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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
173/182

「第一の女性だけの町」が成果を挙げている理由

「ちょっとは期待していたんですよ?室村社とか言う存在に従う人間の目を覚まさせるとか。

 でも結果はもう何と言うか、よくもまあここまで私たちの期待を裏切る事が出来るのか、何周回っても尊敬できませんね。

 外の世界の連中に、こんな物を作って隙を与えて…………本当にお人好しにもほどがありますよ。

 大丈夫です、あなた方のおっしゃったように、私たちはそちらの町の住民に働きかけゆっくりと私たちの思いを伝えていきますから。世界中をこの町のようなユートピアにするための、尊い犠牲となってくださいませ」


「水谷町長は外の世界の荒れぶりを知り自殺した……」

「ですね」

「彼女たち、いや彼らはもはや女ではありません」

「ですね。もはやこの二人は男性にこびへつらって男性の地位を得た存在です」

「ええ。とは言え表向きには自殺とせねばならぬのは少しばかり残念ですね」

「何をいまさら」


「外山のように、この町の理念を知らない住民がまだまだ多すぎます。私たちの戦いは永久不変であり、それこそこの世界全てを我々の色に染めるまでは終えられません。彼女はそのために犠牲になったはずなのに、こんなにも事態が悪化の一途をたどるとは……」

「ええ。誠に残念ですが世界のために、まだまだ犠牲者は必要となるでしょう」

「それであなたは」

「とりあえず連絡いたします。水谷町長はいきなり世を去ってしまったと……」

「そうして。それで今日の夕飯は何かしら」







 こんな三人の音声が、町中に垂れ流しになっている。


 暗殺を行っていたと言う、もっとも明白な証拠。


 九条百恵はまだともかく、追川恵美と相川玲子の声を知らない住民などいない。


 ましてや追川恵美など、ついさっき町中に向けて演説を行ったばかりである。




「……………………」


 佐藤の六畳一間の部屋の電話が鳴り響く。

 この危機的状況に際し第二次産業従事者と言う名の肉体派を議会はあわてて使おうとしていたが、佐藤にそんな気力も体力もない。本来なら反射的に目を覚ましてしかるべきはずの電話のベル音すら、佐藤にとっては熟睡のためのメロディだった。



 愛町心があるかないかと言われたら、正直ない。


 だが仕事が好きか嫌いかで言ったら、好きだった。


 

 そんな彼女の体を寝そべらせているのは、間違いなく外の世界が持ち込んだ音声だった。



 刈谷の死刑、元中と西村の過労死。高遠は町を出てしまい、新しい部下の甲斐もまた死刑。


 そしてここに来て、荒山の疑惑が頭をもたげている。



 まさか、荒山も外山のように町長たちに殺されたのか。

 そして外山を殺した町長自ら、外の世界のそれを攻撃する材料に使っているのか。

 


 自分は何なんだ。

 町民は何なんだ。


 町民はいつから、町長たちの理想を実現する道具になったのだ。



「誇りがないからだ。オトコたちの力を借りれば結局女はオトコに依存しなければ生きていけないと証明するだけだ。オトコはその罪を償わせるためだけの存在であり、向こうが罪を悔いない限り何も与えてはいけない。これまでの搾取の代償を支払わせてこそ、真の男女平等の時代がやって来る」



 そんな事を言っていた町長たちからしてみれば、自分たちは町長たちの思想に共感する仲間などではなく、ただ町長たちの思想を成就させるためだけの道具に過ぎないとでも言うのか。


 その思想を実現させるためならば、一人や二人死んでも構わないのか。

 

 

 この町が出来てから二十年余り、政権交代などない。

 選挙と言う名の政権交代の機会だけはやって来るが、真女性党と誠心誠意党に違いを見出す事などできない。どっちに投票しても同じ。

 棄権者も出まくっており、テレビに因れば直近の選挙の投票率は68%。これでも高いのかもしれないが、三人に一人はどうでもいいと思っていると言う事ではないか。


 何より、毎回選挙の結果がちっとも変わらない。

 だいたい、百二十対八十。

 プラスマイナスがあったとしても五ぐらいであり、まれに「政権交代」したとしても四年でまた政権交代する。

 

(もしかして……)


 頭に浮かんだ予感を追求できるほどには、佐藤の頭は回っていなかった。


 真女性党と誠心誠意党のマニフェストがどう違うのか、勉強を怠った自分を恨む気もない。

 高校の同級生などはどっちの党を支持するかとかでディベートをやっていたが、彼女らが大学に進学しその後電波塔に務めているのか、それとも議会に入り込んでいるのか、はたまたジュエルドプリンセスのような一流企業に務めているのか。


 そんな事はどうでもいいが、それがわからないから自分はこんなにも苦労しなければならないのか。

 岩盤支持層はおろか、無党派層にすらなれない自分がいけないのか。

 オトコを憎み続ける事が、正しい事なのか。

 オトコが産み出したそれを憎み続け、排除し続ける事が、正しい事なのか。

 それが本当に、女を幸せにできるのか。

 第一の女性だけの町でも、こんな事をしているのか。


 仕事と言う名の日常に忙殺されていた彼女は、今この町のどの議員よりも賢い女性だった。

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