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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第三章 特権階級
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朝令暮改

明後日からは新ゲーム、「エットール」の始まりです。

「もう一度話を聞いてくれ?」

「どうかお願いいたします」


 大野は多川と共に、監察官に会いに行った。


「大野さんは多川さんの扱いに不満があると言うのですね」

「はい!」

「私たちは、多川さんからの言葉を聞いた上で判断したのですが」


 監察官は相変わらず平板な調子で話す。まるでそれが自分の職務であり、少しでも感情を動かせばバグが生じると言わんばかりだった。

「彼女はそちらに何と言ったのですか」

「えっと、前の職場で女性だからと差別を受けこれ以上出世できないと思いまして……」

「大変申し訳ございませんが、そのような目的では弱いと言わざるを得ません。もちろん我々としましてはこの町にやって来た全ての女性に等しく安寧を届けたいのですが、いかんせん町には限界と言う物があり誠に申し訳ございませんが…」

「ハゲオヤジにパワハラされたとしてもですか?」

「ハ…」


 監察官の言葉が乱れた。


 この町においてハゲと言う言葉は差別用語ではないが、レアなワードではある。いわゆるがん治療のための薬で頭髪が抜けたと言う話はあるが、まだ完成してそこまでの期間が経っていないためかそんな重篤な病人は出ていない。

 そして女性たちが集合した事によりある意味当然と言うべきか美容関係の仕事は過当競争とでも言うべき程であり、サービスの質は最上級にまでなっている。そのため頭髪の悩みはハイレベルなそれになっており、飲酒ツアーだけでなく美容ツアーまで開催されるかもしれないとか言う人間もいた。と言うか実際そうしなければ潰れてしまいそうな施設も少なくなく、そのためのプランの組み立ては喫緊の課題だった。



 話を戻そう。


「パワハラとは、そんな話は…」

「できなかったのです、あまりにも悲痛な物で……」


 パワハラと言う言葉は、セクハラの次に重たい言葉だった。先にも述べたがこの町に移住する目的の一位は女性差別を受けたからであり、その大半に男性の上層部に所属する存在によりパワハラを受けたと言うそれが内在されていた。

 だが結局、証拠を示さない限りあったとは認められない。その現実を前にして、多くの人間が泣き寝入りするしかなかった。無論証拠を示したのに全く聞き入れられないかなあなあにしか処分されなかった事も多々あり、その積み重ねが男たちの増長を招いた。


「そういう事ならばどうして…」

「申し訳ありません、本当に辛くて悲しくて苦しくて……」

「そういう体験があれば話してくださらないと困ります」

「本当に辛くて辛くて、とても話せる気がしなくて……」

「泣かれても困りますが」

 

 だが監察官と言う名の防波堤は、その程度の事では揺るがない。多川の口から出たもっともな言葉にも、監察官はまた平板な口調で対応する。そこには感情の揺れはなく、なぜ先に言わなかったのだと多川を攻撃する方に回っている。


「それってまるで、私がどんなに訴えかけても認めてくれなかったおっさんと一緒」

「な…」

「絶対に自分が正しいって信じて疑わず、多川さんの言葉を頑なに跳ね除け続けたクソジジイたちみたい」

「…っ…………」


 その監察官が、大野の二言で一気に動けなくなった。


「確かに私も多川さんも男に苦しめられて来た。でも女だって同じぐらい嫌な奴がいる事を知っている」

「それは、そうです。そうですが…」

「男への悩み、恨みつらみを抱かずに平穏に暮らせるのがこの町じゃないんですか。そこでそんな前に苦しみを味わわせたような男がまた舞い戻ってくるような真似をしてどうするんですか」

「えっと、その、それは……私は決して一時の感情に走らず、ですから……」



 オスガキ、ヨタモノ、ヤンキー、オッサン、ジジイ。

 

 この町で生まれ、外に出ないまま過ごして来た人間である監察官に取り、男はそのような蔑称で呼ばれてしかるべき存在だった。女はその時が終われば淡々と老いて行くのに対し、男はそれこそ生まれてから死ぬまで女の体を求める浅ましい存在として定義される。

 潔くない死に様、欲望に塗れた醜い存在。

 ハゲと言う男女共通かもしれない言葉よりも、クソジジイと言う単語は重たかった。

「申し訳ありませんでした。少しばかり私も判断力が欠如していたようです。ですが言い訳ですが多忙により少しばかり処置が雑になりこのような見落としをしてしまったようです」

「すみません、相当な数の女性たちを救うために戦っていらっしゃったのですね」

「はい…それがいつの間にか流れ作業のようになっていました。以後気を付けますのでどうかお許しください……もちろん多川さんにも相応の処置を施します。大野さんもありがとうございました……」


 監察官は多川に向けて頭を下げまくっていた。

 そして多川の待遇改善と入町後の処置の見直しを約束し、大野にも礼を述べた。



 ある意味ずいぶんな話だ。


 確かに下手に長引かせて男性に捕まったらどうなるかと言う話はごもっともであり実際大野などは飛び込みだったからまさにそれだったが、多川にそれを適用したらこうなってしまったと言う事実はもう消えないのだから。

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