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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第二十一章 死刑執行
148/182

「アハハハハ……」

「では開廷いたします」


 合川の二日目の裁判だ。


 もちろんレイプ未遂と言う重罪であり現行犯であったから無罪などはなく、刑の軽重を決めるだけのための裁判となっている。

 もはや有期刑などありえず、死刑か終身刑かの二択でしかない。終身刑と言っても実際には幾十年かで釈放されてしまう事もあるが、まだ町が出来て二十数年のこの町にそんな人間はいない。第一の女性だけの町でさえも終身刑を受けてから釈放を経験したのはわずか数人であり、とても現実的な話ではない。だから死刑より終身刑の方が重たいのではないかと言う向きもあり、第一の女性だけの町でもその議論が幾たびもかわされ現在では死刑がかなり優勢になっている。


 だがこの町においては死刑は劣勢であり、それこそレイプでもなければ起こり得ようのない刑のはずだった。無論、その起こり得ようのない事件が起きてしまったからこそ死刑と言う言葉が出ているだけなのだが、それでも死刑と言う二文字を出しにくいのは世の流れもあった。


 先ほどこの町の弁護士は稼げない職種だと言ったが、裁判官や検察官は違う。少なくとも同じように司法試験を潜り抜けたエリートであり、ブルー・コメット・ゴッド病院と同じように閑職かつ高給取りと言うこの町における勝ち組だった。

 だが司法試験を突破してなお裁判官や検察官に就けない人間は少なくなく、また別の試験を突破せねばならなかった。もっともこの町で過ごして来た人間ならば合格率100%の試験だったが、それゆえに外部の人間が入って来ず事実上寡占市場となっている。無論外部から入って来た上でその試験を突破すれば裁判官及び検察官になれるが、現状それをやったのはまだ一人もいない。

 

「ではまず、検察官」


 その言葉と共に、検察官が立ち上がる。

「被告人は一昨夜、被害者の上着を突然脱がせ、さらに下半身にも手をかけようとした。そこを目撃されて手を止めたものの、それでも女性として守るべき尊厳を破壊しようとした罪は全く軽くない。もし目撃者がいなければ甲斐死刑囚のように最悪の一戦を越えていた可能性は低くなく、社会治安のためにも断固たる刑を取るべきであると考えます」


 昨日と言っている事は変わらない。元から変える気もない。


「弁護人」

「被告は確かに重大なる罪を犯しました。しかし昨日もご覧になった通り、被害者は被告人の更生を求めています。死刑と言うのはもはやこれ以上いかんともしがたい存在であると言う被告人に対する見切りであり、肝心要の被害者の意志と一致しないのではないかと言う懸念があります。刑務作業に従事し罪を悔い続けるのもまた、立派な刑罰です」


 弁護士の言葉も、これまた変わらない。それぞれがそれぞれの立場に立ち、それぞれが言うべき事を言っている。

「検察官」

「質問ですが、弁護人は終身刑は死刑より厳刑であるとお考えですか、それとも寛刑であるとお考えですか」

「寛刑だと考えておりますが、同時に死を望む人間にとっては厳刑であると考えております。ただ誠に残念ながら被告人がいずれなのかは未だにわかっておりません」

「弁護人は一般論であるとお認めになると」

「残念ながらそうです」

 死刑を望む人間に死を与える事が、果たして被害者のためなのか世間のためになのかはわからない。だがこの場にいる誰もがその問題など棚上げにして、ロールプレイングゲームをやっている。ゲームクリアを目指している。



 そしてそのゲームは、いきなり終わりを告げた。



「被告人!」



 弁護士が守ろうとしていた合川と言う存在が、いきなり狂い出した。


 そうとしか言えなかった。

 

 いきなり振り向き、弁護士の胸に両手をやった。キーボードしか触った事のないような細腕にふさわしくないほどの手で動かす。甲斐の犯行が報道統制されていた事など構わず、甲斐と同じようにスーツを破りにかかる。

「被告人!」

「アハハハハ……」


 裁判官の制止も関係なく、合川は高笑いをしながら服を破いていた。

 こんな犯罪など起きない事を前提に作られているスーツは着心地は良く安価であるが、その分見た目より脆い。合川や甲斐でも引っ張って破れ、ワイシャツを開けっ広げにさせる。無論合川はそのワイシャツにも手をかけながら弁護士に覆いかぶさり、笑いながら口を封じる。

 警備員が必死に引き剥がそうとするが唇と言う名の接着剤は強力であり、傍聴人も裁判官も検察官も棒立ち状態の中三人がかりで合川はようやくその両手を離した。


「もはや彼女は病膏肓に入っている事は明白!もはや極刑をもってするよりないと考えます」

「ええ。被告人は現在進行形で被害者ほかこの町の住民たちの期待を裏切りました。もはや更生の余地なしと判断し、死刑を求刑いたします」



 検察官の叫び声で強引にバグは解決され法廷は決着したが、弁護士の顔面は真っ赤に染まり、法廷の整然とした空気は雲散霧消していた。


 それをまとめる力など、この場の誰にもなかった。

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