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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十八章 空前絶後、史上最悪の事件
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夜の町

 この町における夜は、安全と安寧の象徴だった。


 単純に夜間の犯罪の刑を重くしているのもあるが、それでも夜の道を歩く彼女の足取りは実に無警戒だった。

 安全第一とばかりに照明はあちこちに取り付けられ、暗闇と言う名の敵に立ち向かおうとしている。実に勇ましい。

 そのためこの照明を作ったり交換したりする人間だけは公務員でもそれなりに人数がおり、しかのみと言う訳ではない。



「ふう……」


 

 そんな夜の町のバーで、酒を煽る派手派手しい服を着た女性。そんな仕事だと言う訳ではなく、客としてじっと酒を楽しんでいる。

 カバンには財布とハンカチとスマホとサインペンだけが入っている。その顔には緊張感の三文字はない。


「最近店売りしてないのよね…」

「そうですね、うちだって仕入れに少し困ってるんですよ。もちろんそれなりには目一杯頑張らせてもらってますけど」

「本当、こんな風に静かに、穏やかにお酒が呑める世界が欲しかった。それだけのはずなんですけどね…………」


 この町の住民の枕詞。会食の時も、酒を呑む時も、仕事を始める時も。小中学校までとは行かないがだいたい高校生以上になるとその言葉が身に付く。無論個人差はあるが、基本的にお偉いさんであればあるだけその数が増えると言う。

「それで…」

「ああはい」

「もちろんお代は頂きますけどね」

 客に向かって、バーテンダーは色紙を差し出す。客もバーテンダーもこれがもし男だったらすぐさま逃げ出すか反撃するかと言う教育を受けて育って来た人間であり、そうなっていない事を喜べる人間だった。


 お代を払い、席を立つ。グラス四杯分のカクテルを飲み干したにもかかわらず彼女の足は全く乱れておらず、目の輝きも失われていない。

 バーテンダーが満足そうに左右田カイコのサイン色紙を棚に置く中、同じ笑顔で店を出た。




 多少道は悪いが、ガードレールは頑丈だしそもそも自動車の量は少ない。緊急車両が通らない限りどうにかなる事もない。

 緊急車両と言っても救急車か消防車であり、パトカーなど仕事以外でほとんど見ていない。それこそ刑事ドラマの産物であり、と言うかそのドラマさえも今は放映されていない。刑事ドラマが放映されるのはだいたい月一であり、言うまでもなく再放送のそのまた再放送だ。十数年前までは左右田カイコを含む女優たちにより刑事ドラマが撮影されていたが受けは悪く、やさいの騎士団様がオンエアされるようになってからは新作は年一単位でしか撮影がない。


「グガー……」


 今日もまた、公園で高いびきを搔いている女がいる。大方正体をなくすほど酔って寝てしまったのだろうが、それもまた彼女にとって気持ちのいい姿だった。

 外の世界でそんな事をすればすぐさま財布を抜かれる。


 いや、それだけならばまだいい。


 彼女が乱雑に着ているスーツなどはぎとられ、たちまちにして一糸まとわぬ姿にされてしまう。

 外の世界のオトコは年齢など関係なく女体を求め、その自尊心をおびやかすように襲う。女性としての尊厳を全て奪い、自分たちが愛でているような無抵抗な存在に加工する。そしてそれはオトコの年齢だけでなく、自分たちの年齢も関係ない。どんなに老いた存在であっても構わず拉致し、自分たちの思うがままにしようとする。


 —————左右田カイコがテレビタレントとして長幼問わず教えまくっているように。


 第一の女性だけの町では高齢追放とか言って六十歳以上になれば外の世界への出入りは自由になっているとか言うが、その年齢になっても痛い目に遭う話が絶えない事から制度廃止に向けて動き出した政党もあった。第一の女性だけの町では廃案になったがこの町では事実上成立していたと言ってよく、外の世界に出るためには追放申請をするしかない。それこそ人生の一大決断と言うレベルであり、戻って来る事は許されていない訳ではないが戻って来た話をカイコは知らない。あるいは外の世界で受けた打撃を生の声で伝えるために一時的に姿を消して戻って来るとか言う都市伝説まであるが、誰も真偽はわからない。


 ここ最近どうもイライラする事が多くなり薬の量も増えているが、それでも気持ち悪くはならない。二十年近く悩まされているそれであり、一病息災とか言う言葉を信じたくなって来る。体温が上がろうが痛みを感じようが、薬を飲みその上で仕事に臨む。そうしていればその内痛みは消え、調子も良くなる。

 そしてまた酒を呑み、市井の高いびきを聞く。


 これ以上の楽しみなど、この町にはなかった。

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