「姥捨て山」
第一の女性だけの町を取材のために訪れて思った事だが、非常に優秀な女性が多い。
真面目であっても堅苦しい訳ではなく、実に折り目正しくそれでいて快活である。私が女のせいか知らないがよそ者にもフレンドリーで、決して他者を差別しようとしない。
「無論裏もあるんだけどね」
アングラ施設の主に言わせればこうなるが、確かにその裏はそれなりに苛烈ではある。
まず、刑務所に入るのは成人女性だけとは限らない。少年院と言うか少女院などなく、大人も子供も同じ刑務所に入る。
しかも場合によっては、未成年でも四文字名(犯罪を犯した人間に与えられるランダムで選ばれた平仮名四文字を組み合わせた名前。重大な犯罪を犯した場合は「さいてい」のように悪い名前が与えられる)を課せられ、中には拘束衣を着せられたケースもある。
何をやったのかと聞いた所、おやつを先に食べられた恨みで被害者を校舎の裏に連れ込んで十発ほど殴った上に服を破いたからだと言う。
我々の世界ならば強引にでも謝らせて賠償金を払ってそれでおしまいのはずなのにだ。
その程度には、この町は物理的暴力に厳しい。
そして、女性的暴力にも厳しい。
「なかまはずれはぜったいダメ!」
「こまってるこにはすぐこえをかけよう!」
「みんなちがってみんないい!」
その三原則を、小学生たちは毎日毎日唱える。
確かに女性はすぐ仲間外れを作りたがるとかよく言われるし、男と違って喧嘩を引きずりやすいとも言われる。統計はないが男は喧嘩しても一日で仲直りできるが女は何年経っても無理だとか言うのは経験則のようになっていた。
だがそれを出せば、すぐさま男に「女だって」と言う攻撃手段を与えてしまう。元々はそういう半ば男への対抗措置であったが、いつの間にか変形してこの町全体の教育方針となったらしい。
しかしそれを貫き通し続ければ、男も女もなく立派な人間が出来上がるしかないのかもしれない。
自他ともに厳しく務め、決して男性的な悪にも女性的な悪にも走らないように誘導する。男性的な悪と女性的な悪を足せば全ての人類の悪になるかはわからないが、少なくとも私たち外の世界の女よりは「いい女」である比率は高いだろう。
ただそんな優秀な人間で居続けるためにはどうしてもそれを保持するためのモチベーションは必要であり、それがおそらくは輸入品である全年齢対象のはずの同人誌から作られるダミーであり、それらを合法的に殴打できるアングラ施設なのだろう。そんな存在がなければこの町はおそらく自壊を起こし、滅亡か少なくとも分裂はしていた。あっても二度大規模テロ事件は起こったが、どちらもその手の存在を廃しようとしていた事からして不必要性を証明するには不十分どころか逆効果だっただろう。
とにかく、第一の女性だけの町に住むのは簡単であり困難である。第二次産業の優れているからと言って転職すると、そこにいるのはその産業の精鋭であると共に町内の優秀な人間の集まりである。どうせ金銭欲に溺れているだろうとか抜かすにはみな立派に仕事に誇りを持っており、それでいて空威張りなどしない。
第一の女性だけの町は現代の「姥捨て山」だ、とか言う罵詈雑言をぶつける人間もいる。曰く、外の世界のほんの少しの風の音にも付いて行けないような脆弱な人間が集まり、と言うか集められて自分たちだけで傷をなめ合って過ごしている—————と言う理屈らしい。
だがそれにしてはその山は元気過ぎる。拡張こそしないが縮小する様子もなく、ただただそびえている。
そう、そびえているだけであり、別に何かをするわけでもない。時々迷い込んで来る人を受け入れたりたまに下界に誰か降りて来たり、めったに出て来ないものの決して没交渉ではない。
そして何よりその山の住民はただただ死を待つだけでなく懸命に生きており、人間の手が下手に加わった飼い慣らされた花よりもきれいかもしれない。そのくせ極めて人間的で理性的であり、あまりにも完成されていると言える。
そして、完成され過ぎているゆえに、現在の人類にはそれ以上の形の町を想像できないし創造もできない。何ならそこで生まれた存在が外に出て害をもたらす事もない。まだ現状ではと言う枕詞付きながら産婦人科で産まれた女性たちが外の世界の男性との間に男児をもうけ、普通に暮らしている。
女性しか産まないようにされているから子供も女性しかできないと言われていたが、とりあえずその点は解決だった。無論孫の代になり隔世遺伝が発揮されてしまう危険性はあるが、現状としては問題は薄い。
そう、問題は薄い。極めて薄いのだ。
それならば現状、第一の女性だけの町がそうせんとしているようにコピー&ペーストが正解ではないのだろうか。
私が第三の女性だけの町について言える事は、現状これが全てである。




