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女性だけの町BLACK  作者: ウィザード・T
第十七章 物資不足
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ドライバー不足

「ドライバーは」

「寝てます」

「早く起こしなさい!」


 ここ七十二時間の内睡眠時間が六時間の人間に対し、ずいぶんと無茶苦茶な事を言い出す。



 他ならぬ、追川恵美がだ。



 そんな恵美自身も平均二時間とまでは行かないにせよこの一週間で三十時間しか寝ていないのだから、説得力はある。

 追川恵美自身六十五とは思えないほどの行動力の持ち主であり、他の議員たちも還暦前後にも関わらずとてもエネルギッシュに動いている。寝る暇があるならば一刻でも早く室村社に行動を改めさせようとするその行動力は、この町の誰よりも勝っていた。




 川島はそんな町長を選んだ自分に舌打ちしながら、トラックに乗った。




 上の人間は金ばっかりもらって楽をしてサボっている、とか言えればどんなにいいか。

 毎日四時間睡眠とかはピーク時のそれだとしても、それこそいつ休む時があるのかと言わんばかりに動静を開けっ広げにしている。それこそ町長に付き合う議員や職員さえも潰れてしまうのではないかと思うほどに活動的であり、それにしてはそういう人間が倒れているとか言う話が出て来ない。


「まったく……」


 今日もまた、町中を回らねばならない。カーナビのアップデートは一応済んでいるが、それでも走らねばならない距離を思うと頭が痛くなる。今日も朝飯からコンビニ弁当、昼間はファミレスとか言う洒落た所には入れずこれまたこの町ではむしろ希少なラーメン屋、夜はようやく本部に戻ってそこでフライパンを自ら振りながら野菜炒めを作り米飯と冷凍の揚げ物と共に流し込む。酒などもうひと月は呑んでいない。


 本当ならば東地区の担当だったのに、いつの間にか北地区も回る事になり、気が付くと町中を回る事になってしまっている。当然トラックもかなり消耗しているがなかなか変えられる事もない。言うまでもなく、後任のドライバーなど来ない。

 

 そして、今日はまた何時間何分路上駐車しなければいけないのだろうかと思うと後ろめたくてたまらなくなる。

 何せこのトラック、目抜き通りを通れない事が多々ある。排ガス規制とか言う問題ではない。

「ああ、またヒビが見える……」

 目抜き通りでさえも状態の悪い道路が多く、トラックのような重量物が走れば崩壊しかねないそれが多数ある。橋に至ってはかなりの数がありそれらを避けたり、ひどい場合はその手前に路上駐車して荷物を持って渡さねばならない。言うまでもなく路上駐車かよくてコインパーキングであり、そのための資金的・その他のデメリットを思うと実に辛い。

 議員の皆様に道路整備をお願いしますと頼んだ事もあるが、二の次三の次どころか、七の次八の次と言うレベルで反応がない。各地区いて五、六名の道路整備担当職員が自分なりのハイペースで動き、破損箇所を直している。

 そう、五、六人だ。

 東西南北合わせても二十人程度であり、整備できるスピードなどたかが知れている。そして一向に増える気配もない。



 さらに言えば、西区の事件だ。

 西区では少し前に道路整備担当の二人が亡くなり、残った職員の元中がついこの前仕事場で倒れ死亡。さらに真女性党の岸議員を絞殺した事により係長だった刈谷が逮捕され死刑執行されるなどめちゃくちゃな状態であり、現在は佐藤と高遠に甲斐とか言う外の世界から来た女でかろうじて回しているに過ぎない。応援を寄越すような人材など、どこにも余っていないし、増える事もない。職業に貴賎なしとか言うが、この町には確実に貴賎の差がある。


 実際、川島はトラックドライバーになりたいと言った時母親たちからかなり反対もされた。高校に入ってほとんどその方向以外の勉強も何もしない自分に呆れと言うか負けを認めたのかこの道に進む事を認めてくれはしたが、未だに薄給の上に子どももいない(パートナーはいる)自分の事をよく思っていないだろう事は知っている。

 ただでさえ忙しいのに給料袋は薄く、しかも下手に体力勝負の仕事のせいで同性が寄り付きにくい。そんな仕事に就きたい人間など少数なのは当然であり、数は常に不足している。

 資格がある人間など知れているかもしれないが、それでも電波塔などではなくこちらにも回して欲しい。もちろん、道路整備にも。

「刈谷も……全くなんて事を……」

 言わんとする事はわからないでもないが、そのせいで単純に道路整備をする人間が減ったしそれ以上にイメージがさらに悪化した。殺人犯と言うだけでも最悪なのに、よりにもよって自分の片腕で掴んで絞殺すなどとても人間業ではない。トラックドライバーとか言う職業の成り手が少ないのもその手の人間たちと同じ乱暴な連中だと思われているせいかと思うと腹も立つ。


 そうでも思わないと、やっていられない。

 栄養ドリンクを飲み干す川島の顔は、六十五歳の追川恵美よりも老けていた。

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