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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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憎悪たちの消滅

「あなたが決してそういう人間ではない事を私は知っています」



 議会のスクリーンに大写しになる、一人の中年女性。



 かなり汚れたビルの一室ですっかりくたびれた顔をした彼女に対し、議会の主は和やかに語り掛けた。



「まさか…」

「私とて責められる理由はいくらでもあります。そちらを信用していなかったと言う、それこそ最大級の罪が」

「……この先見の明が、為政者の証なんでしょうか……」




 本物の、水谷町長。




「第二の女性だけの町……私はその存在をあまりにも知らなさ過ぎた。もし少しでもわかっていればもっと早く手を伸ばせたのかもしれません」

「ぶしつけ極まりますが、町長たちを含む町議会議員のこの町に対する評価は最低でした。既にご存知かもしれませんが、失敗都市であると」


 その水谷町長に向かって、かつての有能コンサルタント、時代の寵児は頭を下げる。

 誰よりも未来に夢を抱き、理想に生きていた女性が。


「私自身、外の世界の乱れを素直に受け入れるつもりもありません。しかしそれでもなお、この町を維持する事こそ大きなメッセージであると思っています。創立当時は何年持つのかとか言われていましたし」

「二十年と言う意見は」

「それもかなり長い方ですね」

 


 もし丹治勝美と言う存在が、もし女性だけの町と言う単語に魅了されなければ。



 それこそ今もなお時代の寵児として、男と互角以上に張り合う敏腕経営者として女の地位を高めていたかもしれない。


「いつから歯車は狂ったんでしょうか」

「私にはわかりません。わかるのはその時の私たちが甘かったと言う事です。それについてはこちらの責任でもあります。

 仮にもこの町の住民の半数近い支持を得た存在です。それこそ放置などせず根絶すれば良かったかもしれません」


 


 酢魯山澪。あのテロリスト集団、JF党の党員だった女性。




 そんな彼女が第二の女性だけの町にやって来て、誠々党の副党首にまでなっていた。

 そしてその権力により思うがままの政策を実行に移した結果—————。

 いや、誰もそれを咎めなかった結果—————。


「確かに当初は、私たちの苦しみを顧みない男性への反発心だったかもしれません。ですが自分で動き、町を動かすと男性がとても高貴な存在に見えて来たのです。男性にできて女性にできない物かと奮闘しようやく成し遂げ、今もこうして町を守っています。と言うか、守るので精一杯です」


 半世紀近く一つの、それもこんな特異な町を守るなど、生半な話ではない。実際二度も大規模テロ事件が発生し、数多の犠牲者を生んだ。その結果またしばらく創始者たちが作ったレールの上を走る事が出来そうだが、次の二十年でどうなるかは全く分からない。


 実際、第二の女性だけの町はまもなく滅ぶ。滅ばないとしても、百八十度の方向転換を強いられる。追川恵美たちが望んだそれはもう来ない。


「もっとも象徴的な存在により人生を壊され、女性だけの町と言う名の楽園に救いを求めた……こんなにも美しい存在はいません。

 ですがどんなに辛く苦しい過去があったとしても、さいていこと海藤拓海はただのテロリストです。テロリストとして死んだのです」

「……それで彼女をそんな風にしたオトコはどうなりました」

「自殺しました。その事を最後に彼女に伝えたら安堵していましたよ」


 憎しみは何も生まないとか言うが、人生を支えるのには役に立つ。海藤拓海にとって必要なのは仲間より、自分の人生を壊した輩の苦しみだった。

 そのオトコが刑務所を出た後自分が愛する二次元の産物との再開だけを夢見て働き続け、借金を完済して再開するころには全部金策のために売り飛ばされていたショックで自殺したと言うニュースは、最後の最後まで憎悪に捕らわれていた彼女にとってもっとも幸福な知らせだった。


「私も、そう考えていました。月並みですがみんな……」

「そうですね。そんな感情は誰もが抱いています。そして、すごく気持ちいいんです」

「気持ちいい…ですか…」


 気持ちいい。

 自分が憎んでいた相手が落ちぶれて行くのは、自分が成功するのと同じぐらい気持ちいい。

 

 いつの間にか自分たちの心の安堵と身の安全を守る行いが、憎んでいる相手を貶める行いに変わっていたのか。


 いや、元からそうだったのかもしれない。


「その気持ち良さを、私は知りません。わざわざ他者をさいなみ、自分こそ上であると示して何がしたいのか。この町はあくまでも、女性が女性として生きて行くために何が必要か、それを追求しただけの存在です。男性と互角に張り合う事はあっても、決して優越する気などありません」

「優越……」


 人間として優秀にならねばすぐ隙を突かれると思ったからこそ、教育は徹底したつもりだった。だがそれでもニュースのネタになる程度には事件も起きるし、二度にわたって大規模なテロ事件も起きてしまった。


「JF党も正道党も、世界中をこの町のようにしようとしていた。しかしそれは男女平等ではなく女尊男卑であり、女性絶対主義、と言うか自分たち絶対主義です。そんな存在が頂点に立てば平穏無事な世界など絶対に来ない。そして女性だけの町の住人は危険思想の持ち主の烙印を押される。それこそ女性自身のためにもならない」

「……」

「失礼ですけど、どこかで」


 気付かなかったのかと言う水谷の言葉に、勝美はうつむくしかなかった。


「私だって事ここに至り、それこそいけ図々しい事この上ない最後のお願いをしに来てようやく気付いたぐらいです。あるいはこうしている間にも誰かに見つかり、私も」

「わかりました。あなたは暗殺事件には無関係と言う事が。私たちができる限りの力であなたを守りますので」


 裏切りとか売国とか呼ぶには、勝美の顔はあまりにも清々しかった。

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