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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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「全てはただ安心のためだけに……」

「尾田兼子誠々党党首、離反した警官に撃たれ即死……」




 悪事千里を走るとか言うが、実際町議会の下のフロアに籠城を決め込んでからと言う物戦況はびた一文良くならない。


 娘の追川絵里子はやはり離反者により捕縛され、小学生全員を戦力として駆り出す計画は失敗。

 この町全体の防衛の要であったはずの十五階は同じく離反者に占拠され、電磁バリアを張る事はできない。それこそ文字通り丸裸の状態であり、オトコたちの慰み物になる事は必至の状態。女性としての尊厳をまるっきり奪われそうだと言うのにどうしてそんな事をしたのか、恵美からしてみれば何時間でも問い詰めてやりたくて仕方がなかった。


 頼みの秘書の相川玲子も既に出撃しており、戦況を伝えるのはモニター越しの部下たちだけ。

 自分が「水谷町長」らを暗殺したとか言う虚言を流され、人心は激しく動揺している。しかもずっと敵はオトコだと教え込んで来たせいか、女を相手としてぶつけられ士気が上がらない。女だろうと襲い掛かって来るのはそれはオトコの手先であり、一も二もなく打ち払うべきなのに。


「どうしてなんだろう……」


 ここで自分が出て行けば、連中は引っ込むかもしれない。だがそれこそ町長をいつでも外の世界の圧力によって挿げ替えられると言う意味でもあり、この町の独立性がなくなると言う意味でもある。それこそ、死んだ方がましと言う案件だ。


 なぜ、こんな事になるのか。

 どうして、この町は滅んでしまおうとしているのか。

 何故、正義は負けるのか。

 

 援軍の要請はしているはずだが、好意的な返事は一つもない。たまに返答があったとしても、すぐ自首しろだとかどうして一番の味方の手を振り払ったのかとかそんな意見しか来ない。

 誰一人、この暴虐を咎めようとしない。


 ここで自分たちが負ければ、外の世界の性欲の発露のために作られた存在がこの聖地を覆い尽くす。女性が真に和やかに暮らせる楽園がなくなる。女性どころか、男性にとってさえ破滅の二文字が待つはずなのに。

「彼女たちは平気なのかしらね……あんなに性欲の塊のような、ともすれば服を剝いて女体を貪り尽くすようなオトコたちが山のようにいるって言うのに、どうしてそんなにも楽観的なのかしら………………」

 

 それを言えばだから第一の女性だけの町が出来たんだろとなるが、それですら甘い、手ぬるいと思ったからこそ第二の女性だけの町を作らせたのに。

 オトコたちの罪を具現した町を作らせ、それこそその罪を永遠に刻ませるつもりだったのに。町自体が、他ならぬ女性の手によって破壊されている。建物はまだともかく、そこを構成すべき世界を誰よりも慮っているはずの存在が排除されようとして行く。





「私はただ、安心したかっただけなのに……」




 耐えられなかったのだ。


 外の世界に溢れかえる、無神経な代物に。

 だからこそそれらをなくし、安心できる世界を作りたかった。そのために動こうとした時、出来上がった「第一の女性だけの町」。

 自分たちの要求は、そこに行けでほとんど弾かれた。

 だがそこは恵美から見てまだ十分に放縦であり、心の安らがない町だった。


 だからもっともっとを求めようとした自分たちは、そのために動き、町を作らせ、こうして過ごして来た。


 その成功を感じた自分は、世界中がこうなればいいと思っただけだった。誰も無神経な性欲の塊共に傷付かない、みんながありのまま、理性的に過ごせる世界を作ったのに。





 —————そのために、手も血に染めたのに。




 残念ではあるが、この世界のもっとも正しき秩序を疑う存在はここにいてはいけない。この町に住む全員が清く正しく動いてこそ、外の世界の人間たちがこの町が楽園である事を認めざるを得なくなる。

 そのために、物理的な力を持った存在を弱者とし、そうでない存在を強者にした。

 決して暴力に訴えさせず、言論一つで相手の考えを誘導させる。激高してはならず、その方が得だと思わせる。


 その代わり、自分たちだけは血に濡れても構わない。恨まれても一向に構わない。それが為政者の役割ではないだろうか。




「私は傷付く女を見たくないだけなのに……」

 傷付く存在をゼロになどできない。だがゼロに近づけるために、物理的暴力の恐怖を遠ざけようとした。全力をもってその危険性を廃し、その上でオトコたちに下手に手を出せばどうなるかと見せ付けて来たつもりだった。いつ何時でも、住民たちの傷をゼロに近づけるために動いて来た。


 そのために九条百恵と共に秘密警察を組織し、この町に傷を与えると判断した存在を排除もした。雑草を抜くのと一体何の違いがあると言うのか。



 そう、自分がやって来た事は、ただ世の中の雑草を抜いているだけのはずだ。

 

 夏炉冬扇を排し、世のため人のためになる存在だけを作る事。それの一体何が悪いと言うのか。


「どうしてなのかしら……勝美さん……あなた、本当……」


 その雑草取りのための道具を調達してくれた、丹治勝美。

 彼女の運命も風前の灯火かと思うと、涙がこぼれて来る。


 せっかく今日の様な日のために作った学校の視聴覚室さえもまともに使われていないかと思うと、無力感が込み上げていた。

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