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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十三章 「特攻隊」
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弁護士登場

「外の世界に対しての訴訟ですね」

「先日は大変ご迷惑をおかけしてしまいましたからね。でもあなたのそういう所を町長たちは高く評価しているのです」

「あるいは外の世界の暴走を伝え、岸さんのやり方では生ぬるいと言わせるべきであったと思わなかった訳ではありません。でもあの輩はそれをしようとせず、あくまでも岸さんが許せなかった、佐藤と高遠を守れと」


 こぎれいな事務所に居を構える彼女は、実に楽しそうだった。


 中央ではなく脇の階段から大回りして来たお客様に紅茶を出す姿は、数日前の彼女と別人だった。


「本当に度し難いお話ですね。とにかく、あなたには全世界の命運がかかっているのです。頼みます、老川弁護士。これは超党派の意思なのです」


 老川八重子と呼ばれた弁護士に頭を下げるのは、誠々党の芥子川萌香議員だった。


 芥子川議員はまだ若いが赤い眼鏡を輝かせ、赤茶色の髪をまとめ首から下も赤くコーディネートしているため赤い議員とも呼ばれている。


 真女性党所属の岸とは良いライバルだと言われた芥子川だったが、その岸が非業の死を遂げてしまってからは少し落ち込んでいた。

 勇敢な人物であったのに、まさかあんな存在に殺されるとは。話の通じなさを甘く見ていた罰と言えばそれまでだが、あまりにももったいない結果。


 その彼女の仇討ちのためにも、芥子川はこの任務を成し遂げねばならないと思っている。


「女に飢えたオトコは、それこそオトコを知らない女である我々に食いつきます。骨一本、髪の毛一本残さず食い荒らし、いずれまた飢えて別のそれを漁りに行くのです。幼い女を好むのは、より自分色に染めやすいからです。それこそ我々はオトコに対して警戒心はあれどそれ以上の知識はなく、あるいは与しやすいと思われていても不思議はありません」

「卑劣で、醜悪ですね」

「ええ。ですからこの虚偽の広告を出した企業を告訴するための告訴状を作成して欲しいのです」


 女性だけの町から来た人間(経験者)を高額で雇い入れると言う、明らかに地域差別な文句。単純に虫が良すぎるし、それ以上に建築会社と言うそれ自体が信用ならない。

「刈谷を見たでしょう、言動が極めて粗野であり、野蛮であり、そして無駄に腕力に長けていると」

「ええ。一人の女性をその手で殺せるほどにです。やはりああいう人間には力を持たせてはいけないのです」

「ちょっと話が」

「すみません、つい。とにかく、これ以上我々が閉じこもっていては、ますます外の世界は荒れ果て、人間の住める世界ではなくなります」


 真女性党の岸、誠々党の芥子川。次代党首候補と言われた二人。


 二人して席を共にし、外の世界をどう変えて行くかについて話し合ったのもいい思い出だった。

 この町で生まれた岸と、二歳の時にこの町に連れられた芥子川。女性の暮らしやすい新時代を作るために、先陣を切って行くはずだった二人。

 それが、まさか同じ町の女性により失われるとは。

「実に間の悪い話です」

「とは言え我が町出身のその手の人間はそういう事をしかねないと宣伝する事は出来たかもしれませんが」

「冗談でも性質が悪いですよ」

「ええ。最近あまりにもガンギマリ女が多いものでしてね。この実態を伝えれば誰も欲しがらなくなると」

「そうして戻って来るのが望みですか」

「まさか」


 芥子川は笑っている。

 この町を出て行く人間のほとんどが、背中から罵声を投げ付けられる。第一の女性だけの町のように葬儀まで行われはしないが、少なくともそれは相手を大事にしていると言う形は取っている。少なくともガンギマリ女とか言って笑い者にする事はない。

 もちろん、芥子川からすればぬるいとなる。岸も生前そう言っていた。


「いずれにしても、詐欺罪・強姦未遂罪での訴訟を行います。

 原告はこの町の住民全員、代表として私たち議員。罪状は先に述べた書状の通り」

「罪が軽すぎませんか」

「残念ながら外の世界での限界です。とにかくこの件に関しては訴訟する事自体に意味があります。少しでも私たちの町とその住人を侮辱するような事があればいつでもと言う事です」

「確かにその通りです。とは言え被害者の数が二百と言うのは」

「もちろん二百などにはさせません。町内で私たち議員がやるまでです」


 芥子川はジュエルドプリンセスで買った靴を鳴らしながら、胸を反らす。


 既に、自分の党の党首である尾田兼子はおろか追川恵美とも話は付いている。


 多くの人間の力で、正義を通すために。

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