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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十二章 「最後通牒」
151/182

予算問題……?

いよいよ二十二章、この章が終わった後は2日間休みをいただきますのでご注意を。

 二人のレイプ犯公開処刑と言う名の行事に立ち会わなかった、唯一の重職者こと丹治勝美は、ため息交じりに町役場に入る町長たちを出迎えた。


「丹治さん、ごめんなさいね、仕事が溜まってて」

「それはいいんです。皆様には皆様の役目がありますから。ああ、ありがとうございます」

 町内の財布を一手に握る彼女には、追川恵美も頭が上がらない。先ほどの勇ましい姿はどこにもなく、町長のくせに侍女のような振る舞いだった。手には缶ジュースとアンパンを持ち、追川の側の綿志賀咲江も頭を下げている。勝美も頭を下げ返しながら、間食と飲み物を受け取る。


「とにかく、この空前絶後、史上最悪の事態を前に町内の環境は正直よろしくありません。

 実際、この町を外から支えんとする寄付金の額は、昨年度過去最低を記録しています」

「わかっています。それで今年度の見込みは」

「さらに悪化、と言うかこれまで安定して寄付してくれていた同志たちさえも引き上げているような状態です。このままでは来年度予算を組む事さえも困難です」

「新規振込先は」

「ゼロです」


 この町の財政を支えている、寄付金。志高き人間たちから集められているはずの現金が、急速に減少している。

「やはりあの事件ですか」

「ええ。隠そうとして隠し切れるものでもなく、平和な町で発生してしまった事件に失望した同志たちが手を引っ込めてしまったようなのです。こちらをご覧ください」

 タブレットには、年度末に振込予定だった同志たちが、次々とキャンセルする旨が記されている。額の多寡はあれど十数年単位で町を支えてくれた存在が、だ。

 当然ながら追川たちの顔色は青くなる。この数日でキャンセルして来た存在だけで、電波塔の職員百人分の年間賃金がなくなる。無論全職員からカットすれば払えない訳ではないが、それではこの町の存在意義が薄れる。



「……町議会議員の給料をさらに下げましょう。我々が身銭を切ってこそ住民のみんなもついて行くのです」

「ですね。隗より始めよです。重たい給料袋を抱え込んでふんぞり返るなどとか言うことはできません」



 恵美たちからしてみれば、当然の事だった。指導者が自ら苦しい思いをせずにいては、下からの尊敬を得られず政策の遂行もできない。主権在民と言う名の世界にいる以上、為政者は民衆の手本でなければならない。


 だがこうして給料を削るたびに、議員と言う役職に魅力が失われていく。百人の電波塔の職員を養うのに、二百人の町議会議員の年収の何割を削らねばならないか。その計算は丹治勝美でさえもできているが、彼女自身止める気もない。彼女の給料も既に自らカットしており、二年前から比べ年収は五分の三になっていた。今回彼女自身が身銭を切れば、それこそ年収は半分以下になる。

「それからなんですが」

「何ですか」

「数日前に自殺した野田と言う水道配管担当の女性ですが、どうやら男に貞操を奪われていたようです」

 

 それ以上に深刻な問題が、もう二つあった。

 一つは、野田と言う女性の自殺。

 とくに入町の動機を言わなかったためか水道配管担当にしたが、あのレイプ事件に衝撃を受けた自殺した後、遺骨の引き取り手を探すべく外に調査してやっと彼女が本当に外の世界でレイプされていた事が分かった。


 あまりにも、救えない。とりあえず入町管理局の職員をひと月謹慎させはしたが、これからは入町管理局の職員に丸投げするのをやめるべきか迷いが生じてしまう案件だ。

 拙速は巧遅に勝ると言わんばかりに多くの外の世界の人間を取り込んで来たのに、甲斐のような人間を生かし野田を殺してしまった。もちろん追い払う事などオトコでもない限りできやしないが、それでも扱いを考えねばならない。無論調べられたくない人間は多いだろうが、それでもやらねばならない。あるいはそのあまりにも暗い過去を抱え込んだままこの町に入って来たかもしれない人間がいる以上、彼女らにも遅まきながら何とかせねばならない。




 そして、それ以上の問題は、翌日の事だった。




「どうやら、彼女らにためらいはないようです」

「先延ばしにはできないの」

「出来るとは思いますが、そうすれば足元を見られるのは必死です」

「相手が果敢にも向って来るのならば、受け入れない訳には参りませんね」


 翌日、追川恵美は議会には出ない。

 

 

 ある人物たちの会談を、町の代表者として行う事となっている。


「相川さん」

「はい。ですが、あくまでも向こう次第です。向こうがこちらの言葉を受け入れてくれるならば、私はただの秘書です」

「もしそうでなければ……」


 追川は相川玲子の前で、電灯を見上げながら低く三度拍手をした。


 気の抜けたポーズだったが、追川にも相川にもまったくそんな所はなかった。

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