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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
166/182

終わりの始まり

「どう」

「全然ダメですね。バーカと言われるのは幸福です」


 電波塔の職員たちはいつもの仕事をやめ、町長と誠心誠意党党首の共同演説の動画やら演説全文やらをあちこちに貼り付けまくった。




176:魁歩美

https://xxxxxxxxx


177:名無しのフレンズ

う わ で た よ


178:名無しのフレンズ

誰かこいつを止めろ


179:名無しのフレンズ

自分でも何言ってんだかわかってねえんだよ、ほっとけ


180:名無しのフレンズ

>179

ワタシはセーギ、オマエラはアクトー。以上


181:名無しのフレンズ

ホビーちゃん、そんなに懸命になるなっつーの。よしよし


182:名無しのフレンズ

二女ちゃん、それはひょっとしてギャグなのか?


183:名無しのフレンズ

ホビーちゃんがそう思うんならそうだろうな、彼女らん中ではさ


184:名無しのフレンズ

あーしょうもねえ幼稚園児のおままごとじゃねえんだからー女媧ちゃんよー




 こんな風に煽られるのは、まだ上等な反応だった。

 歩美の読みを変えて「ホビーちゃん」とか勝手に呼ばれているのもまたしかりであり、第二の女性だけの町から取って二女ちゃんとか、ひどいのになると女媧である。

 女媧そのものは偉大なる女性の神だが、連中は第二の女性だけの町の住民に「股煮女媧」———「またにじょか」とか言う見るにも聞くに堪えない名前を与え、その上に自分たちがさんざん否定しているはずのいかにもオトコに受けそうな面相を投げて寄越した。

 要するに股煮女媧を略した結果が女媧であり、よりひどいのだと股女とか言うのもあった。


 そして、大半がスルーであり、残りが通報からのブロックだった。


「あなたどの辺りにやってるの」

「他の市区町村に向けてメールを送っています」

 魁歩美も多川も、世界のために戦っていた。自分にとって理想の世界、いや世界中の女性にとって理想の世界のために。


「でも改めて思うけど、そんなに室村社の連中は冷たかった訳」

「ええ。女性だからの一言で私は左遷され、オトコのご機嫌取りに成功した女だけが出世して行きました。その事をこの町に来てから室村社関係者として散々訴えて来ましたし、さらに自分たちがいかに恵まれているか訴えかけたはずなんですが……」

「そう、こちらがいかに素晴らしいか示す事は重要よ」

「でもダメでしたね。一応退職前に仲良くしていた同僚からは連絡も来たんですがその大半はやめとけであり、私が外の世界よりずっといい暮らしをしていると言っても耳を貸してくれませんでした」


 室村社勤務だった多川は、まだ会社にわずかな愛情はあった。その会社をあるべき姿に戻し、まともな志を持った同僚だけは助けたいと思っていた。

 しかし、その彼女らからの返事はほぼ全て「大きなお世話」の七文字に翻訳できるそれだった。自分たちから仕事を奪うな、会社は倒産しかねないほどの打撃を負い自分たちは無職になると言う悲痛な叫び声が浴びせかけられ、あっという間に絶縁されてしまう。それどころか室村社から危険人物の烙印を押され、室村社の恩恵を受けた外の世界の多数の企業のブラックリストにその名前が載るようになっていた。


 平たく言えば、もう外の世界で多川が就職できる企業はかなり限られていると言う事だ。



「明後日には外の世界に町長たちは旅立つ。聖戦のために」

「必ずや勝利するのでしょう」

「無論よ。でも万が一の時には」

「ええ。私たちが子どもたちの盾となり矛となり、外の世界の性欲に駆られた連中に正義を叩き付けるのです」

「そうね」


 訴訟の日まで、あと四十時間余り。


 その日が即栄光の始まりとはならないだろうにせよ、始まりの終わりであり終わりの始まりである事は間違いない。

 

「でもね…」

「何ですか」

「ちょっと前にこの町を出て行った女の事知ってる」

「知りませんよそんなの」

「五味栗江とか言う女だけど、彼女第一の女性だけの町に抱き込まれて漫画描いてるんだって」

「漫画!?」

「そう。ゴミ回収しながら漫画描いて、それで大金もらってるって」

「うへぁ……」


 多川は心底から嫌になった。


 そしてこっちが室村社の元社員を抱き込んだように、第一の女性だけの町とか名乗るオトコたちに迎合した失敗都市も第二の女性だけの町の元住民を抱き込んでいる。第二の女性だけの町の事を分かったつもりになっている女を使い第一の女性だけの町のプロパガンダを行わせ、自分たちの正統性をアピールしようと言うのか。

 

 あまりにも卑劣すぎて、二の句が継げない。




「とりあえず…なんか飲む?」

「あるんですか?」

「缶ジュースと缶コーヒーならあるけど」

「ジュース下さい」


 据付の自販機で、売り切れの文字が光っていない二つの飲み物。

 そのボタンを押し、歩美は二本の飲み物をデスクに置く。多川が代金より少し多い金額を机の上に置きジュースを手に取り、プルタブを開けて口を付ける。乾いた体にあっと言う間に水分は入り込み、前線に立つ兵士たちを潤す。

「あ」

「しょうがないでしょ、順番だから」

 最後の一本の缶ジュースを飲んでしまった事に気付く後輩に対して、先輩は実に優しい。




 この優しさが永遠に続く環境である事を願うのは二人だけでなく、第一の女性だけの町の人間も、外の世界の人間も同じだった。










 だがその平穏は、破られた。










 四十時間後どころか、十六時間後に。










「第二の女性だけの町町長追川恵美、追川恵美の町長秘書相川玲子、電波塔施設長九条百恵。


 以下三名を第一の女性だけの町の職員木谷、同水森殺害容疑により逮捕する。」

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