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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第六章 「底辺職」
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海賊版製作

「出版の自由がない、そう外の世界の人間は言います。しかしこの町にも出版の自由はあります。ただ不健全なそれが自然淘汰されただけです」


 これは追川町長の言葉だが、外の世界でも半ば揶揄の意を込めて使われている。と言うかどちらかと言うと外の世界の人間が女性だけの町に対し使うフレーズだった。

 徹底して不健全なそれを「自然淘汰」するために淘汰する側の細胞をかき集め、徹底的に食い荒らしている。花粉症よろしく危険性のないそれまで徹底的に食い荒らし、最終的に自家中毒のように肉体そのものを食い荒らすと。具体的には車は自動車事故を起こすからやめろ、餅は喉に詰まらせて人が死ぬからやめろ、と言うか生きているのは死んだ人間に対し失礼だからやめろとなるのだ、と。

 もちろん町の人間はそんな下衆の勘繰りを笑い飛ばしているが、それでも全年齢対象とされているそれが外の世界の悪習として並べ立てられる程度にはこの町の風俗は傾いていた。


 今栗江が描いているような、毒々しい色のミニスカートと同じ色の髪の毛にバカでかい目をしバストを強調されたような女。

 それこそ、この町における最大の毒物だった。

 そんな物を、危険物取扱者試験の合格者でもない栗江に触らせているのがこの町だった。

 


「少しでもデッサンが狂ってると連中がそんなに無下に扱う訳がない、だもんね……」

 そのデザインは正確でなければならない。

 少しでも狂っていれば外の世界のオトコたちは彼女たちを無下に扱っていると思われ、代金を差し引かれる。と思いきやたまにデッサンが歪んでいるのがあの連中はキャラさえも使い捨てにしていると言わしめられるからと余計に金が払われる事もあり、それこそ買い主様の気分次第だった。

 彼女は一枚一枚、手描きでやる。幸いインクとかペンとか紙は支給されているが、それ以外のサービスは何もない。それらの質も正直良いとは言えず、それこそ片手間にやるべきそれである事を遺憾なく示している。実際、電波塔に勤務するようなお偉いさんとかも、この仕事をやっている。職場にあるコピー機を使い支給されているお手本をコピーして提出するだけと言う極めて片手間なアルバイトであり、それ専用のコピー機までおいてある。もちろん紙質やインクの質はそれ相応にされているが、それでも一般的な量産品としては十分であった。

 もちろん機械での量産品は量産品に過ぎず、手描きの方が料金は高くなる。

 そうは言っても所詮向こうの気分次第であり、副業と言う事を加味しても収入は実に不安定だった。


「あーあ……」


 栗江の下に配られた、門外不出とか言う仰々しいシールの付いた本。その割に表紙はきれいに彩られ、シールで覆い隠されていない部分には元気そうな少女が舞い踊っている。紙の質は正直良くなく、値段もまともに書かれていない。門外不出とか言う言葉とはちっとも似合わないそれがどうやってできた物か、栗江は無論知っている。

 この町における工場労働者の地位は、それほど高くない。外の世界の一般的な、第二次産業従事者のそれとほぼ同じかやや低い程度だった。そして当然だが工場内での地位やその工場での産物により、ある程度の階級は出来上がってしまっていた。その中でエットールの工場は官製工場の中で最低クラスだが、最低ではなかった。


 栗江がその本から、しおり代わりに挟まっていたチリ紙を抜く。

 そこに映るは、表紙同様に自然法則を無視した大きさの眼球を輝かせ、表紙を見る限り真っ青なビキニのような胸しか隠していないようなトップスと一応ズボンながらひざ小僧丸出しの超ショートパンツを履いている女。そんな格好をしながら不自然なほどに口はほころび、右手からこれまた存在しえないような長細い棒を持ちつつ飛び跳ねている。

 彼女は今回の仕事の依頼ではなく、さらなるボーナスの対象に過ぎない。平たく言えば残業であり、ほとんどサービス残業になる事承知のそれだ。だがそれでもまれに高く買われる事があるから、どちらかと言うと宝くじだった。この町には生活を破壊するオトコの趣味としてギャンブルは全面禁止なので、その点もまた軽蔑の対象になっていた。


 それこそ十重二十重に、彼女たちを軽蔑する理由が出来ている。全くよくできた構図であり、四半世紀以上変わらないシステムだった。そのためこの職業に就いている限りは給与は永遠に不安定であり、ゆえにやがて仕事として滅び世界から排除できる。

 ごくごくまれにこの金にもならない作業を行っている人間の中からスマイルレディーのようなそれなりに稼げる官製アニメの制作社に引き上げる事もあるが、そんなのはガス抜きのためでしかない事を町中の誰もが知っている。

 何せ、これまで引き上げられようとした誰もが、その誘いに対し首を横に振らなかったのだから。

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