第092話 ちげーよ!
俺達がベッドで休んでいると、ノックもなく、扉がバンという音と共に開かれた。
「待たせたな」
部屋に入ってきたのはお茶セットを持った叔母上だった。
「ノックをしろよ」
「別にいいだろ。お前らがおっぱじめてても私のせいじゃない」
いや、しねーわ。
「こっち来い。お茶を淹れてやる」
叔母上はお茶セットをテーブルに置くと、手招きをしてくる。
「叔母上のお茶を飲むのも久しぶりですねー」
俺はそう言いながらベッドから腰を上げると、テーブルに向かう。
「そりゃそうだろ…………まあ、私はお茶を淹れるのが得意なんだ。亡き夫も喜んでくれていた」
エーデルタルトではお茶を淹れるのは妻の仕事であり、貴族令嬢の嗜みでもある。
なお、男連中は影で絶対に何かを入れてるだろって愚痴ってもいる。
「ガキ共はどうでした?」
俺はテーブルにつきながら聞く。
「普通。従兄のお兄ちゃんが来たって説明したし、賢い子達だから問題ない」
「ふーん……そいつらは叔母上がエーデルタルトの王族っていうことは知ってるんです?」
「知ってるかなー? というか、理解しているかが怪しい。まだ子供だし」
それもそうか。
「余計なことは言わない方が良いです?」
「普通でいいぞ。特に隠してもいないし、年齢を重ねればわかることだ」
「じゃあ、そうします」
「うん。夕食時に紹介する。その前に手伝いの説明をしよう」
叔母上はお茶を淹れ終えると、俺達の前にカップを置きながら本題に入る。
「どうも……それで島の調査でしたっけ?」
「そうだな。ここから船で1日、2日行った先にある無人島だ」
「無人島? そんなところの調査なんかいります?」
開拓でもするんだろうか?
「うーん、私もよそ者だから詳しくないんだが、20年くらい前、この国に怪盗が現れたらしんだ」
「怪盗? 小説かなんかですか?」
「似たようなもんだな。骸骨のお面を被った怪盗で貴族なんかの屋敷に潜入し、お宝や財宝を盗んで回ったらしい」
とんでもない奴だな。
そんな奴は問答無用で死刑だ。
「捕まったんです?」
「いや、とある盗みを最後に姿が消えたらしい」
「ホント、物語の中の怪盗みたいですね」
「私もこの話を聞いた時に同じことを思った。最近だと、そういうお芝居や小説も書かれているらしい。義賊スカルっていうやつだ」
スカル?
ああ……骸骨のお面を被っていたからか。
「よくそんなもんを許しましたね」
貴族が被害者なら絶対に止めると思うが……
「エーデルタルトなら絶対に許されないだろうが、この国は緩いんだよ。あと、内容がかなり改変されて、喜劇として描かれているから特に問題にはなっていないな」
ふーん……
まあ、ジャックもエーデルタルトは古い国って言ってたしな。
「それでそのスカルとやらがどうしたんです?」
「最後の盗みっていうのが王家からなんだよ」
「ここの王家はバカですか? 王宮に賊が入るなんてありえませんよ」
盗み云々ではない。
賊が入ったということだけでありえない。
もし、暗殺者だったらシャレにならないからだ。
「うん、そうだな。私も程度の低い王家だなって思った。さすがに言わなかったけどな」
でも、顔には出してそう。
この人は腹芸ができないし。
「何を盗まれたんですか?」
「なんちゃらって宝剣だな。これが非常にマズくて、その宝剣は王が持つ剣であり、戴冠式でも使われるやつらしい」
「えーっと、それって俺の……っていうか、リーシャが持っている王家の剣とかじゃなくて、王の証明とかのやつでは?」
俺はチラッとリーシャの剣を見る。
「そうだな……なんでリーシャがお前の剣を持っているかは知らんが、そういう剣ではなく、玉璽とかそういうのだ。今の王はレプリカで戴冠式をしたらしい」
うーん、それ、俺達が聞いたらマズい類の話だな。
まあ、こんな遠方の国なんかどうでもいいけど。
「大スキャンダルで大事件ですねー」
「そうだな……まあ、それが20年前だ。その後、スカルは消え、王家も捜索をしていたが、見つかることはなかった」
「もう他国でしょうよ」
さすがにギリス国内では売れんが、他国なら普通に売れる。
ウチの国にないかな?
エーデルタルトは剣を好む貴族は多いし、もしかしたら誰かが買ったかもしれない。
「それがそうでもないんだ。実は去年、スカルの隠れ家が見つかったんだ」
「へー……20年も見つからなかったのにようやく見つかったのか」
「そうそう。実はウチの隣の領地のアホがラスコと内通してたんだけど、それが露見して処刑になったんだ」
「最低だな。処刑で当然」
裏切者は死しかない。
「うん。それでそこの領地は御家取り潰しになって、ウチの領地になったわけだ」
「領地が増えて良かったですね」
「まあな。とはいえ、その領地が正式にウチの物になるのはクリフ……私の息子な。その子が正式に継いでからだ。それまで王都から来た代官が治めている」
まあ、そんなところだろうな。
俺が王でもそうする。
「話の流れ的にその領地にスカルの隠れ家があったんですか?」
「そういうことだな。御家取り潰しの際にウチの領地の兵も貸し、王家と共に徹底的に調査したらスカルの隠れ家が見つかった。正確に言うと、隠れ家があると書かれている島の地図だな」
あー、それが調査する島ね。
「なるほどねー。スカルはそこの家の者だったってこと?」
「らしいな。どうやら20年前に王家と揉めたらしくて、その時からラスコと繋がっていたらしい。そういう内通の手紙がわんさか出てきたって聞いている」
何があったかは知らんが、よほど恨まれてたのかねー?
「そりゃ、島を調査するわけだな。宝剣があるかもしれない」
「そうだ。私的にはとっくの昔にラスコだろって思ったんだが、宝剣がラスコに渡ったら向こうはそれを外交の道具に使うだろうし、ここ20年でそういった接触もないからその島に宝剣があるんじゃないかというのがウチの旦那の見解だった」
なるほどー……確かに。
うーん、しかし、そのスカルってジャックさんじゃないよな?
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