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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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「サヨナラ、変態淫乱ヤロー共」

「ブルー・コメット・ゴッド病院が占拠されました!」

「タイラン院長は拿捕されています!」

 


 自分たちが必死に作り上げてきた世界が、壊れて行く。

 警官隊とか言う破壊者たちのせいかと思ったが、どうも外の世界の連中は関わっていないらしい。

 どうやら、ついこの前「淫乱女」になろうとした連中だったか。

 

 完全な暴動であり、クーデターだが、どうやらそちら側の方が数が多い。

 いやそれ以上に一般住民の方が多いはずだが、彼女たちはこの暴挙を見ても何も動こうとしない。


(私は、私たちは必要な事しかして来なかったはず。それなのに、なぜ皆は……)


 自分たちは、選挙と言う名の民主主義的手段によって政権を得たはずだ。それこそ自分たちに政権を任せても良いと言う墨付きを得たはずなのに。自分たちがうまくやっていないから、住民は自分たちを見放したと言うのか。

 左右田カイコと言う素材を磨き上げたのも、テレビ番組のプログラムを組んだのも、何ならスマイルレディーの脚本を書いたのだって自分たちだ。決して欲望に溺れさせる事なく、それでいてさっぱりと消化できる代物を作り上げて来た。


 そこには、あんな連中が入り込む隙間などないはずだ。そのために、誰の目から見ても健全で和やかに楽しめるそれを作ったはずなのに。

 なぜ、誰も取り入れようとしないのか。それこそ外の世界に送りつけまくって、その産業でこの町を潤わせようとしていたのに。

 結局やさいの騎士団様とか言うそれの放映権を買うだけの費用すら担保できず、商品価値が擦り減り切ったらしい再放送の再放送のそのまた再放送を流している。再放送でも何でも面白ければいいが、視聴率は落ちている。


 元々アニメなんか見るような人間の事を重視する気もなくほとんどアリバイで流していただけだから視聴率なんぞどうでもいいどころかゼロに近いのは上等だが、それでも気分は良くない。


 やっぱり、そんな物しか作れない。

 やっぱり、そんな物しか買えない。


 そう外の連中、と言うか一番負けたくない連中に嘲笑される。

 自分たちの趣味嗜好に勝手にケチをつけ、自分勝手に圧迫と言うか私物をも取り上げて来るような暴虐で偏狭な女ども。

 そんな人間が町を作ったらどうなるかと言う冷笑に対する挑戦。


 それが今、失敗に終わろうとしている。




 自分たちは正しかったはずだ。


 その正しさを、独り占めするのが正しかったとでも言うのか。

 自分たちだけが成功し続け、外の世界の苦しむ女性たちを救おうとしなければ良かったのか。

 分け合えば余り、奪い合えば足らぬ。そんな当たり前のことをしただけなのになぜここまで責められるのか。


 第一の女性だけの町とか言う、ガワだけ女性ではあるが結局肉体労働者ばかりが大きな顔をするような町ではないはずなのに。


「我々は追川恵美以下三名の身柄を望むのみ!」


 とか言う大義名分の下、次々と人を殺していく連中。やられたらやり返すとか言っているが、最初からこの町を破壊する気じゃないか。




 地下でも、映像と音声だけは入る。


 綿志賀議員もまた、死んだ。

 自殺とか言っているが、もうどっちでもいい。


 相川玲子の声は届かず、九条百恵もまたしかり。


 丹治勝美とも連絡は取れないが、もう確保されているか死んでいるかのどちらかだろう。

 追川絵里子も何もできない。

 援軍も、全く動き出す様子もない。

 仮に十五階が使えていたとしても焼け石に水ですらないかもしれない。




 ——————————条件は、何もかもが揃っていた。




「この世界は、いや人類はもうおしまいね……」




 なぜか笑顔になり、活力が沸いて来る。


 これまでの六十五年間の人生で、何番目かに来る程度には元気になる。


 そして、指が動き出す。




「外の世界の皆様へ。

 どうやら人類はまだ、性欲と言う名のカルマから逃れる事は出来ないようです。

 いや一時期、そこからの逃避に成功していたはずだった人類は、またそのカルマに捕らわれてしまっているようです。

 オトコは日々幼くなり、女がいかにその幼さをいさめようとしても耳を貸さず、その幼児性を頑なに守ろうとしています。私たちはその幼さを憂い、成熟するように日々動いて参りました。

 にもかかわらず、誰一人として私たちの忠言に耳を貸さず、なおさら頑なになるばかり。なればこそ時には実力行使をもってオトコたちを成熟させ、真の意味での社会人にしようとしました。


 ですがまさか、事ここに至って幼児性を汚される事を嫌うがあまりこんなかんしゃくを起こすとは思いもよりませんでした。

 先人は言いました。無限な物には二つある、宇宙と人類の愚かさ、しかし前者についてはわからないと。

 こうなった今、その言葉の意味がよくわかります。皆様が男根のご機嫌取りをほんの少し邪魔されただけでここまでするとは、本当に予想外でした。


 おめでとうございます。あなたたちは勝利したのです。

 オトコの皆さん。あなた方は自分たちに隷従する存在を勝ち得ました。自分の欲望を好き放題に満たしてください。

 女の皆さん。あなた方は男根とその従属物に隷従する権利を得ました。それがあなたの人生ならば私たちは干渉しません。どうぞ長い一本道の旅路をお歩み下さい。


 最後にこの大戦の勝者に申し上げます。女性たちの中には常に、私や海藤拓海が住んでいます。いつ何時私たちが呼び起こされようとも文句を言わないでください。それがこの町を作らせる程度には罪深き存在の因果なのですから。







 サヨナラ、変態淫乱ヤロー共……」







 そこまで打ち終わると腰の銃を抜き、こめかみに当てた。




 本来なら優美なはずの表情は心なしか歪んでいた。

 だが、これでも先ほど十分安堵した結果だった。







 年齢比からすれば皴の少ない追川恵美、六十五歳。







 主義主張に殉じて生きた誰よりも男っぽい女の生涯は、一発の鉛玉により終わった。


 外の世界の警察官たちがその亡骸を見つけたのは、町議会議員や職員などを含む三百名近い最後の抵抗者たちを退けた十五分後の事だった。

この作品はエピローグのあと7話で終わります。

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