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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第八章 「海藤拓海」

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梨の礫続き

「海藤拓海、いや刑囚名さいてい……」

「自尊心を奪う処置だ。実に即物的で短絡的だ」

 

 第一の女性だけの町では刑法犯に対し適当に選ばれたひらがな四文字の名前を付ける。

 理由としては同姓及び同名の住民への風評被害を避けるためとなっているが、事件を起こした人間の名前などすぐ漏れるのがオチのはずだ。

 特に重大な事件を起こした存在は「はかのこ(馬鹿の子)」「ためめす(駄目♀)」、あるいは「さいてい(最低)」とか言う人権などないと言わんばかりの名前が与えられる。実際JF党事件でも首謀者たちに付けられた刑囚名は「とくせん(独善)」「おおはか(大馬鹿)」「ひところ(人殺)」とか、四文字を最大限に使ってできるだけ悪い言葉が当てはめられたらしい。


「若宮、お前はどう見る」

「少しでも道を誤れば男たちと同じになる。ゆえに厳しく自律せねばならぬと」

「その厳しく自律をした結果があれではな。人間はどうしてああ易きに流れるのか。あれでは海藤拓海はまた生まれるぞ」


 海藤拓海と言う、オトコに対して最大限の憎しみを抱いていた存在をあたら死なせた。その憎しみと言う名の意欲と、議員秘書になれるほどの知能をどうして利用できなかったのか。

「だいたいの問題がだ。男性が女性に危害を加えようとしなければ女性だけの町など要らない。それだけではないか」

「ええ」

「男は暴力を振るうだけでなく性欲まみれの目付きでこちらをにらみつけ、それを隠そうともしない。実物に見向きもされなければ実物を模した代物に欲情する。気持ち悪い事この上ない。しかもその気持ちを素直に示せばなんだ、ヤクザだのチンピラだのと。とにかく、人が不愉快になるかなどちっとも考えやしない無神経ぶりには、何周回っても敬意など示せない!」




※※※※※※




 九条百恵は外の世界での小学校時代から、よく言えば真面目悪く言えば面白みのない優等生だった。当時の担任は女性だったがこれが百恵にとっては厄介な存在で、真面目に授業を受けていた百恵を評価しなかった。

「百恵さんはあまりにもおとなしいと言うか、大人び過ぎて他の子たちと距離があります。他の子を見下している所が見受けられ、リーダーシップと言うかうぬぼれ屋な所が見られます。

 例えその子が子供っぽいとか、いい物を持っていないとかにしても百恵さんのやり方は余りにも強引で、百恵さんが側にいるとみんな礼儀正しいと言うよりビクビクしています。休み時間の雑談でさえも食ってかかられそうで教室中が常にピリピリしているようなのです」

 そして彼女はその真面目さの余り、授業中はおろか休み時間さえもクラスメイトたちの行動に目を光らせていた。小学校男児、取り分け低学年なんてそんなもんだが他愛もない下ネタや昨日見たアニメの戦闘シーン、それからゲームの進み具合とか言う益体もない雑談。

 そしてそれらに絡むような実用性に疑問符の付く道具。その全てに、小学生が使うには味気ない文房具ばかり使っていた百恵は噛み付いた。しかも誰彼構わずにだ。そして彼女の両親は人それぞれに好みがあるのだから決して他人にケチをつけるなと百恵を激しくしかった。


 その時から彼女のあだ名は「正義のチンピラ」、略して「セイピラ」になった。

 正義でないと見れば構わず喧嘩を吹っ掛けて潰していくその様はまさしくその通りであり、しかもこの時から言っても聞かない存在に言う事を聞かせるために体力まで鍛えだしたから「セイピラ」どころか「正義のヤクザ」、「タダヤク」と呼ぶ存在まで出始める始末だった。


 それから表面的には彼女の言動は収まったが、見下しぶりはますます悪化した。親の言う通りケチをつけないように誰とも話さないからますます孤独になり、おしゃれもどうせ無駄だとばかりに親の言う以上の事はしなくなった。成績は常に一位を突っ走るようになったが内申点は上がらず、遊園地に連れて行ってもいい服を買ってもディナーに誘ってもちっとも笑わない。

 そしてそんな無愛想のがり勉を極めたはずの女にさえも寄って来る男がいた事に彼女は完全に閉口してしまい、高校を卒業すると同時に「女性だけの町」での一人暮らしを決意、そこで警察官となった。だがJF党のテロ事件の際に第一の女性だけの町に失望し、第二の女性だけの町が出来るや第一の女性だけの町を去りここに来た。




※※※※※※




「無論、この町の平安を守るのは重要だ。最近は少ないはずの犯罪が増えているとか」

「食品その他が高くなっているとも言われています」

「まだ戦いは続くのにな……」


 彼女はまだ、戦いを続けていた。もう父母とやらは完全に絶縁状態であり、自分が生きたいように生きている今より幸せな日々は彼女にはなかった。幸福は人それぞれと言う事を、百恵自身が一番証明していた。


「それでだ、一応聞くが内勤者及び十五階の人間の働きはどうなっている」

「よくやっていない人間が数名ほど」

「そうか。政治家たちも庶民の支持を当てにしているから動かんのだな。しょせん民主主義と言う名の多数決においては半数の支持を得なければ駄目か」

  

 そして自分たちの意を通すために必要なのは何か、それもわかっているつもりだった。

 かつて家族を含めて数千人の移住者を招き現在の地位を得た百恵は、そのためには地道な活動が一番であると理解しているつもりだった。


 そうでもしない限り、《《オトコたち》》からの回答は変わりそうにない。


「検討の上、最善の措置を施します」


 何十何回目かの、定型文。実質的なゼロ回答。

 自身の味方を増やすために、パソコンだけで戦って来た彼女。



 その彼女は今日もまた、別の目的のためにキーボードを叩いていた。

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