第095話 敗、北、感!
紹介を終えた俺達は夕食を食べることにした。
夕食はパン、肉、サラダ、スープというオーソドックスなものだが、さすがに貴族の家が出すものなので質が良い。
「まあまあだなー」
「そうね。こんなものでしょう」
「…………その芸、いつまでやる気です?」
芸じゃない。
「味付けがいいな」
「香りも良いわよね」
「普通にすべて一級品だと思いますよ」
まあ、結論としては美味いな。
「ウチはオリーブが採れるからな。肉を焼くのにもドレッシングにも使える」
「へー……確かに一味違いますね」
オリーブで儲けているって言ってたけど、確かにこれは売れるわ。
「買っていく?」
リーシャが聞いてくる。
「買っても誰も調理できんだろ」
油を舐めるんか?
「それもそうね。ドレッシングくらいは買えるかな?」
「ここを出る前に町の店を見てみよう。テールとは違う意味で滅多に来られるところではないしな」
「そうしましょう」
ここはそんなに栄えた町ではないから女の買い物に付き合うのも楽だろう。
…………多分。
「気に入ってもらえたのなら良かった。明日は休むんだったな?」
「ですね。ゴロゴロします。正直、まだ揺れている錯覚がするんですよ」
実際に揺れているわけではないが、何故か揺れるように感じる。
「まあ、休め。私は仕事で家を空けるが、何かあったらメイドに言え」
「そうします」
俺は頷くと、ワインを一口飲み、食事を再開する。
食事中、従弟妹の2人にエーデルタルトのことを話したり、逆にギリスのことを聞きながら交流し、食事を終えた。
◆◇◆
食事を終えた俺達は再度、風呂に入ると、部屋に戻り、一休みすることにした。
俺はベッドに腰かけ、リーシャとマリアはテーブルについて、まったりとしている。
俺もリーシャもマリアもすでに寝間着に着替えており、さすがのリーシャもここではバスタオル一枚の半裸ではなかった。
「良い子達だったじゃないの」
「そうですねー。2人とも素直でかわいかったです」
まあ、確かにかわいかったし、微笑ましかった。
「叔母上の子とは思えん」
「顔立ちは似てましたよ。それに次期当主ですからちゃんと育てているのでしょう」
大変だねー。
あと、地味に気になっているのはヘレナの方がどう育つかだ。
エーデルタルトの風習を学ばないといいけど……
「まあ、2人とも立派な貴族に育ってほしいな…………ん?」
俺達が話していると、ノックの音が響いた。
「誰だ?」
俺は不機嫌を隠さずにノックの音が聞こえた扉に向かって聞く。
「すみません、クリフです」
クリフ?
うーん、正直、これは失礼を通り越してありえないことなんだがなー……
まあ、子供にはわからんわな。
食事を終え、後は寝るだけの客人夫婦の寝室を訪ねてはいけないのだ。
もっと言えば、客室に近づいてさえもいけない。
だって、ね?
「いいか?」
俺はリーシャとマリアに確認する。
「うーん…………まあ、6歳の子供だしね」
「私も構いません。何か話があるんでしょうし、せっかくの機会ですからね」
2人はそう言うと、ワインを持って、ベッドの方に移動した。
「入っていいぞ」
俺は2人がテーブルから離れたので入室を許可することにした。
すると、ゆっくりと扉が開かれ、クリフがそーっと覗いてくる。
「どうした?」
「あ、あの、マズかったでしょうか?」
マズいが、そういうことをしていたわけではないので問題はない。
「いや、何かあったのかと心配になっただけだ」
こういうのは今ここで教えることでもない。
というか、もしかしたらこれがマナー違反なのはエーデルタルトだけかもしれないし。
「遅くにすみません」
「大丈夫だ。何か用か?」
「あのー、ちょっとお話をいいですか?」
話?
さっきすればいいのに……
いや、叔母上に聞かせられない話か。
「いいぞ。まあ、座れ」
「はい。ありがとうございます」
クリフはおずおずと部屋に入ってくる。
そして、チラッとベッドにいるリーシャとマリアを見ると、申し訳なさそうにテーブルまでやってきて、椅子に座った。
「そんなに固くなるな」
「すみません。お邪魔でしたでしょうか?」
クリフは再び、チラッとリーシャとマリアを見る。
意味をわかって言ってる?
いや、そんな感じでもないな。
「話をしていただけだ。話なんかいつでもできるし、問題ない。それよりも滅多に会うことのないお前の話を聞きたい」
めっちゃ優しいな、俺。
自画自賛。
「そ、そうですか……」
クリフはあからさまにホッとした表情をしている。
「しかし、明日じゃダメだったのか?」
「明日は母と共に町を回るんです。ロイドさん達は明後日に母と共に出ると聞いていますし、その前に話をしたくて」
まだ6歳だっていうのに仕事か?
大変だねー。
「お勤めご苦労様。話って何だ? エーデルタルトのことでも聞きたいのか?」
「いえ、魔法のことを聞きたいんです」
魔法?
「なんだそんなことか…………俺はてっきり領主になりたくないとかそういう類かと思っていた」
よくあることだ。
だって、子供は遊びたいし、つまらない仕事なんかしたくないものだし。
「領主にはなりたいと思っています。亡き父のように立派な男になりたいんです」
まぶしー!
魔術に傾倒して、ロクに学んでこなかった俺にはこの6歳がまぶしすぎる。
「そ、そうか……それでこそ男子だ!」
「はい!」
うわー……
リーシャとマリアの方を見れねー……
あいつら、絶対にニヤニヤしてると思う。
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