第099話 愛情……そう、それは愛情!
俺達は屋敷を出て、歩いて港までやってきた。
港に着くと、大きな軍船の前で整列している兵士達が見えてくる。
兵士は皆、帯剣しているものの鎧は着ていない。
海軍は沈みそうな重い重装備は身に着けないのだ。
叔母上はそんな兵士達のもとに行くと、整列している兵士達の前に立つ。
「準備は?」
「はっ! 整っております!」
叔母上が聞くと、1人の兵士が前に出て、告げた。
「うん。では、例の島に出発するが、その前に紹介しておく。今回の調査には私の甥っ子夫婦も参加する」
叔母上はそう言うと、俺達をチラッと見る。
すると、前に出てきた兵士も後ろで整列している兵士も俺達を見てきた。
「甥っ子……ですか?」
「不満か、ブランドン?」
前に出てきた兵士はブランドンというらしい。
「恐れながらこの度の調査は国家に関わることです。他国の者を参加させるのはいかがなものでしょう?」
「陛下には手紙を送っているし、許可も得られるだろう。問題ない」
ありありー。
「しかし…………」
「お前が気にすることではない。何かあった時に責任を取るのは私だ。それとも私の決定に不満でもあるのか?」
「いえ! そのようなことはありません!」
「ならば結構! 出港する! ただちに持ち場につけ!」
叔母は有無を言わさないような感じで命令した。
「はっ!」
ブランドンが返事をすると、後ろで整列している兵士達が一斉に船に乗り込み始めた。
すると、ブランドンが俺達のところにやってくる。
「この度は我々の仕事に協力していただき感謝します。私は今回の任務の副官を務めますブランドンです。よろしくお願いいたします」
ブランドンはそう言って手を伸ばし、握手を求めてきた。
「ロイド・ロンズデールだ。よろしく頼む」
俺はまあ、握手くらいはいいかと思い、手を握る。
すると、ブランドンから魔力を感じた。
これは魔力を感知する魔法だな……
俺が魔術師かどうかの確認をしてきたか。
ブランドンは俺から手を離すと、次にリーシャとマリアを見て、一歩前に踏み出そうとする。
「言っておくが、人の妻に触れることは許されんぞ」
俺がそう言うと、ブランドンの動きが止まった。
「本当にエーデルタルトは厳しいんですね…………アシュリー様でわかっていたつもりなんですが、どうしても挨拶をと思ってしまいます」
挨拶ねー……
「挨拶なら先程、俺が聞いた。後ろの2人も聞いている。それで終わりだ」
別に挨拶をするのはいいんだが、手を握るのはダメ。
「そうですか…………これから、島に向かいます。船長、御三方の部屋はどうしましょうか?」
「私の部屋でいい」
叔母上と同室かー……
「良いのですか?」
「甥っ子だ。昔はこいつを風呂に入れたことも…………あれ? イアンの方だったか?」
叔母上が聞いてくるが、知らんわ。
「覚えてねーよ」
いつの話だよ、それ……
「うーん……どっちも生意気な顔をしてたからなー…………まあいいか。お前ら、ついてこい」
叔母上はそう言って、船に乗り込み始めた。
「生意気な顔なんかしてなかったっての……な?」
俺は昔から知ってるリーシャに確認してみる。
「そうね」
リーシャがニコッと笑った。
あれ? 嘘くさい……
そんなに生意気な顔をしてたかな……?
俺はどうだったかなーと思い出しながら叔母上についていき、船に乗り込んだ。
船に乗り込むと、叔母上が階段を降り、とある船室に入ったため、俺達も船室に入る。
すると、そこは船の中とは思えない豪華で広い部屋だった。
「やっぱり豪華客船じゃん」
「たいしたものじゃない。お前らはそっちのベッドな」
叔母上はそう言って、2つあるうちの1つのベッドを指差す。
もちろん、3人で寝れるサイズのベッドだ。
「叔母上の屋敷の客室と遜色ないですよ」
同じくらいの広さだし、テーブルや鏡台なんかもある。
「さすがに美術品なんかはないがな。まあ、お前は興味がないだろうし、別にいいだろ。一応、そこが風呂だが、水は貴重だから自分で出せ」
叔母上が部屋の端にある扉を指差す。
「風呂まであるのか……」
「さすがにその風呂は屋敷のような広さはないぞ。まあ、浴槽はあるから適当に湯でも張れ」
地味に水をお湯に変えるのって難しいんだよな……
ああ、そうか……自分がやりたくないから俺にやれって言ってんのか。
「わかりました」
「頼むぞー」
やっぱりね。
「はいはい」
「それとお前らは極力、ここから出るな。兵士達もどう対応していいかわからんだろうし」
「でしょうね。まあ、ここでゆっくりしてますよ」
マリアは微妙に男性恐怖症だし、リーシャは目の毒だ。
「そうしてくれ。じゃあ、私は最後のチェックをしてくる。すぐに出港だろうから適当に遊んでろ」
叔母上はそう言うと、部屋を出ていった。
「こういう船を奪えばよかったわね」
リーシャがそう言いながらベッドに寝転ぶ。
「どっちみち、食料がなかったから地獄なのは変わらんかったと思うぞ」
というか、こんな大きな船を盗めばさすがにバレてしまう。
「寝てもいい? 起こされたから眠いわ」
「おやすみ」
「うん」
リーシャは返事をすると、そのまま動かなくなった。
どうやらもう寝たらしい。
「早っ! もはや特技ですよ」
「ホントな」
俺はやれやれと思いながらテーブルまで行き、座る。
「殿下ー、紅茶セットがありますけど、飲まれますー?」
「頼むわ」
「はーい」
俺がお願いすると、マリアは嬉しそうにお茶を用意しだす。
「なあ、お前らって、なんでそんなにお茶を淹れるのが好きなんだ?」
リーシャはたまにしか淹れてくれないが、令嬢は本当にお茶を淹れるのが好きだ。
あの叔母上でも得意って自慢げだったし。
「上手にお茶を淹れて初めて一人前の奥さんになれるんですよー」
「わからん」
「殿方の剣を上手に使えて初めて一人前の男、の方がわかりませんよ」
嫌味かな?
剣を使うどころか、リーシャに奪われているんですけど……
「あとさ、お前ら、お茶に何か入れてる?」
「入れませんよー。ふふっ、何を言っているんですかー………………旦那様は黙って飲んでりゃいいんですよ」
深く聞くのはやめておこう。
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