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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十九章 脱走者たちの宴
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「富裕層になる方法」

「ふぅ……」


 津居山は今日まだ三杯目のコーヒーを飲み干し、安どのため息を吐いた。



 彼女の独断で行われた一日での追放許可と言う決定により、五十五名の入院患者が期日を残して追放を認められた。

 その上にこれまでの予定通りに追放を許可された十五人の患者も追放許可をもらい受け、この町を出て行く権利を有した。

 津居山と言う存在にはそれだけの権力があった。彼女が墨付きを出せば、追川町長以下誰もノーとは言えなかった。


 コーヒーを飲みまくっているのに枕を高くして眠る事が出来る。

 それが津居山の日常だった。


「院長…」

「わかってるって、それでも結局、あと数日は経たないと無理なんでしょ。とりあえずプランの方は組み上がっているし、この調子でどんどん行くからね」

 それでも病床はまだ患者たちを受け止めるには足らず、入院予約患者は百人を超えてしまった。

 津居山院長考案の新プランは一日でやる分内容は三日分を無理やりに凝縮しているのでどうしても時間はかかり、一人当たり二時間半はかかる。

 津居山一人でやる訳でもないし二人以上同時進行も可能だとしても、一日で処理できるのはせいぜい五十人から六十人と言うのが現実だった。

 無論一日二日プログラムを消化していた患者には短時間でのそれにして時間を節約したが、それでも一日で何とかなったのは七十名が限度だった。


 明日から追加がないとしても、今日予約を取った百人以上が全部来た場合二日で終わるかどうか自信がない。

 だがやらなければそれこそこちらが倒れてしまうと言うのか。


「ねえ、あの連中どこへ行く気なの」

「第一の女性だけの町へと言う意見が多めです」

「あんな汗臭い町にねえ。知っているでしょ、二度もテロ事件が起きたって事。あそこはもう無法地帯よ。暴力が蔓延し犯罪の絶えない町よ」

「行った事があるのですか」

「ないけど」


 津居山と言うこの町が出来た時から過ごして来た女は、行った事さえない場所を声高に語る。

 この町で言われている一般論を、その事がわかっているはずの相手に振りかざし恥じる様子もない。とても楽しそうに話す彼女に諫言すれば、その瞬間悪者扱いだ。



「ねえタイラン、あっちの町でお金持ちになる方法知ってる?」

「何ですか」

「十五年間トイレを磨く事だって。随分と簡単な世界よね。そんなんだからこの前も大量殺人事件が起きちゃうのよ」


 いつから十五年間トイレを磨けば家も建つと言うフレーズが生まれたのかは定かではない。だがその自然発生したフレーズがいつの間にか独り歩きし、第一の女性だけの町における実情を表現するパワーワードのようになっていた。

 女性の不得意である肉体労働ができれば、それだけで成り上がれる。どんなに学問を積もうが関係なく、目先の金ではなく本当の金持ちになるためにわざわざ中卒で働く事を選ぶ女子までいる。中卒でないとしても工業高校や農業高校など高卒で即現場戦力になりそうな所ばかりもてはやされ、真っ当に学問を行うような高校はむしろ定員割れを心配しなくてはいけなくなっている。学のない人間の増大は社会を混乱させ、それゆえに二度もテロ事件が発生した。


「私達がこの町を作らせたのは、あっちの町の限界を見たから。しょせん過去の栄光にしがみついてやり方をアップデートできないのを感じたのよ。

 確かに何にもない所から、女だけの力で町を作ったのはすごいわ。でもそれが間違った自信を与えてしまった。作った自分たちは偉いって。自分が偉くないといけないからその町を守っている存在に自らおんぶにだっこになりに行ってる。完全な自家中毒よね」

「自家中毒……」

「そう。このユートピアを作った存在は素晴らしい。

 だから私たちはその偉業を受け継がねばならない。

 だからやり方を変えられない。

 本当、文字通りの無限ループ。永遠に何にも変わらない。

 その結果があれ。

 いやテロ事件が起きちゃったせいでますますこれまでのやり方に凝り固まり、誰も止められなくなる。今はまだギリギリ踏み止まってるかもしれないけどね、このままだともう選挙で第二次産業サマバンザイをやめようとか言い出すような人間いなくなっちゃうわよ」




 文字通りの得意満面。




 ここ数日の、いやここ数年の鬱屈から解放されたかの様にはしゃぐ姿。


 数年に渡り増え続ける、ブルー・コメット・ゴッド病院の患者と言う名の、ガンギマリ女ども。

 院長と言う名の最高責任者としてそんな存在を相手にするのに疲れ果ててしまった姿。


 元々コーヒーが好きなのは知っていたが、それでも最近は一日二ケタと言う事も珍しくないほどに呑んでいた姿。




 タイランが知っていた彼女は、もはやここにいない。


 


 一見のんべんだらりとしているように見えるがきっちりと患者に向き合い続けて来た優秀な医者の姿は、どこにもない。


 今の彼女はコーヒーに溺れ、ガンギマリ女たちの事を顧みず、オトコの慰み物にさせようとしている。




 だったら、自分が何とかすべきかもしれない。




 —————これまでと、同じように。

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