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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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尾田兼子の最期

 町議会玄関。


 


 本来ならば行政の中心として厳かであってしかるべき場所は、消えない血臭を覆い隠すように積み上げられた木材で一杯になっていた。


 組み上げられたとかではなく、ただ積まれただけ。

 雑とか言うより、どうしたらいいのか誰もわからないのだろうか。


「見なさい!敵は我々の意志にひるんでいるのです!この尾田兼子がいる限り、女性たちの権利は永遠に守られます!」

「我々は、三名の身柄を引き渡してもらいたいだけです。早くそこをどいてください」

「どきません!オトコに操られたあなたたちを救わねばならないのですから!」


 そう尾田兼子とやらは豪語するが、ただ乱雑に積まれただけのそれをバリケードとか考える人間など突入して来た警官たちの中に一人もいない。

 雑なくせにやる気だけは感じられるような状態。その気になればいくらでも狙撃して何人か撃ち殺せそうに思えるが、わざわざそんな事をする意味もない。



 この町に突入する際に、それこそ相当な抵抗があると言い含められたのがウソのように思えて来る。

 抵抗と言えたのは十数名の小学生と、それらを扇動する一人の教師だけ。その教師を拘束すると子どもたちの大半は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、残りは仲間たちによって必死になだめられている。

 同じ女には甘いのかとも思ったが、だとしてもあまりにも力弱い。

 パトカーもまともに走れないような荒れた道路、滞った物流ゆえかもしれないがだとしてもここまで外部からの攻撃に対して抵抗力がないのかと思わざるを得ない。


 もし自分たちが本当にあの尾田兼子とかが言うようにオトコの手先だと言うのならば、それこそこの町を制圧する事自体一日でできてしまうかもしれない。


「下がりなさい!私たちは皆さんを、世界中の女性を救わねばならぬのです!このままでは室村社と言う財貨と性欲の権化により世界は支配されます!その奴隷となる事を望まぬのであれば、今すぐ我々と共に戦うのです!」


 室村社をソシャゲの配信停止と煽情的デザインの変更を求めて提訴したとか言う裁判の開廷時間がいつなのか、ここにいる警官たちも知っている。


 そして、その勝ち目がびた一文もない事も。




 PTSDがとか言うが、それをどう証明するのか全然わかっていない。この町の医師がこの町の住民数万人を「マイ・フレンズ」の存在によりPTSDに陥ったとか言い出しているが、提出された「証拠書類」があまりにも雑だった。

 一日に百人以上、ひどい時だと五百人の患者がやって来てはPTSDと診断され、しかもそれが日曜休日を無視して連続している—————。

 仮に一人につき10分だとしても、五百人ともなればそれこそ5000分、つまり三日半である。一日で三日半不眠不休で仕事をするなどできる訳もない。仮にやったとすればそこだけ時空が歪んでいるか、一人に付き10分どころか1分しか使わなかったのだろう。それなら500分=8時間20分だから現実的な人数だが、それ以上に診察が適当だったとしか思えない。

 原告不在とか、弁護士さえも出て来ていないとか以前の問題だった。それでも室村社の方はそれなりにやる気であり弁護士以下メンツを揃えていたが、このままだと第二の女性だけの町はその弁護士さえも来られない。前日に派手に登場してマスコミの前で演説でもかます気だったのか、それとも汚れている外には出たくないのか。おそらくは後者だろうとか噂する連中の言葉を体現するかのようなあの威張りくさっているとも取れる物言いからして、彼女たちは勝利を疑ってなどいない。

 

「しかし第一の女性だけの町以上にこの町は閉鎖的ですね、パトカーの一台も通さないとは」

「自動車なんて凶器だからね」

「合成音声だとか言い出すかもしれませんが」 

「構いません。私たちはあくまでも追川恵美、相川玲子、そしてとりあえず九条百恵の三名を確保すればいいのです。それから彼女たちに臨時ボーナスを出すように取り計らわねば……」

 この町で走っている自動車は町を作る際にオトコに寄付させたそれと出来てからの寄付金で買ったそれが全てであり、後者の車はいつも張っている電磁バリアを一時的に解除して数十人単位の警備体制を敷いて持ち込ませている。もっとも最近では道路事情がひどすぎて車など意味がないし、その自動車を整備する人間もいない。




 その結果、数名の警官が町中を歩き回りながら音声を流す事となった。




 どの程度までの戦果があるのかはわからないが、少なくとも町人たちの信仰にひびを入れるぐらいの事は出来る。誰か一人ぐらい、追川恵美たちの居所をしゃべってくれないかと思い考えた作戦。


 その作戦を遂行した途端、反撃が飛んで来た。


「聞きなさい!このようなでたらめを流布してまで!オトコたちは私たちを弾圧しようとしているのです!」




 案の定と言うべき反論と共に放たれた、一発の鉛玉。


 無論そのためのシールドは用意していたから無傷であり、相手に大義名分を与えただけの一発。


「それはどこから手に入れたのです?」

「さあ皆さん!正義のため!最後の一人まで!世界を守るので……」


 


 万歳突撃を推奨するとも思える言葉と共に二発目の音が鳴り、バリケードと呼べるほどでもない木材の塊と、一人の女が崩れ落ちた。




「逮捕してください」


 その言葉と共に、憂国の士・尾田兼子を射ち殺した女性は凶器を投げ捨てた。


 それと同時に三発の銃弾が尾田兼子を殺害した容疑者を射殺せんと飛び、目的を達成し、その音と共に残りの内三割は町議会へと逃げ込み、三割は逃げ出し、三割は丸腰で外の世界の警察官に助けを求めた。




 そして残り一割は、殺人と言うもっとも重篤な暴力行為を働いた生存者に対して生存本能に任せて襲い掛かり、これが最初で最後の発砲であった人間たちを力任せに、小学校時代から今まで十数年間オトコを殴って来たかのように、女たちを殴り付けた。

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