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第097話 目の前にいるのに文を渡す意味がわからない


 俺は従弟妹のクリフとヘレナに魔法を教えることにした。

 といっても、教えるのは魔力の操作方法と先程やって見せた物を浮かせる程度の魔法だ。


 こんな子供に攻撃魔法を教えて、事故があったら危険だし、子供のうちに強い魔法を覚えると、国一番の魔術師を名乗ったり、魔導船に自分の名前を付けたりと増長することもある。


 ……俺と叔母上のことだね。


 俺がクリフとヘレナに魔力を操作する方法を教えると、2人はすぐに魔力を操作できるようになった。

 2人の資質が良いのか、俺の教え方が良かったのかはわからないが、これができたら後は簡単である。

 実際、2人は軽くて小さい物だけだが、少しだけなら浮かせることができるようになった。


 この日はここで解散となり、2人には今後もそれを続けるように伝えて、自室に戻らせた。

 帰る時にはクリフもヘレナも最初に会った時の緊張や警戒が完全になくなっており、尊敬する目で俺を見ていた。


 俺は2人を帰らせると、ご機嫌な気分でリーシャとマリアとワインを飲み、就寝した。


 翌日は休みだったため、部屋で本を読んだり、お茶を飲んだりしながら身体を休めた。

 昼食はヘレナと食べ、夕食は戻ってきた叔母上達を含めた6人で食べた。

 そして、夕食後にクリフとヘレナが訪ねてきたので、魔法を教えながらエーデルタルトのことや叔母上の昔話を話してやった。

 2人は興味津々で聞いていて、楽しそうだった。


 俺自身も話をしていて、2人のリアクションが良かったため、気分よく話をできた。

 この日は休日だったが、心身共に休めた良い休日だった。


 そして、翌日。

 この日は叔母上と共に怪盗スカルの隠れ家があるという無人島に調査に向かう日である。


 俺は目を覚ますと、まったく起きなさそうなリーシャを見た後、反対側で寝ているマリアを見る。


「うーん……地面がぁ……迫ってくる……」


 マリアはまた墜落する夢を見ているらしい。

 俺はそのままじーっとマリアを見ていると、マリアの目が開いた。


「墜落したか?」


 一応、聞いてみる。


「…………殿下ぁー」


 マリアが俺の胸に抱きついてきた。


「よしよし……もう二度と飛空艇には乗らないからな」


 今日は安らかな夢だった気がするが、俺もたまにそういう夢を見るし。


「良い夢を見る魔法を作ってください……」


 どうやって?

 夢って何だ?


「リラックスするといいかもしれんな……もしくは、逆に精神が高揚しているといいかもしれん」


 テンションが高い時に悪い夢は見ないだろう。


「なんかヤバい薬みたいなんでいいです……」


 確かに……


「ハァ……起きよう」


 俺は上半身を起こした。


「そうですね。リーシャ様は…………起きる気配がゼロ」


 マリアも上半身を起こすと、いまだに寝ているリーシャを呆れた目で見る。


「こいつは絶対に悪夢を見たことがないんだろうな」

「鋼の精神を持つ冷酷の下水令嬢ですからねー…………リーシャ様、起きてください。朝ですよ」


 マリアはリーシャのもとに行くと、リーシャの身体を揺らす。


「眠い……昨日、ロイドが寝かしてくれなかったから」

「嘘をつくな。ベッドに入ったら即行で寝てただろ」


 おやすみ……すやぁ……だったじゃん。


「起きたくなーい……」


 リーシャが布団を被った。


「毎朝、これだもんなー……こいつの家のメイドが可哀想だわ」

「あなたのところのメイドよりかはマシよ」


 リーシャが布団から顔を出し、ジト目で見てくる。


「なんでだよ。俺は王宮や学校の寮では品行方正だったぞ」

「抜け出しの常習犯でしょうが」

「お前を訪ねてやったんだよ」


 夜にこっそり会う感じ。

 それこそ恋愛ものにありそうだろう。


「嘘を言いなさい。私のところに来る以上に町をふらついてただけでしょ」


 7対3かな……?

 リーシャが3。


「あのー、生々しいんで隠れた情事の話はやめてもらえます?」


 マリアがちょっと嫌な顔をする。


「あなたもそのうちロイドと爛れた関係になるわよ」

「変な言葉を使わないでください! 淫乱女!」

「ふっ……」


 非処女が処女を笑った。


「朝っぱらからしょうもないケンカをするな。リーシャも起きたし、準備をするぞ。お宝探しの冒険だぞ」

「そういえばそうね。絶世のリーシャ様の冒険記を書かないといけないし」


 こいつ、なんかしょうもないものを書く気だ……


「俺の冒険記をパクるなよ」

「あなたは文章力が皆無だから無理よ。というか、私への恋文は?」


 藪蛇だった……

 いや、巧妙な罠か。


「書くから……ちょっと待ってろ。俺のお前に対する想いを文章に起こすにはちょっと添削がいるんだよ。じゃなきゃ、それこそ本になってしまう」


 本当は1行で終わる。

 必要なのは添削ではなく、1行で終わる文章を膨らませる作業だ。


「ふーん…………まあ、頑張りなさい。私は別にいらないけどね」


 リーシャはそう言うと、布団を被った。

 重くてめんどくさいエーデルタルトの女の良いところはこのように非常にチョロいところだ。

 まあ、自分で自分の首を絞めている気もするけどな。


「いや、リーシャ様、照れてないで起きてくださいよー」


 マリアは再び、布団を被ったリーシャを揺らす。

 なお、マリアはリーシャを揺らしながらチラチラと俺を見ていた。


 どうやら、1行で終わる文章を膨らませる作業を2回しないといけないらしい。


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よろしくお願いいたします。

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[一言] 重チョロいん?!面倒くさいのか単純なのか……
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