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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
168/182

「意志のない女は男である」

 スーパーマーケットの自動ドアは、自動ドアでもなければ手動ドアでもなかった。


 店長の点崎と副店長の床道は家族を階上の住居スペースに残し、右脇に棒を並べながらテレビを見ている。

 サボっている訳ではない。店員たちを返し、この店に事実上住んでいる二人だけで立て籠もっていたのだ。


「確かにこれじゃ売りようがないですけど、ここまでする必要があるのかってのも」

「いや、私はもう限界だったんです。もし今回、追川町長が逮捕されるのならばそれでいいとさえ思っています」

「そんな」

 床道も口ではそう言ってみるが、実際このスーパーマーケットの経営を思うとそうも言いたくなった。

 外の世界の物価を忘れた訳でもないが、利益を出すために値段を吊り上げなければやっていけない。

 給料はそれほど変わらないのに物価ばかりが吊り上がり、それこそ庶民の生活は苦しくなるばかり。これは町内の生産体制の問題ではなく、運輸体制の問題だった。

 実際それらの物資を生産している工場の側の店の商品の価格は少し上昇はしているが常識的な範囲内であり、この都会のど真ん中にあるようなそれのような高騰はない。1.5リットル入りのペットボトルの水の値段が、工場から徒歩十分の店とここでは三倍違う。それこそ一般的な買い物となると、町中を巡らねばならないほどにもなる。そんな事が出来るのは相当に体力のある専業主婦か、それともあっちこっちにそのための人員を派遣する事が出来る富裕層かのどっちかだった。


「知っているでしょう、うちの目の前を。少し歩けばそこにはひび割れ、あそこにもひび割れ。そんな所をどうやって走れると言うの?」

「直さないんですか」

「直したその手でぶん殴られたいの?」

 点崎も床道に戯れるように言うが、心底からの冗談でない事は間違いなかった。

 点崎の言葉は、この町の政治家たちの性格を嫌と言うほど表していた。このスーパーマーケットも築二十数年のそれであり、まともな補修など行われていない、と言うかする事が出来る人間がほとんどいない。そのため水道の出は悪く、配線も疲弊していて電灯なども薄暗い。およそ食品を扱うそれとは言えないような環境であるが、こんな店は別にここだけではない。


「この町はどうなるんでしょうか」

「ここで引き返せば当分は持つでしょうね、でなければおしまいよ」

「で、引き返せるんですか」


 点崎は笑う事しかできなかった。

 主権在民とか言った所で、一番偉いのは町長様でありそれを選んだ自分たちはその意味で無力。二大政党制になっている以上、町長様を蹴落とすにはもう一方の政党に力を与えるしかない。

 だが今の対室村社訴訟とか言う挙国一致体制を取るまでもなく、真女性党と誠心誠意党に政策の違いを感じる事を二人は出来ない。点崎も床道もこの町生まれの人間ではないし、その前から政治に関心を持つような人間ではなかった。だがいざ有権者になってみて、この町の政治のおかしさに気が付きもした。


 第一の女性だけの町がJF党を産み出した()()()()()()、第三党の独立を認めていない。だがそれは結社の自由を無視したそれであり、ある種の思想統制である。だがついこの前正道党がテロ行為を起こした事によりこの悪法はますます強固になり、もはや第三党の結社は絶望的とも言える状態だった。

 この前入町管理局に突入しようとした若年層の女性たちも、あるいはその元から叶わぬ望みを断ち切られた人間だったのかもしれない。だとしたら、この町は自ら変わる機会を失っていると言う事である。無論悪い方向に変わるのは困るが、いい方向に変わる機会もないのはよろしくない。




 ——————————意志のない女は男である。




 そんな町中、どこの店にもあるスローガン。

 最初から意味の分からない言葉だったが、これまでは一応「意志を持たない人間は、自分たちを傷つけて何とも思わないような連中と同族である」と解釈する事も出来たが、今はとてもできそうにない。


「臨時休業ってどういうことですかって」

「品物がなさすぎるんですって言っておいて」


 来てくれたお客様には大変申し訳ないが、こんな値段で物を売る気になどならない。それでも買うとか言う殊勝なオキャクサマを踏みにじる気もないが、結局の所可愛いのは自分だった。一応こんなぼったくり価格で物を売りたくないとか人様を慮っているつもりだが、結局最後に可愛いのは自分だった。


 そう、最後には、だ。

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