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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
外伝3 「「姥捨て山」と呼ばれて」
131/182

「脱走者」の証言

これまで通り二日休んで、9月5日からは第四部です!

 さて改めて、五味栗江と言う女性について話そう。


 第二の女性だけの町の出身、仕事はゴミ処理業(現在は清掃業)、副業(現在は趣味)はイラスト。


 そして、かなりくたびれた空気を身にまとっていた。

 まだ二十代のはずなのに、私よりかなり老けている。服も着古しており、一張羅と言うにはあまりにも普段着めいていた。



「二十四時間です」


 そう言われた時には驚いた。



 一日ではない、一週間の睡眠時間だ。



 これを聞いただけで、私は第二の女性だけの町の運命は風前の灯火である事がわかってしまった。

 夜の副業をやっていたからだと彼女は言っていたが、それこそ週休一日でそれ以外そんな事をやっていればこうもなるだろう。私が「女性だけの町」を書き上げていた時だってピーク時でも一日六時間は寝ていた。

 その時には当たるか否かわからなかったにせよ結果的にかなり儲けのいい仕事になった。だが彼女の時給は第一の女性だけの町における最低賃金の六割以下だった。副業代を足してもギリギリ六割であり、とてもまともな待遇ではない。


 彼女は自分をでもしかならぬ「しかのみ」公務員だと自嘲していたが、実際そうなのだろう。

「特に何かやりたい仕事もないから~でもやるか」「特にこれと言った技量もないから~しかできない」と言う蔑称としてでもしかと言う言葉はよく使われるが、この待遇を知っていてはさすがに「~でも」の選択肢にすら入らないだろうし、それこそ「できるのは~()()」と言う扱いになってしまっても不思議ではない。文字通りの底辺職であり、公務員とか言う扱いにされている事自体が意味不明である。もし公務員=公僕=皆の奴隷だからそんな待遇でもいいのだとか言うならそれこそ国家と言うか地方自治体の意味はないし、少なくとも私企業ならばとっくのとうに潰れている。

 この調子だと水道工事や道路整備なども似たような調子なんでしょうかと聞くと、彼女は無言でうなずいた。多くの人間がブラック中のブラックとでも言うべき労働環境にさらされ、次々と倒れる。

 それでも町議会は極めて冷淡で、適当な見舞金を払ってはいさようならだと言う事も珍しくない。当然彼女がそうだったように給与面もまたしかりであり、完全な使い捨てである。




 —————オトコに見えるのかもしれない。




 個人的に抱いた第一感はそれだった。そんな仕事をしていれば否応なしに筋肉は付き、腕力も高まる。実際この町で第二次産業に従事している人間の力こぶはかなりたくましく、生半な男など何人かかってもかないそうにないほどだった。

 そう、男数人かかってもかなわないほどに—————。

 もしこの点が理由となって嫌われていると言うのであれば、どこまでも臆病な上に傲慢であると言わざるを得ない。


 私が知っている五味栗江と言う女性は私よりも細い腕であり、とても誰かを殴り倒せるようには思えない。彼女が言うには同僚や他のしかのみ公務員たちもとても力強い人間はおらず、栄養ドリンクを流し込んで無理矢理体を動かしているような人間しかいないらしい。そんな人間がいったい何が出来ると言うのだろうか。文字通りの社畜であり、公畜である。そんな存在まで恐れて一体何をする気なのか。


「あなた家族は?」 

「母が一人、電波塔で幹部をしています。とっくに絶縁状態ですが」


 スマイルレディーを敬愛していた彼女は小学校を卒業して中学になっても離れられず、同級生からバカにされていた。友人もパートナー候補も見つけられず、学問の成績も上がらない。母からは私はエリートなのにと叱責され、余計にふさぎ込んでしまった。結果それきりまったく勉強もできなかった彼女が就けた職業は、それこそしかのみ公務員でしかなかった。

 そんな彼女が今、第一の女性だけの町でとりあえず幸福に過ごせている事は何よりであり、私も取材費としてそれなりの金銭は渡したつもりだった。その額が彼女の第二の女性だけの町での月収の三分の一だった事には、深く同情を禁じ得なかった。




追記


 第二の女性だけの町にて、道路整備局の職員が町議会議員を絞殺したらしい。

犯行動機は語られていないが、素手で議員の首を絞めてそのまま死に至らしめたと聞くとただただ恐ろしく思える。

 もっともそれ以上に、わずか数日で死刑判決が出され執行されたのもまた恐ろしい。正道党事件などはすぐに判決が出たがこの時は国事犯とでも言うべきそれであった上に証拠もあったのでサッサと進んだだけで、普通の殺人事件ならば最低ひと月ぐらいはかかる。

「犯人は死刑執行の間際まで被害者に対する謝意を一言も口にしなかった」

 らしいが、だからと言って乱暴であると言う感想を抱かざるを得ない。


 第一の女性だけの町では小学生でも犯行の重さによっていきなり牢屋に入れられる事はあるが、死刑は少ない。一人殺しただけでは死刑にならないとかよく言うが、第一の女性だけの町でははっきりとランク付けがされており、刑は単純な殺人>強盗殺人>怨恨殺人の順に重くなる。無論怨恨の中身にもよるが、平たく言えば殺人のための殺人、暴力のための暴力ほど罪は重くなると言う理屈だ。

 道路整備局の職員がなぜ町議会議員を殺したのかについては書かれていないが、おそらく単純な殺人のための殺人でない事は間違いないだろう。


 この件を知った私は、第二の女性だけの町へ取材へ行くのをためらっている。

 先に述べたように、私自身第二の女性だけの町の寿命がそう長くない事を察してしまっている。なればこそ見てみたくはあるが、それ以上にあの町の恐ろしさが勝ってしまう。

 私はジャーナリストではない。ノンフィクション作家ではあるが作家だ。

 作家とは、未知の存在を自分の想像力で紡ぐ生き物ではないか。少しばかり自分のフィルターを通したそれであってもいいじゃないか。


 …………と言う言い訳を並べさせてもらうには今回の取材は十分であるとだけ、言わせてもらいたい。




追記の追記


 私の決断は、正しかった。


 そう言わざるを得ない。




 —————外山と言う五味栗江の仲間であった人間が、自殺した。

 —————「マイ・フレンズ」の華美な装束を憂えて。 




 もうこれだけで、十分だった。


 もし私が自殺したら、そういう事だと思ってもらいたい。


 これが遺言にならない事を願いながら、今度こそ項末とさせてもらう。




                                 谷川ネネ

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