は、模範解答がある事ばかりじゃないって事ですよ、お客様」
「え?」
「世の中は学校のテストじゃないから」
もっと晴人に聞いてみたかったが無理だった。他の客も入ってきてレジに並んでいたから。
模範解答?
首を捻りつつも、チキンの包みを持ち、レジから去ろうとした時だった。
後ろに並んでいた客にきつく睨まれた。
客は若い美女だった。スキニーパンツが似合い、派手な色のシャツも似合ってる。深夜のコンビニ客だったが、メイクもヘアセットもバッチリだった。特にアイシャドウは絵のように綺麗なグラデーションだったが、目を吊り上げているので台無し状態。
「デブがチキン買ってるとか、受けるわ。ブス!」
そして客は口もものすごく悪かった。ここ手の言葉は学校で何度も聞かせられたので、明里の身体が強張る。
「ブス!」
最後にもう一度言われた。
「お客様、店内での暴言はご遠慮ください」
晴人は慣れたもので、こんな客にも冷静に対応していたが。
心臓が嫌な音を立てていた。ここは違う世界にあるコンビニかもしれないが、別に天国ではなさそう?




