第094話 ちゃんとしている子だなー
俺が部屋でワインを飲んでいると、風呂から上がったリーシャとマリアが戻ってきた。
「良いお風呂だったわ。さすがはアシュリー様の屋敷ね」
リーシャがホクホク顔で言う。
「そんなに良かったのか?」
「リリスやアムールの宿屋も悪くはなかったけど、貴族は違うわ」
まあ、伯爵だしなー。
「お風呂はアシュリー様が嫁いだ際に作り替えたらしいですよ」
マリアもホクホク顔でそう言うと、席につき、2つのグラスにワインをそそぐ。
「トラヴィス殿が王族を迎えるために頑張ったのかね?」
「そうじゃないですか? 良いことだと思います」
トラヴィス殿は頑張っていたんだろうなー。
それで叔母上の反対を押し切り、宝剣を取り戻そうとしたんだ。
「まあいいや。俺も入ってくる」
俺はそう言うと、グラスに入ったワインを飲み干し、立ち上がった。
「はーい。いってらっしゃーい…………リーシャ様、飲みましょうよー」
「そうね」
リーシャはテーブルにつくと、マリアが入れたワインを手に取る。
「きれいなお風呂に」
「ふかふかベッドに」
「「乾杯」」
俺は2人がワインを飲み始めたのを見ると、部屋を出る。
すると、扉のすぐそばにメイドが控えていた。
「風呂だ」
「かしこまりました。こちらになります」
俺はメイドに案内され、風呂場まで行くと風呂に入り、身体を癒す。
風呂場はリーシャとマリアが言うようにきれいで広く、かつての王宮暮らしを思い出させるものだった。
俺はそこまで風呂の質に思うことはないが、リーシャとマリアは嬉しいだろう。
「さて、怪盗の根城の無人島探索か……」
本当に物語にある冒険のようである。
しかし、気になるのは叔母上があんなに自分が行くと言い張っている点だ。
自分の手で夫の遺体を回収したいという気持ちはわからないでもない。
だが、そこまでのことか?
部下に任せればいいだろう。
他に理由があるって言っていたが、多分、そちらが本当の理由だろうな……
俺は風呂に入りながら考え事をしていたが、のぼせそうになったので風呂から上がることにする。
風呂から上がり、部屋に戻ると、リーシャとマリアがテーブルでワインを飲んでいた。
「おかえり」
リーシャがわざわざ足を組みなおし、髪を手で払いながらかっこつける。
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂はどうでした?」
マリアが聞いてくる。
「確かにきれいで広かったな。それに疲れが取れた気がするわ」
「ですよねー。あ、殿下も飲みます?」
「そうだな…………夕食まで時間があるし、ゆっくりしよう」
「はーい」
俺達は夕食までワインを飲みながら話をし、時間を潰すことにした。
◆◇◆
リーシャとマリアの3人で話をしていると、窓の外が次第に夕焼けの赤い色になり、暗くなり始めた。
すると、部屋にノックの音が響く。
「ロイド様、奥様方。御夕食の準備が整いました」
扉越しにさっきのメイドの声が聞こえてきた。
「すぐに行く」
俺は扉の向こうに答え、立ち上がると、リーシャとマリアも立ち上がる。
そして、部屋を出ると、メイドが控えていた。
「こちらになります」
メイドはそう言って、案内をするために歩き出したので俺達も続く。
「叔母上や子供達は?」
「すでに食堂でお待ちです。奥様は貴族の礼は不要だから親戚として接してほしいとのお言葉です」
まだ子供2人が貴族の礼を練習中ってところか。
「わかった。俺も他国に来てまで子供の礼儀作法に目くじらを立てる気はない」
「他人のことを言えないしね」
リーシャが笑う。
「まあな」
弟のイアンもだったが、俺が6歳の時なんかは礼儀作法がロクに出来なかった。
なお、リーシャは出来ていた。
今も昔も人前だけだったけど。
「私の妹は13歳ですが、いまだに出来ておりませんよ」
マリアも笑った。
「それはそれでどうなんだ?」
さすがに13歳なら覚えとけよ。
「田舎はそんなに厳しくないですから。私は王都の貴族学校に通うために必死に覚えましたけど」
まあ、マリアは礼儀作法がちゃんとしているな。
もちろん、俺やリーシャなんかの友人相手には砕けるが、それは誰しもがそうだ。
「まあ、温かい目で見てやろう。リーシャ、嫌味っぽく間違いを指摘するなよ」
「しないわよ。するわけないじゃない」
リーシャがちょっとムッとする。
「俺もそう思うんだが、完全には否定できない俺がいる。な?」
俺はマリアに振った。
「……………………あそこが食堂でしょうか?」
マリアは俺のフリを完全に無視し、メイドに聞く。
「そうですね」
「……………………」
リーシャがマリアをじーっと見ているが、マリアはガン無視し続けた。
「こちらです…………奥様、ロイド様と奥様方をお連れしました」
「おー、入ってもらえー」
部屋の中から叔母上の砕けた感じの声が聞こえる。
すると、メイドが扉を開けた。
俺達が部屋の中に入ると、食事が置かれた長いテーブルに叔母上、男の子、女の子が並んで座っていた。
「どうもー。叔母上、お風呂とワインをありがとうございました。1週間ぶりに贅沢をさせていただきましたよ」
俺は叔母上にお礼を言いながら叔母上達の対面に回る。
「そりゃ良かったな。まあ、座れ。私の子を紹介する…………って、その2人はどうした?」
叔母上はマリアをガン見するリーシャとそんなリーシャをガン無視するマリアを呆れたような表情で見る。
「1号さんと2号さんの確執です。お気になさらずに」
「そうか……よーわからんが、仲良くやれよー」
「はいはい」
俺は叔母上に適当に返事をすると、叔母上の対面に座った。
その隣にリーシャ、マリアが並んで座る。
さすがにリーシャも席につくと、マリアを見るのやめた。
「ロイド、リーシャ、マリア、この子が私の子のクリフだ」
叔母上が男の子を紹介すると、男の子が立ち上がった。
「クリフ・パーカーです。遠方から遥々ようこそおいでくださいました」
男の子はそう言いながら軽く頭を下げる。
…………ちゃんとしてんじゃんか。
同じくらいの歳でリーシャの親父に『誰、お前ー?』って言った俺が恥ずかしい。
「ロイド・ロンズデールだ。歓迎に感謝する。知っての通り、他国とはいえ、従兄弟同士だ。過度な礼は不要である。短い間だが、よろしく頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
次期当主がへりくだりすぎるのは良くないが、親戚かつ、俺の方が圧倒的に歳も上だからこのくらいは許容範囲だ。
十分にちゃんとしている子だろう。
「うん、そんでもってこっちの子がヘレナだ」
叔母上が今度は女の子を紹介すると、女の子がキョロキョロしながらも立ち上がった。
「ヘレナです……よろしくお願いします」
女の子が不安そうな表情で頭を下げた。
かなり拙いが、4歳だからしゃーない。
俺が4歳の時なんか…………いや、覚えてすらないわ。
「はい、よろしくなー……叔母上、ちゃんとした子達ではないですか」
「お前とイアンはひどかったからな」
叔母上がそう言うと、リーシャがうんうんと頷いた。
「普通ですよ」
「そうか? クリフ、ヘレナ。私の甥でお前達の従兄姉にあたるロイドだ。あと、その嫁2人」
まだ嫁ではないんだが、訂正するとややこしくなるからなー。
「リーシャです。お会いできて光栄です」
「マリアです。このような歓迎に感謝します」
リーシャとマリアは立ち上がりはしないものの、軽く頭を下げ、挨拶をする。
「うん、もう紹介はいいな。飯が冷える前に食べよう」
「ぜひ、そうしましょう。この1週間、携帯食料ばっかりだったんですよ」
「知ってる。さっさと食え」
「あ、ワインくれ」
食事は肉料理であり、ワインと合いそうなのだ。
「ようやくわがままらしさが戻ってきたか?」
いや、子供達が礼儀を気にしないようにダメな奴を演じているだけ。
ホントにホント。
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