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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十一章 〇年物
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「過労死」

「私たちはこの世界の最後の良心なのです。その良心がだらけていては世界は破滅します」

「夜道を平気で歩けるようになるはずじゃなかったんですか」

「その恩恵はあなた方も受けているのです!」


 崇高なる使命を背負って作られたと言うのに、彼女たちの口はちっとも止まらない。

 口を動かす力で体を動かせばどれほど仕事が早く終わるか、わからない訳はないと言うのに。


(ここまで腐敗が進行していたとは……アスファルトの前に彼らを取り換えるべきだったと言う事でしょうか……正統な理由を得られたのは、不幸中の幸いと言えるやもしれませんが…………)


 彼らと言う言葉はこの町においてはトップクラスの侮蔑語であり、それこそ先々代の町長が「彼女ら」を「彼ら」と誤記したせいで大スキャンダルになり、現在では政界を去って第一の女性だけの町に流れてひっそりと暮らしていると言う話まである。

 それを口にしないだけでも感謝してくれとさえ岸は感じていた。



 第一の女性だけの町では、この手の連中が我が物顔をして町内を闊歩しているのだろう。

 当然のように力ばかりが強く、かつ頭の足りない連中が。それこそ文字通りの「彼ら」であり、女性に対する暴力の象徴のような存在。きっと粗野な声を上げ、大酒を吞んでパートナーに迷惑をかけまくっているのだろう。

 議員と言う「女性だけの町」の代表として、何としても正さねばならない。

 目の前の彼女たちの矯正が終わったら、改めて向こうの改善に努めねばならぬだろう。そのために現在進行形で町長に対して交渉を求めているが、先延ばしかゼロ回答かでちっとも話が進まない。

 最近では少しずつ前向きになっているらしいが、牛歩よりも遅いペースでありその間に何人の女性が食い物にされているか分かった物ではない。当然それも岸だけでなく議員や町長たちのいら立ちの種になっている。

 もちろん攻撃方法を間違えれば自爆する事もあり、夜中に公園で高いびきを掻いていた女を撮影してみっともなさの極みとして投稿した人間はアカウントが大炎上して三日と経たずに町から居場所を失い追放、現在ではオトコ相手に体を売って飯を食っているとも言われている。


 

「どうしてなのです?どうして?」


 別に嫌みのつもりもない。

 年上の職員たちに向かってなぜ素晴らしい大義名分のために動けないのか、心底から不思議そうに言う。


 オトコの手を介さずに生まれた第一世代の頂点に立つ存在として数年、数十年後の町を引っ張っていく事を求められた彼女。

 元から小学校一、中学校一、高校一、大学首席の存在であり鳴り物入りで電波塔職員から町議会議員になった岸。

 そんな人間でも、わからない事は山のようにある。


 例えば目の前でこちらに反抗するかのように体を動かす連中の事。


 四人の中で長である刈谷を含め、ここにいる四人は皆四十代前半。

 つまり、中学生ぐらいの時期にこの町にやって来た女性たち。


 この町に外の世界からやって来た女性たち、それこそ大事な時期の教育を受け損ねてしまった世代。


 彼女たちはそれこそいつでも子どもを持てると言う環境が逆に邪魔をしてか未婚率が高く、また町を出て行く人間も多い。残っている彼女たちなどは子育てをしてくれるような生涯のパートナーとやらを探して仕事もそっちのけなのかもしれないが、岸からしてみればこんな社会の底辺層の女性など願い下げだった。


 小学校から中学校の前半、そんな大事な時期を外の世界で過ごしてしまうとそうなるのか。

 まだしばらく主役は自分たちではなく、この世代や小学校・幼児教育時代を外の世界で過ごして来た三十代である。


 現在の中核である志を持ってやって来た五十代後半~六十代以上が前線から消えた時、この町はどうなるか。




 —————まさかとは思うが、禁止されている第三党を作るために動くと言うのか、それともテロ事件を起こす気か。

 そうなればこの町は一挙に傾く。

 世界を守るべき町が。

 あるいは彼女たちを優遇し、あらかじめ第一の女性だけの町のように二度の大規模テロ事件を起こさぬように—————。




 



 岸が汗一つかかずに腕組みをしながら思案していると、都会だと言うのにいきなり巨木が倒れるような音がした。


「元中!」

「ちょっと!何ですかそんな粗野な声を!」

 

 あなたたちの事を思っているのにどうして割り込むのですと言わんばかりに岸は叫ぶ。作業が急に中断され、まだ半分も終わっていないはずの工事がさらに長引く。

 やる気があるのですかとさらに怒鳴ろうとして足を踏み出した岸だったが、足元に変な物が当たっている。


 水たまりとも違う、何か布を踏んづけたような感触。


「ひっ」


 正体に気付いた岸が棒読みめいた声で足をどけると、真っ黒い髪とモスグリーンの服がアスファルトの上に乗っかっている。


 要するに人間の肉体、と言うか服と髪の毛だった。




「何をやっているのですか、起きなさい……!」




 自分の口から出て来た第一声がこれであった事を、岸は全く反省する気はない。


 不思議な事に、申し訳ないと言う気持ちが1ミリも湧いて来ないのだ。


 刈谷たちが救急車を呼んでいる間も、そこまで自分が邪魔なのかと腹立たしくて仕方がなかった。


 私が邪魔ならば邪魔と言えばいいのに!

 これでもし仮病だったら町から放り出してオトコ共の所へ放り投げてやる。

 取って食われても本望だろう。


 内心だけでそれ以上口にもせずさらに踏み付けようともしない自分が、実に人徳ある存在に思えた。

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