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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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二つの条件

「それで彼女たちは」

「一応何十人か顔は抑えていますが、大混乱状態に付き確保できたのは数名です」

「とりあえず、射撃した警官を慰労してください。しかし合川と言い今度の女性と言い、どうして地位も名誉もある存在が……」



 酢魯山澪と九条百恵の二人は、どこまでも《《被害者》》に対し冷淡だった。

 

 適当に給金を払い、親族に遺体を引き取らせる。もちろんその額ははした金そのものであり、電波塔の職員の数日分のそれでしかない。



 そう、彼女の本職のそれである。



「参りましたね。外の世界に触れている内に毒されてしまうのでしょうか。あくまでも彼らは教え諭し救うべき存在であり、決して感化などされてはならぬと言うのが甘かったのでしょうか」

「わからないわね。あんな気持ち悪い物に魅かれるだなんて。すぐに電波塔担当職員のメンタルケアと再教育を行って下さい」


 猛毒でしかないはずの存在と日々関わらされ、そうして心を病んだ所に誘惑の手が伸び、惑わされて壊れてしまう。ここ二十年ほど同じような仕事をやっているはずなのに、最近急に現れ始めた症状。

「私も十五階ばかり見て来て下を怠ってきたかもしれません。とにかく彼女はしばらく再教育と言う事で私が預かります」

「すみません……」


 ずっと警官たちの教育をして来たのは、九条百恵だった。

 その百恵の背中がなぜか曲がって見えて事を酢魯山は内心で嘆きながら、出て行く彼女を見送る。



(この町が出来た時から、警官たちをしつけて来た彼女をして現状は最悪とでも言うべき状態……どうしてこうも、この町にさえも……ああ!)



 机をぶっ叩きたい。

 いや、これほどまでに正義のために戦っているはずなのにその事を分かろうとしない連中全てをぶっ叩きたい。


 そのためにここまでやって来たはずなのに、どうしてこうなるのか。


 どうして皆、自分たちの言う事を聞こうとしないのか。


 どこよりも清い町を作り、世界に見せつけねばならないのに。


 もはや自分と同じようにいら立ちが溜まっている人間や、長引く戦いに疲れ果てている人間がいる。敵はそれこそその隙間を狙って忍び込んで来る。この自分たちの欲望を果たすに当たって最も目障りな存在を消すために。




「…なら!」




 そっちがそうなら、こっちもやってやるまで。


「裁判の日まで、あと四日。とうとう、室村社は最後まで戦う事を決めた……まったく、そんなにも拝金主義と性欲への耽溺をやめられない連中が威張りくさっているとは……私たちが助けてあげなきゃいけないのね……」


 室村社に対する裁判の第一審が行われるまで、あと四日。

 民事訴訟として要求した金額そのものをせしめる気など、さらさらない。

 単に自分たちがひけらかして来たそれがいかに害悪であるかを認め、女性の権利を阻害していたと認めてくれればいいだけだった。


 具体的に言えば、「ソーシャルゲーム、マイ・フレンズの即刻配信停止。」それしかない。

 他の連中がどうあがいても大元がやめると言えば自然に衰えて行くだろう。それでまた世界は正常に一歩近づく。


 そう都合四十年以上言い続けて来たはずなのに、誰も耳を貸さない。そのためだけに行き、他の全てを投げ捨てて来た。一度はうまく行ったかと思ったが、うまく行ったと思ったとたんに妨害の手が入り崩壊、自分たちの思想は衰退どころかほとんど禁忌のようになってしまった。

 当たり前のはずなのに。

 元々、そのために集まっていたはずなのに。


 だから、こうして第二の女性だけの町に賭けた。本当なら、とっくのとうに行われているはずだった訴訟に、なぜここまで時間がかかったのか。



 いや、元々訴訟は行っていた。

 だが小規模な訴訟は外の世界の心を打たず、何回やっても勝利の二文字はない。どんなに自分たちの権利を主張し住人たちの心の安全を訴えた所で、誰も聞く耳を持たない。



「あくまでも原告の主張は原告の利益のみを追うそれであり、被害者とされる存在があまりにも広範すぎる。その被害者たちが本当に被害を負っているのかと言う証明が原告の主張・証拠からはあまりに不足しており、一方的名それであると言わざるを得ない。」



 そんな定型文を、何十回聞かされたことか。外の世界の女性たちは自分たち代表であるはずの存在を軽視し、むしろ傷つけたはずの味方に回ろうとする。

 それこそDVに慣らされてしまった存在であると言おうものならば、言われる言葉は決まっている。




 チンピラ、ヤクザ。

 



 そんな最大級に心無いと言うか強烈かつ侮辱的な悪罵によってそしられ、耳を貸さなくなってしまう。

 自分たちが本気なのに気付いてくれる女性もいない訳ではないが、その内何人が自分たちの味方になったくれたか、数える気などない。



 なればこそ、こうして巨悪に向けて戦いを挑む事とした。例え少しでも相手に非ありと認めさせればそれでいい。そこから一挙に放縦を極めし流れをせき止め、逆流させる事もできる。


(町長も尾田党首も……外の世界に向けて戦っているのでしょうね……)


 追川恵美町長と尾田兼子党首の最後の訴え、世界を守るためのプロモーションビデオの撮影が今行われている。

 そこに参加できないのは悔しかったが、それ以上に楽しみだった。


 自分たちの正義が、叶えられるまでもうまもなくだと言うのが。

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