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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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「十五階」の封鎖

「…………とうとう、完全に壊れてしまったようです」


 相川玲子の言葉は、考え得る限り最悪のそれだった。


 追川恵美も涙をこらえながら、ため息を吐く。


 確かに、やったかやらないかで言えばやっていた。

 だが証拠があるかないかで言えば、なかったはずだ。

 ないはずなのに、どうしてこんな事が出来るのか。


「生物学的にオスである存在からのメールは届かないようになっているのではありませんか」

「いえ、メス、いや女性からのそれです。これから第一の女性だけの町及び、外の世界から数百人単位の警官を突入させ私たちを確保すると……」

 

 —————本気らしい。


 どうやら完全に、敵対行為に走ったらしい。


「これはもう町議会、いやこの町全てを破壊するための行いでしかありませんね」

「全住民に向けて呼びかけて下さい、徹底抗戦の旨を」

「あなたは」

「私は出ます、前線でオトコたちと戦って来ます」

「わかりました。あなたの無事をお祈りいたします……」




 一丁の、短銃。

 町長室に眠っていた、短銃。




「これは…」

「もはやこれまでかもしれません。

 私たちは冤罪で捕まる気はありませんが、向こうがどうしてもと言うのならばこちらは命がけで戦うまでです。たとえあなたが死のうとも、その死は決して無駄死にになどなりません、いやさせません」


 命をかけての戦い。

 そっちがそうなら、こっちもやってやるまで。


 恵美は長年、秘書として可愛がって来た存在を前にして別れの言葉をつぶやく事しかできなかった。

 あとは、世界中に自分たちの正義を広め、欲望の塊たちの悪を証明するだけ。


 そのためにする事は一つだけだった。


「よし……」




 町長室のパソコンを開き、昨晩の間に用意しておいた原稿を開く。


 一昨日のそれとは違う、より緊急性の高い救援要請。




「皆さん!我々女性だけの町は、いよいよ最終段階に到達してしまいました!

 第一の女性だけの町を名乗る男性へ迎合する団体は、我々が自分たちの町長を殺したと言う根も葉もないでたらめを投げかけ、この町を破壊しようとしているのです!

 世界の皆様!この横暴を!オトコたちが私たちの最後の楽園!世界のあるべき姿を破壊せんとしている事態に!どうか立ち上がって下さい!この世界の!全ての女性たちに!オトコたちの欲望の奴隷で終わりたくないのならば!今すぐ暴虐なる弾圧にNOを!」


 冤罪による言論弾圧反対!

 女性たちの権利を守れ!

 真の女性の解放のために!


 本当なら、議員たち、いや町民全員合わせて叫びたかった。だがあまりにも急速な状況の悪化に、これ以上打つ手がない。

 たった一人、相川玲子さえ不在の中、世界中に向けて救援を叫ぶ。

 無論この町の他の住民や議員たちにも戦闘態勢への突入を呼び掛けているが、もし本気で来られたら、完全に扇動されているとしたら、それこそ何日持つかわからない。電波塔の防衛用電波とて、四六時中出しっぱなしにしていたら数日で壊れる。直す時間などない。

 そしてそれ以上に、人心の動揺が問題だった。ただでさえ淫乱とか言う屈辱的な名称を与えたのにもかかわらずこの町を捨てるガンギマリ女は減らない。

 この世界にはこんなにも頭がおかしい存在が多いのか、自分たちが進みすぎているだけなのか。あるいは誰彼構わず救おうとした自分たちが甘かったのか。


 様々な思慮ばかりが、追川恵美の頭を巡る。


 そんな悪い発想ばかりが頭を支配する中、スマホは鳴る。

 

「もしもし九条さん!」

「まずい事になりました!謀叛人が出たのです!」

「誰です!」

「大野です!この前我が町にやって来た十五階の職員が!ドアを封鎖し十五階の部屋に立て籠もってしまいました!」

「十八階から!」

「できません…!」


 謀叛人。

 この上なく古めかしい言葉だが、実際にその通りだった。

 

 大野と言う十五階の職員、エリート中のエリートが、本来数人でいるべき「十五階」に一人で立て籠もってしまったと言うのだ。

 十八階の主である九条をして、十五階のセキュリティを破る事は出来ない。各部署の独立性を信じた訳ではなく、十八階と言う権力に溺れやすい場所の主に強い力を持たせるのを嫌ったためである。平たく言えばゴミ回収などの第二次産業従事者に力を与えないのと同じであり、何なら九条百恵自身が決めたルールだった。


「若宮さんは」

「一応ハッキングを敢行していますが…」

「犯人からの声明は」

「ありません。しかし電磁波を送るべき存在がたった一人に掌握されたとあっては一大事です」

「その時間の担当職員は…」

「叩き出されました」


 指紋掌紋・カード・網膜認証・パスコード・二度目の掌紋認証。

 そこまでやってやっと仕事が始められるのが十五階だったが、どうやらその犯人はそこにいた担当職員を電気の棒で殴って気絶させ、気絶したまま間違ったパスコードを押してアクセス拒否状態を作り上げ、放り出したのだ。

「まったく、これだからオトコは!こんな無責任な物を投げて寄越して!」

「…ですね!」

 これについては最初の1ケタを間違えた時点で即アウトではなく16ケタ全て入れた時点でまで結果がわからない+押し直し不可と言うシステムにした外のオトコの責任だが、今の追川恵美にはそれを咎める余裕すらなかった。




 そして、二度目の演説を行う間もなく、この町の破滅と言う名をした存在たちが迫って来たのである。

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