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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十二章 「最後通牒」
152/182

使者の名は

 翌日。


 町議会のすぐそば、ごくごくわずかながら血臭が残る建物の四階で、追川恵美と相川玲子、さらに九条百恵がお客様を待っていた。

 築二十幾年と言う程度には古めかしくはあるが、外見だけは新築のようにきれいに輝いている。ついでに観葉植物も置かれており、殺風景な部屋を彩っていた。




「町長、お客様をお連れいたしました」


 OLそのものの姿をした若宮が、二人の女性を連れて来た。

 

 片や、不自然さのない笑顔を浮かべる中年女性。

 片や、その中年女性に付き従う背筋を伸ばした若い女性。


 前者は紙袋を両手に持ち、後者は書類の入った皮のバッグを持っている。




「水谷と申します」




 水谷。


 第一の女性だけの町の、現在の町長。


 創立以来初めて、人の腹から生まれなかった町長。


 その面相はやけにやわらかく、およそ第二次産業が支配している町の町長には見えない。

 初対面の追川からしてみれば、実に不可解だった。


「何か…」

「いえ、何でもありません。それにしてもよくご無事で」

「え?」

「はあ……大変申し訳ございませんがここ数日治安の悪化が急速に進んでおりまして、本来ならお出迎えすべきだった警官さえもそちらに回しているような状態でありまして……」

 別に嘘でも何でもない。二件のレイプ事件をきっかけに町内の警護をいっそう強めた事もあり警官の絶対数は不足しており、さらに入町担当者がひと月の謹慎で新任を配属したばかりとかなりごたついている。

「いわゆるその、強姦である、と……」

「まあそうです。二十年以上起きなかったはずなのにこんな時に……」

「我らの町とて起きています。そこまで気に病む事もないでしょう」

「そうなんですか」 

「無論我が町でも重罪です。最低終身刑、最高死刑です」

「そうですか」


 既にこちらの弱みを握り込んでいる。最悪のタイミングでやって来た、最悪の招かれざる客。

 本来ならこのオトコが支配する世界のただ一人の仲間として、あるいは自分たちの町のモデルとなってくれた先達として、本来なら最大限の敬意を払うべきかもしれない。


 だがどうしても、彼女の影に「オトコ」の存在がちらつく。


 第一の女性だけの町の実質的支配者である、土木作業員や水道工事と言った身体能力を武器とする存在。

 その彼らに支えられている町長、彼らの言う事を聞かねば職を失う町長。


 どの程度まで彼らが町長の心を支配しているかはわからないが、何としても自分たちの立場を理解してもらわねばならない。


「さて……本日はいったいどのような事で」

「とりあえずこちらを」


 必死に警戒を解きながら笑顔を作ると、水谷は紙袋から何かを取り出す。爆発物などではない事は既に分かっているが、それでも鬼が出るか蛇が出るかわかった物ではないとばかりに紙袋をにらみつける。

 無地の袋の中から出て来たのは、ひとつのぬいぐるみ。


 濃い緑色の、爬虫類を思わせる三頭身ぐらいのキャラクター。

 

「何ですかこれは」

「ドドラちゃんと言って、私たちの町の子ども向け番組のキャラクターです。私が子どもの時から人気で、第一の女性だけの町のマスコットキャラクターのようになっているんです」

「ドドラちゃん……」

「ええ。コモドドラゴンから取ってドドラちゃんです」


 ドドラちゃんとか言う、第一の女性だけの町のキャラクター。

 目は大きめでさっきも言ったように頭身は低く、中性的な吊りズボンを履いたキャラクターのぬいぐるみ。

 出来そのものは実に良く、いかにも贈答品としてのそれを思わせるクオリティだ。

「それで、そちらの町の子供向けのキャラクターってのはどんななんですか?」

「まるさん、さんかくさん、しかくさんです」

 そんな代物を見せ付けながら、自分たちの調査不足を臆面もなく披露する。相川が町長と同じように営業スマイルを作りながら、指で机にキャラクターを《《描く》》。

 一応それに目鼻と口がくっついているが、ほぼそれだけ。三歳児でも十秒で描けるようなキャラクター。

 一方で、ドドラちゃんとやらを描くのにはフリーハンドならば一時間、器具を使ったとしても三十分はかかる。


「それでなぜ、コモドドラゴンなのです」

「コモドドラゴンは単性生殖が可能とされています。それこそ自立した女性であると言う証明であり、私たちの町の象徴として適当であると言う事になったのです」

「ドドラちゃんとやらだけで話が成り立つのですか」

「もちろん悪役もいます。そちらの子供向け番組の悪役って何ですか」

「いつも悪い事しかしないばってんくんと言うのがいますが」

「我々の場合はウサギです」

「ウサギに失礼だと思いませんか」


 ウサギが悪役と言う言葉に、追川は営業スマイルをやめた。

 コモドドラゴンを使う理由は分かったが、なぜウサギが悪役でなければいけないのだろうか。

 いや意味としてはウサギの性欲の強さを嫌ったのだとわかるが、なぜわざわざ特定の存在を的にせねばならないのか。


 その偏狭な考えが、恵美にとってたまらなく不愉快だった。


「それで、このドドラちゃんを友好の証にしようと」

「いえ、今日はもっと重大な事があって来たのです。




 今すぐ、第二次産業の待遇を改善してください」

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