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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第四章 「エットール」

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お勉強の勝敗と

 争いと言う言葉は、この町において歓迎されるそれではなかった。

 第一の女性だけの町においてもテニスやゲームなどをなあなあで終わらせるのが習慣として根付いていたが、この町においてはそれ以上だった。


 ゲームにより喧嘩をして友人を失う——と言う行いは最低級のそれとされ、人間としてあり得ぬ程の愚行とされた。もちろん喧嘩を吹っ掛けられた側は無罪だが、吹っ掛けた側はそれこそ追放されてもおかしくないほどの村八分、下手すれば村十分にされる事もあった。

 実際、それをやってこの町から出ねばならなくなった家もあり、その一家はこの電磁波により保護されたユートピアから外の世界に放り出されたのだ。幸い第一の女性だけの町への移住はできたものの、入町当時から親に「四文字候補」と言う烙印を押された少女はすっかりふさぎ込んでしまい、自ら友達も作ろうとせず一人でいる根暗な少女になってしまった。なおこの町には「四文字」と言う蔑称はなく犯罪者は犯罪者としてそのままの名前で公開され受刑者となる。それは、外の世界と同じだった。




 ただ一つ歓迎されるそれがあるとすれば、紙の上での戦いだった。クロスワードのようなペンシルパズルではない。


 要するにお勉強だ。


「えっと…しちし…」

「二十八よ」


 エットールを片付け終わった桜子と和美の姉妹は教科書とノートを取り出し、お勉強を始める。

 学問を究める事はこの町においての出世栄達の道であり、誰もがその道に進む事を望む。前述の通りであるからスポーツは発展しておらず、一応運動会的な物はあるがそれに大した意味はない。

 運動神経が良くて得をするのは警察官や消防士とか言う結局は公務員であり、それらとて学問が出来なければと言う職業である。だから外で走っているとお巡りさんになりたいのと言われる事が多々ある。

「それでしちごが三十五で、しちろくが…」

「四十二ね」

「うん、しちしち四十九、しちは五十六、しちく六十三…」

「そうだよ和美、もう一歩だよね。って言うかどうして最初の方で止まっちゃうの」

「むずかしい方からおぼえたほうがいいからって」

 もちろん勉強法は各家庭、各人の勝手だ。難しい所からやってしまえば後は簡単だと言う理由で九九の、一番難しい七の段の、和美はそれも後ろから覚えている。それがいいのか悪いのかで言えばあまり良い方法ではないかもしれないが最終的にどうなるのかはわからない。

 もっとも教科書のクオリティについてはやたら文字が多い事を除けば非常に高く、よその町から輸入品として卸してくれと言う要請があるほどだった。また学習塾もかなり数があり、廉価なそれから最高品質のそれまで幅はとても広い。しかもそれぞれ町議会が墨付きを与えているから品質保証もされており、そのため多くの子どもたちが塾通いしている。桜子と和美は今はしていないが、中学生になったら親たちはさせるつもりでいた。


 


「ママたちは大丈夫かなあ」

「大丈夫だよ」

「でも撫子ママは毎日田んぼにいるんでしょ、そこで変な人に襲われてないかなって」

 そんな事を露知らず、二人は仕事場にいる母親たちの事を思っている。静江はジュエルドプリンセスで朝から晩まで働くので帰りは遅く、撫子の方が基本的に帰りは早い。本来ならばまだ母親たちが恋しいはずの娘たちは、母親たちの心配ばかりしている。もちろん九歳と七歳と言う年齢からすれば成熟した望ましい態度ではある。

 で、この町における農家はたいていが大地主である。それこそ雇い人を入れて手伝いをさせるのはほぼ常識であり、住み込みの場合もあれば撫子のような通い人の場合もある。通い人でさえも農繁期の時は住み込みになり、自宅に帰れない事もある。そしてそんな場所で仕事をするのは、体力があるか機械を使いこなせるかである。ちなみに撫子は前者だった。

「でも体力がある人ってこわいよね」

「うんうん、先生も言ってたよ、オトコってのは体力だけはあるって」




 そしてこの町において体力がある人間が尊敬されないのは、それが最大の理由だった。

 まだ七歳の和美でさえも、その事を知っていた。


 オトコは自らの体力にかまけて女の正論を暴力で封じ込める。

 女がいくらオトコを押しとどめようともオトコの圧倒的な暴威の前に後ろで泣くしかない。

 そしてそれは戦争が表向きなくなった世界でさえ、止む事はなかった。


「ただいまー」

「あ、撫子ママ帰って来たよー」


 そんな二人の少女の所に、撫子は帰って来た。仕事着と言うべき白いシャツに青色のズボン、そして麦わら帽子。

 バス代節約のために仕事場から三十分かけて歩いて来た母親に、二人は寂しさをこらえるようにゆっくりと近づく。


「ママこれ…」

「これは正義のにおいなの」


 正義のにおい。

 撫子は田んぼの仕事で着いたにおいをそう言ってのける。

 水田の泥が跳ね、草が触れ、トラクターのオイルがかかった「臭い」を。


 もっとも撫子だけでなく、この町に住む人間が好んで使っている言葉だった。

 

 労働の結果の汚れから生じた「臭い」は、「匂い」として扱われる。


 最悪の事態に出くわした際のオトコに対する戦いの、先兵となるために。

 争いを好まぬ高貴な自分たちでも、いざとなれば野蛮なオトコに負けじと立ち向かえるのだと言う証の匂い。


 二人とも一度だけ、バスで撫子の仕事場に行った時にはなかった匂いが、今の撫子から立ち込めていた。

さて明日は子どもの日、一日お休みを下さい。次回はまた月曜日の振替休日から。

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