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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十三章 「特攻隊」
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学校生活

「先生どうしたんですか」

「いや、ちょっと……まあ大丈夫です」


 引田の診察を受けた翌日、教師たちはどこか青い顔をしていた。個人差はあれど皆が皆どこか不調そうであり、児童たちを心配させるには十分だった。


「とにかく、今日の四時間目は体育です。皆さん頑張りましょうねー」

「はーい」


 体育の授業をわざわざ強調する。一週間前から発表されていた時間割の通りであり、ちっとも強調されるようなそれではない。今日給食当番である数名の児童は面倒くさそうにしていたが、みんな経験する事だからしょうがないとあきらめるしかなかった。

 できれば金曜日に診察を受けたかったと言う教師もいた。週休二日制が徹底されている学校である以上、土曜日と言う授業のない日を休養に当てたかったと言う訳だ。無論小学生に授業はなくても教師には仕事があるが、少なくとも同病相憐れむ事が出来るだけ気持ちは楽だった。


「今日の体育の授業ってなんだろう」


 そんな無邪気な事を言う児童たちを前にして、教師はその時まで必死に耐える事しかできなかった。


 目端のきく児童は、とっくに校庭の方の異変に気付いていたのだが。







「さあ、いつも通り。徹底的に戦うのです。自分たちから全てを奪い、いや、世界の全てを汚そうとする悪い奴を!」


 その四時間目。教師の号令と共に体操着姿の小学生たちはバラエティ番組「ヒット・ザ・ターゲット」で使われているような棒を握りながら向かって行く。

 醜悪な男性の絵が貼り付けられたサンドバッグや人形に向け、棒を振り下ろし、叩き下ろし、横から薙ぎ払い、下からすくい上げて叩く。


「世界を返せ!」

「お前らは要らない!」

「負けないから!」


 それぞれが思い思いの言葉を叫びながら、徹底的に叩く。教師は棒をしっかりと握り、時に声援を飛ばす。

「オトコたちの弱点は股の間です!そこを狙うのです!」


 オトコの弱点については一年生の段階で教えている。どんなに弱い人間でもそこを狙えばひるませる事が出来るし、あわよくばオトコをオトコでなくす事もできる。そうなればもはやこちらを害する意思も失われ、少なくとも無害な存在にはできるかもしれない。無論逆に捨て鉢になってくる可能性もあるが、それならそれで別に構わないとさえ思っていた。


 ちなみに第一の女性だけの町同様、この町にいわゆるニューハーフの入町は認められていない。

 例えその部分の工事が完了していたとしても、男性として生まれた時点でアウトと言う事になっている。いわゆる性同一性障害を名乗り男性性を持つ者が入る事を恐れた政策の延長であり、第一の女性だけの町と違い議会の俎上に乗る事もない。



 そしてこの手の訓練を行う際に教師たちが一番気にしているのが、一つの質問である。



「女性でもその部分は痛いんですか」

「そう、です……」


 そう、答えるしかできない。


 それはこの町で生まれた少女たちがどんなに自然を凌駕したクローンによるやり方で生まれたとしても「生物」を越える事は出来ないと言う証であり、外の世界に出ればたちまち慰み物にされる危険と隣り合わせと言う理由の最大たるものである。


 オトコは、常にその性器を求めて動く。逃れがたき、生物としての本能。



 いずれは科学が発展し、その場所さえもない究極の人類が作れるのだろうか。



 あるいは、膀胱や肛門さえも要らない、何ひとつ無駄のない存在さえも。

 そのための研究は未だに進んでいないが、それこそ人間が性欲とか言う不純物を排除した究極の存在になれる事は間違いない。


 そんな事を真剣に考えていたのが追川恵美であり、どうすれば実現できるのか日々頭を悩ませていた時期もあった。女性だけしか生まれない受精卵が出来るようになった以上、と言う期待が、町長を含む住民たちをもっと欲深くしていた。


「先生、なんだか臭いんですけど」


 その途方もない夢に対し、現実はあまりにもそっけなく濁っている。

 人形を殴り続ける児童たちの中に、息が上がっているそれが出て来た。体力の多寡がある以上しょうがないが、それ以上に顔を背けたり人形を引きずろうとする児童が出て来た。

 緑色に輝く草木の向こうから出て来る存在に対し、児童たちはひるんでいる。


「それはね、悪いオトコたちの悪い力なの!絵だけになっても私たちを苦しめようとしている!とんでもない奴らなの!」


 教師は叫び、児童たちは首をわずかに縦に振る。


 ここでひるめばオトコにやられる。



 その不断の決意を見せ付けるべく、教師自ら走り出す。



 そして徹底的に人形の股間と頭を殴り、叫びまくる。



 まさに親の仇を討つかのように。


 この町で生まれた一期生と言うべき教師の腕は、チャイムが鳴るまで止まる事はなかった。

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