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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
エピローグ 失敗の意味
180/182

ノーメンクラトゥーラ

「多川被告。

 取り調べによれば追川恵美被告らを守ろうとして取り調べを妨害、発砲により警官を殺害しようとしたとありますが」

「相違ありません」


 長きにわたった第二の女性だけの町裁判の最後に出廷する事になったのは、多川だった。

 容疑としては、被疑者引き渡しを妨害した事による公務執行妨害と、その際に銃を発射した事から殺人未遂。同様の容疑で逮捕されている人間は多数おり、彼女らと同じく懲役八~十年となるのが相場だと思われていた。


「では被告人、被告人は第二の女性だけの町へ移住したのは室村社の従業員にレイプされそうになったからであると入町管理局職員に証言しているが」

「本当です」

「しかし警察の調べによると、被告人に対しそのような行いをした人間は見つからなかったですし何より被害届が出ていません」

「出せなかっただけです。女性が男性に力づくで組み伏せられて抵抗できると裁判官はお考えなのでしょうか」


 その上で検察官は、多川が第二の女性だけの町へやって来る事になった案件を持ち出す。多川は当然の如く反発するが、その流れで検察官の隣にいた存在に気付き一気に怒髪天の表情になった。


「あんた!」

「静粛に!」




 大野。

 


 一緒に第二の女性だけの町に入って来た、親友だったはずの女性。


「裁判官!彼女もまた十分に罪人だと!」

「既に彼女は和解金を支払い問題は解決しています」


 大野とて、全く清廉潔白でもない。

 だが彼女が勝手に「十五階」を占拠した事は、就業規則違反かもしれないが法律違反ではない。その際に暴力を振るったのは間違いないが、その罪については既に暴行罪として被害者が取り上げる前に法律家たちが示談を持ち掛け、示談金を払う事で決着している。

「何よあんた、オトコにその身柄を売ったわけ!?」

「被告人」

「検察官さん、発言の許可を願います」

「許可します」

 多川が考え得る限りの罵りをするが、大野は全く動じない。多川のように制止される事もなく、冷静に許可を取る。


「私は今でも、籍を入れる前に強引に関係を迫った元恋人を許していません。事の後先を考えない行いに幻滅したのです。その結果私は第二の女性だけの町に赴き、十五階の職員となりました。

 ですが第二の女性だけの町に来て、私がエリートの十五階で多川さんが一般事務員と言うのはなぜなのか疑問に思いました。そして多川さんがセクハラ・パワハラされたと言っていたからそれを伝えたのです」

「その結果多川被告は電波塔の職員になれたと」

「はい」

「だとすると、レイプと言うのは嘘と言う事になりますが」

「女性だからと差別された以上十分レイプです!だからこそ私は第二の女性だけの町に来て!」

「富貴を楽しんでいたんですか」



 大演説に割り込む、富貴と言う言葉。



 それこそが、本質だった。


「セクハラ、パワハラ、おっさん、クソジジイ。そんな言葉を並べられて、調査官の人も黙るしかなくなったんです。女性だけの町にとって最も忌避すべき存在から傷付けられた、最も守るべき存在である以上。それを疑えば、それこそ自分たちの敵に弱みを見せる事になるからです。

 それこそもし、みんながみんなレイプされたとか言えば、みんな電波塔の職員と言うエリートになれるのかと思うとぞっとしたんです」

「それはあなたも同じでしょ!」

「そうです。ですからずっと、この町の体制に不安を覚えていた。いつか崩れる時が来るかもしれないと思っていた」

「そんな勝手な事を!」

「考えるぐらい勝手だと思います」


 何を考えようが勝手。



 それは全くその通りだった。



 実際追川恵美が暗殺などしなければ、大野の計画は成就するどころか永遠に実行される事などないただの妄想だった。

 その妄想を現実にしたのは大野であると共に多川であり、追川恵美であり、相川玲子であり、九条百恵であり、多川だった。


「すみません、少し口数が多すぎました」

「結構です」

「それじゃずっと謀叛を起こす事を考えていたわけ!?あなたは本当に下賤な女ね!あんたのようなのがいるから、女の地位は上がらないのよ!追川町長だってあの世で嘆いているわよ、どうしてあんたみたいなのを取り込んじゃったのって!」

「静粛に!」


 


 多川の年収は、同世代の女性の三倍以上。

 一応事務職の経験はありアラフォーで元係長ではあったが、そんな額になったのが簿記一級の能力と十年ほどのキャリアが理由でない事は明白だった。

 実際、彼女と違い職歴などない二十代半ばの「彼氏に暴行を受けた」と称した女性の給料が多川の90%相当、道路工事担当の佐藤の三倍以上であった事からしても何が優先されているかは明白だった。




「証人の証言は終了したと見なし、判決を下します。被告人は静粛に!」


 裁判官から事実上四度静かにせよと言われた多川の顔はまだ赤く、文字通り獣のように全てを食らい尽くそうとしていた。

 


 そんな獣に与えられた判決は、懲役十年。特にどうと言う事もない普通のそれだった。


「覚えてなさい。欲望に溺れたケダモノはいつか、理性ある存在に狩られるのよ」


 謝罪のしの字もない言葉を吐き捨てたケダモノに対し、大野より暖かい視線を投げかける存在はいなかった。




 その中でもわりと温かい意見は、彼女が追川恵美に洗脳されていたと言う物。


 そしてもう一つは、彼女にある女の魂が乗り移っていたと言う物である。

本当はあと4話の予定だったんですが……長引きすぎるので次回最終話です。

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