え?どうしよう、彼氏に家を追い出された!
「悪いけど出てって」
「は?」
私は彼氏と同棲していた部屋をいきなり追い出された。
「好きな奴できたから、お前は用無し!」
「なっ、ひどいっ!」
あまりのことに抗議するも、彼氏は涼しい顔をしてたたみかけてくる。
「好きな奴できてお前と付き合ってたら二又になるだろ?ちゃんと言ってあげてやさしーと思うけど、オレ」
彼氏の顔がすっごい今憎らしい。
「今さ、夜だよ?今追い出されても困るよ」
憎らしいし彼のことギタギタにしたいけど、今部屋を追い出されても行くところがない。
仕方無しに自分に落ち着け落ち着け、と言葉をかけ続けてこらえた。
「は?しらねーし。これから本命来るから、告白するんだよ。お前いたらめんどーだろ。早く出てけって」
清々しいほどのクズ男
こんなのが好きだった自分を呪いたい、というか今まさに自己嫌悪。
「分かったわよ、あんたと一緒の空気なんてもう一秒も吸いたくないっじゃあねっ!」
もう部屋にあるものなんてどうでもいい
私は、やけになって財布の入ったバッグを持って外に出た。
「・・・どうしよう」
出てきたものの、あてもなく近くの公園でため息をつく私。
23歳、まだ新卒で、彼氏と同棲する部屋は会社からも近くて、彼氏ともラブラブで、幸せいっぱいだ、、、と思っていた。つい10分前までは。
今は寒空の下公園のブランコに揺れている。
どうしよう。
頼れる友達は地元だし、住む場所確保しなきゃ、、、
はぁーとため息をついた時。
携帯の着信音が鳴り出した。
ビクッとする私。
もしかして、彼氏が戻ってきてって連絡してきたのかと期待して、画面を覗き込むと、そこに表示されていた名前は私の幼馴染のコウキだった。
「もしもし?」
携帯に出る私に、コウキは、明るい声で反応した。
「あっミクちゃん?元気でやってる?」
懐かしい声を聞いて、私は、思わず涙ぐんでしまう。
「うん、まあ・・・ね。コウキこそ、どうしたの?」
「・・・ミクちゃん、今どこ?」
私の返答を聞いて、コウキの声のトーンが少し下がった。
「い、今?えーと」
ごまかそうかと思ったものの、途方に暮れていた私は、コウキに彼氏に家を追い出されたことを告げる。
「何その彼氏?ひどすぎるね!!」
ユウキが怒ってくれて少し嬉しかった。
私の話を聞いたコウキは、ひとしきり彼氏に対して怒りを吐き出していた。
「どうりで!ミクちゃん、凄く泣きそうな声してたよ。それに、こんな時間に車の通る音もするし、今外なんでしょ?よかったらうちにおいでよ」
コウキは、意外と観察眼が鋭いらしい。
私が外にいることを見透かされていたみたい。
でも・・・
「えっ?コウキの家に行くって?コウキって確か就職先、東京じゃなかったよね?」
「うん、研修は本社だったんだけど、配属でこっちに引っ越して来た所。今日引っ越しが終わって、ミクちゃんのこと思い出して電話してみたんだ」
グッドタイミング。
なんていいタイミングでこっちに来てくれたの、コウキ!
「じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔して、、、いいかな?」
私がおずおずと尋ねると、コウキは即座に返事をしてくれた。
「もちろん!大歓迎だよ。困ってる所を助けられてよかった」
こうして、私は幼馴染のコウキの家にお邪魔することになったのだった・・・。
「あれーここで良かったかな・・・」
私はコウキから指定された駅に降りて、目の前のモニュメントのようなものの前で困惑する。
コウキは東口で待っててって言ったっけ?どうだったかな・・・
記憶をさぐっていると、後ろから不意にポンッと肩を叩かれた。
振り返ると、懐かしいコウキの笑顔があった。
「ミクちゃん、久しぶり」
なんだかコウキの笑顔を見ると安心して力が抜けてしまう。
ふらつく私を慌てた顔で支えてくれるコウキ。
「大丈夫?」
焦った顔が私に一生懸命問いかける姿に私は思わずフッと笑ってしまう。
「大丈夫、相変わらず心配性なんだから。ちょっといろいろあって疲れただけ」
私の言葉にコウキは軽く安堵のため息を着くと、私の手をひいて、コウキが来た方へと方向転換させる。
「僕の家、こっちだから、早く行って休もう?」
「うん」
私はその言葉に甘えて、そのまま、一緒に歩き出す。
チラッと何年かぶりのコウキを盗み見る。
淡い茶色の髪はふわふわの猫っ毛で目が大きくて整った顔立ちをしている。
童顔って学生の頃も散々言われていたけど、今隣りにいても、コウキがもう社会人なんて信じられない。
大学生でも全然通るな・・・
なんて思ってると、コウキの視線とバチッと絡まる。
「どうしたの?そんなに僕の顔見て」
「え?あ、うん」
まさか未だに幼いね、なんて男の人には褒め言葉じゃないよね。
しかも、これからお世話になる身なのに。
「あー、何か懐かしいなって。学生時代、よくこうして帰ったね」
「そーだね、家隣だったからね。ずっと前のことみたいに感じるな」
そう言ってコウキは少し笑う。
「ミクちゃん、あの時完全に僕のこと弟だと思ってたでしょ?絶対に同級生の扱いじゃなかったよ」
そんなコウキに、私は笑って言い返す。
「だって、コウキ、ほっとけなかったし。いろいろ頼りないから私がフォローしてたんだって」
そう言ってから思い出す。
「その割に女の子には人気あったよねー、何故か私がやっかまれたりして」
女の子には、ちょっと頼りない位の男の子が放っておけなくて気になるのかな?なんて当時は思っていたけど。
「今はちゃんと社会人してるからね」
コウキの抗議にわたしははいはいと頷く。
「分かってるって、もうお互い社会人だもん、大人になったよね」
そう感傷に浸っていると、コウキが不意に足を止めた。
「ここ、僕が借りてる賃貸。駅から結構近いでしょ?」
「へえー、うん、いい物件だね」
綺麗な白い建物に、エントランスも高級感があって、私は一目見て気に入った。
中に入れてもらうと、コウキは昔から綺麗好きだっただけあって、きちっとキレイに整理された部屋に感嘆する。
「さすがコウキ、部屋綺麗に整頓されてるね」
「そうかな?そういえば、ミクちゃん、整理整頓苦手だったっけ?あ、そのへんのソファーに座って」
サラッと整理整頓のことを言われてしまう。
どーせ、私は整理整頓苦手ですよ、と少しすねてしまう。
別れた彼にも片付けちゃんとしろよ、って注意されてたなー。
と思いながら、ソファーに腰掛ける。
「はい、ココア」
「わあ、ありがとう!」
私が好きなの覚えててくれたのかな?
暖かいココアの匂いにジーンとしていると、
「それで、これからどうするの?ミクちゃん」
隣に座ったコウキがフワッと猫毛を揺らして私を覗き込んだ。
「うーん」
私はコウキのアップの顔に少しドキッとしながら返事をした。
「元彼のとこにある荷物はもう諦める。手持ちのカードや財布が入ってるカバンさえあればなんとかなるし。だけど・・・」
チラッとコウキを見る。
「私、大学の友達あまりいないし、頼れる人がいないんだ。だから次の給料が出るまで住む場所には困る・・・かな。マンスリーマンションとか当たってみようとは思ってるけど」
コウキは、軽くため息をついた。
「そっかぁ。つくづく元彼が酷すぎるね。」
「そんな奴って見抜けなかった私も私だけどね」
自虐的に笑ってみるけど、コウキの顔は真剣なままだ。
「じゃあ、ミクちゃんに提案があるんだけど」
コウキの言葉に私は首を傾げて問いかける。
「何?提案って」
「僕と一緒にこの部屋に住んで、恋人になってくれない?」
「・・・は?」
とんでもない言葉が聞こえて来たような・・・
私の思考が停止する。
「う、そでしょ・・・?」
私の言葉に、コウキは、到底冗談じゃなさそうな顔をして、首を横に振ったのだった。