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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十一章 死刑執行
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「世界平和への道のり」

 あまりにも、凄惨な公開処刑。

 その処刑を指揮した町長・追川恵美の顔色に、pH6.5から7.6ぐらいの範囲の変化があった。

 BTB液ならば変化もわかるが、リトマス試験紙ではわかりにくいほどの変化。ましてやフェノールフタレイン溶液とか言うpH8.3以上のそれでは全く分からないほどの変化。


 その変化さえも、追川恵美にとっては自己嫌悪の材料でしかなかった。



「……こんなにも早く、この道具を使わねばならないとは……」



 つい先ほど言った通り、本来ならば室村社のような外の世界の公序良俗を乱すような連中の頭に使うべきそれだった。

 レイプとか言う有り得ない犯罪を犯した人間二人に使ってしまったのは、予想外と言わざるを得ない話だった。


「この町に少しでも瑕疵があれば、外の世界の連中はそこを突き続けます。この町を決して侮ってはならず、逆に隙あらばいつまでもそこを責め続ける旨世の中に示さねばならないのです」


 公開処刑と言う町始まって以来の重大行事に集まった住民に向けての、演説。

 まったくぶれる事のない、いつも通りの行い。


 いつの間にか綿志賀咲江や尾田兼子、酢魯山澪に芥子川萌香と言った町議会議員や九条百恵や相川玲子と言った町の重職者たちも集い、血臭漂う中町長に付き従っている。


「彼女たちは、いずれも外の世界の連中により心も体もひどくいたぶられてしまいました。その疲弊に耐えかね、そこに仕込まれていた猛毒が作用して彼女らの心を蝕み、壊れてしまったのです。

 いや、壊されてしまったのです。

 ご存知の通り室村社は、我々の提案をまったく顧みることなく跳ね付け、裁判と言う名の戦いに臨もうとしています。敵は、ただ自分たちの食い扶持を守るとか言う重大そうな目的を口にしながら、実際は男根を満足させるそれがなくなる事をひたすらに恐れ、我々と戦おうとしています。

 何と言うみっともない戦いの理由でしょう。

 そんな理由で戦う人間などに、我々が負けるはずなどありません。もし万が一敗北するのであれば、それはもうこの町の外には何の夢も希望もない事を意味します。そして彼らはそんなしょうもない戦いのために、ここまでの事をしたのです」


 追川恵美の後ろに並ぶ重職者たちも、顔色一つ変えない。文字通りの日常を、普通に過ごしている。


「皆さん、これからも戦いは続きます。例えこの戦いに勝ち、室村社をあるべき形に戻したとしても、外の世界には彼らの同類項が余りにも多すぎるのです。彼ら全てを正し、万人のための存在にしない限り全世界の女性は永遠に安心できないのです。

 いや、これは女性だけでなく男性のためでもあります。真っ当な恋愛を阻むような存在をなくす事により男たちは立派に成熟し、女性を進んで脅かそうとする事はなくなります。そのために、この町が出来たのです!

 男性自ら、作ったのです!」


 事実と言う名の絶対的な切り札を振りかざすその姿に、何の迷いもない。


「第一の女性だけの町を襲った大規模テロ事件の後、第一の女性だけの町に限界を感じた男性たちの手により自ら作り上げられた、女性のためのユートピア。それがこの町なのです。いつの間にかその志は忘れられ、オトコたちはこの町を文字通りの姥捨て山、棄民の地とした!

 外の世界の連中は、我々の事を邪魔くさい存在としてしか思っていない!先ほども言ったように、性欲のはけ口を奪わんと欲する存在がいなくなって、いやただうるさい連中がいなくなってせいせいしたとしか思っていない!

 このまま!このまま見下されたままで良いのですか!

 そして、自分たちだけが安寧に浸っていると言う贅沢をこのまま享受し続けていても良いと言うのですか!」


 あくまで対話こそが絶対の正義であり、いかなる暴力をも害悪であると言う極めて聖人君主な思想を剥き出しにする。


「我々が!先頭に立たねばなりません!

 世界の誰よりも、女性を思う存在として!

 これ以上、オトコの跳梁を許してはならない!

 いや、もはやこれは完全な攻撃です!

 この町の住民の人権を侵害する行いであり、最大限の力を持って答えねばなりません!

 皆様!どうか我々に、力をお貸しください!お願いいたします!!」




 すべて言い終わったとばかりに、深々と頭を下げる。

 静かな空気が場を覆い、たった今起こったばかりの殺人を過去にする。



 直線距離にすれば二十分の所を、延々一時間かけて持って来た存在。



 その二人の内一人がどんな存在か、追川恵美は、わかっていた。



 あれが、決して本気のそれではない事を。



 住民たちに決起を促すための、それである事を。


(あるいはその後で目を覚ましたのかもしれないけど……いずれにせよ、またこの戦いに勝たねばならぬ理由が出来ましたね。

 それにしても九条さん……!いったい何をやっていたのです……)


 九条の方に視線を向けないようにしながら、追川恵美は仲間たちと共に運転手付きの自動車に乗った。

最終章まであと少しです!

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