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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十三章 正義は我にあり
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「淫乱」者たちの殺到

「ちょっと、まずはブルー・コメット・ゴッド病院に」

「うるさい!早く認めて!淫乱女なんかいらないんでしょ!」


 二つの情報が発表されるに当たっての十八時間と言う間隔。


 その間隔を経て放たれた二つ目の情報は、第二の女性だけの町の住民の一部を恐慌に陥らせるには十分だった。


「あの町長は生きてるんでしょ!そんな人に敵うわけないじゃない!」

「そうよ、あの人が怒ったら私たちはおしまいよ!」


 水谷町長は第二の女性だけの町に部下を派遣したと明言し、もし無礼だと指摘されれば遠慮なく謝意を示すつもりだったと公言と言うか広言し、非難したければしろと言わんばかりに開き直っている。

 その代わりに送り込んだ存在が暗殺と言う最悪の死に方をした事もあり、完全に大義は第一の女性だけの町にありと言わんばかりにはしゃぎまわっていた。


 暗殺と言う単語に恐慌に陥った住民たちは入町管理局におしかけ、今すぐ「淫乱」させろと迫っている。建物自体無理やり詰め込んで二百人の場所に四ケタ近い人間が押し寄せ、二十人も警備員のいない建築物を突破しようとしている。投石や悲鳴が飛び交い、オトコに作らせた建物が壊れる。


「考えて下さい!暗殺だとか誰が言い出したのです!その証拠がどこにあると言うのです!残念ながらそうしていないと言う証拠もありませんが、悪魔の証明と言う言葉を存じていますか?」

「悪魔の証明?」

「水谷町長を名乗る存在が町長らの手により暗殺された、そう述べていますが証拠は一体どこにあるのです?証拠もないのにそんなデマを流すなど、名誉棄損どころの騒ぎではありません」




 「水谷町長」とその「秘書」の死亡は、町長権限によって「自殺」として処理されている。遺体は第一の女性だけの町に返される事なく火葬・埋葬されており、もはや遺骨しか残っていない。

 彼女らの親類縁者の意見を完全に無視した無茶苦茶な話だが、訪問したいとか言っておきながらニセモノを送りつけて来た第一の女性だけの町の不実をとがめると言う事で言えば一応筋は通る。

 実際、第一の女性だけの町から遺体の返還要求はない。

「どうしてもと言うのならば三日間ブルー・コメット・ゴッド病院に入ってください、それからです!」

「そんな事を言わずに!」

「静かに!」

 暴徒と化した民衆を必死に治めるべく警官達までもが出動し、ようやく騒動は下火となりつつある。

 

 混乱状態に陥った中でもまだある程度の理性を保っていた存在が、現実と向き合わされて気付いてしまったのだろう。

 警察官と言う権力者の登場と、自分たちの騒乱が自分たちのそれだけでしかない事に—————。


「とりあえず、ブルー・コメット・ゴッド病院に!」

「はい!」

 

 その理性的な存在により、彼女たちはブルー・コメット・ゴッド病院へと向かった。

 足取りは大股で鼻息の荒いその男性的集団に迎合する住民は、彼女らの予想よりかなり少なかった。






「今いる患者を処理したとして、あの人数捌くのに何日かかる?」

「無休でやればひと月」

「アホくさ……」


 騒乱を極めたとか言う割には整然とした何キロ単位の行列を作っている集団を見下ろすタイラン院長の視線は、まるで津居山前院長の亡骸を見た時の様だった。

 もちろん年中無休なんて不可能だし、仮にやったとしてもそれから患者が一人も増えないだなんてある訳がない。キャパシティー五十床のこの病院で患者を捌き切るなど、週休一日半のこの病院ではそれこそひと月どころかふた月かかる。

 その間に、室村社との裁判の第一審が始まるだろう。そうなれば自分たちの勝利は確実、この病院に入った人間はわざわざ栄耀栄華を捨てるアホでしかなくなる。そこまでしたいとか言うのならば今更止める気もないが、少なくとも訴訟が終わりこの町に勝利と平和が訪れるまではいてもらわないと困る。


「ねえ……どうしてみんなわざわざ乱れるのかしら」

「さあ……」

「この町に住む女性たちはみな美しい。その宝石にも等しい存在を外の世界に投げだして自ら餌になりに行くだなんて、どいつもこいつも頭がおかしいんじゃないかしら」

「ですね……」

「あれほどまで子どもの、いや赤ん坊の時からオトコとオトコが好む物は私たち女性の心をさいなむ物ばかりだって教わって来たはずなのに。で、どれぐらいいるの、この町から一歩も出た事のない人間は」

「この十日間で淫乱ガンギマリ女判定された中では三十%ですね」


 外の世界の事を害悪としてのそれ以外何にも知らない二十代前半以下の存在ですら、町から出ようとしている。


 しかも今回入院を希望している淫乱女候補たちの中では、三十パーセントどころか四十パーセント以上である。


「………………どうしてなのかしらね。世の中にはまだまだ、オトコに全てを捧げる事が幸せだと信じて疑わない奴隷が多すぎるのは」

「ギャンブルは害悪だとわかっていないのでしょうね」

「それね。賭け事は身を滅ぼすと言うのは幾千年単位の真理のはずなのに。オトコに好かれれば自分自身もっともっと楽に生きられるからと言うあまりにも勝率の低い賭けに挑もうとしてるんでしょう、それで何人の女性が騙されたか知らない訳でもないはずなのに……」




 タイランはそうではないが、夫が持つ人形その他に手を出して女性だけの町に流れるしかなくなった中年以上の女性の数はかなり多い。

 自分にとって邪魔だと思う存在を少しばかり取り除いて住み良くしようとしただけなのにオトコから離縁され、家族に理解されず、中にはオトコに死なれて人殺しの烙印を押された存在もいた。


 そしてそれらの多くが、第一の女性だけの町でも肩身が狭い思いをしていた。

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